第一話 ログイン
2036年8月1日
VR元年と呼ばれた2016年からこの二十年間で、VR大国となった日本。
軍事、医療と様々な面で生活を豊かにしたVR技術だが、民間、特に若者を中心になじみ深いのがVRゲームというジャンルだ。
ヘッドギアにVR技術を搭載した初のオンラインゲームから始まり、完全没入型VRまで様々な技術を利用したゲームが生まれては衰退していった。
そして今日、VRMMOの歴史に新たに名を刻むことになるゲームが発売される。
『Summoners War Online』
通称SWO。
ファンタジーとミリタリーを擦り合わせ、新しい形の戦争をコンセプトにした新世代MMOSLG
そんな謳い文句ともに発売が決定したSWOは、当初からネット上で多くの注目を集めた。
発売元であるヴァリオン社が設けている世界最大級のサーバーによる物理演算能力によって細部まで創りこまれた世界観と広大な仮想空間を実現――
サンプルとして公開されたPVでは、その圧倒的リアリティと奥深い戦略性、そして最終的に一国一城の主となれるカタルシスに誰もが好奇心をくすぐらせたという。
そんな発売前から話題沸騰中のSWOが俺、高輪海斗の目の前に鎮座していた。
「まさか、本当に当たることになるとは……」
大学二年生の夏休み。
暇を持て余していた俺は、ネット上で偶然知ったこのゲームを一目で気に入り初回生産の抽選に応募した。当然、駄目もとで応募したのだが、二週間前――実際にこのゲームが家に届いた時は、久方ぶりに興奮して眠れないという経験を味合わされた。
パッケージには青い軍服を身に纏った男女の召喚士官が描かれている。彼らがメインシナリオの主人公達だろうか。
「……ふう」
軽く流し読みした説明書をパタンと閉じる。
時計に視線を移すと、サービス開始時刻が迫っていた。
ゲームハードであるヘッドギアを頭に装着してベッドに寝転がる。
心臓の鼓動が大きく高鳴ると同時に、電源を入れた。
その直後――
世界が暗転する。