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ピタゴラスの遺言  作者: 二毛作
4/4

きっと建てたのは別の何か

実は僕にもラブコメフラグ立ってないんですが、地球そろそろバグ直ししてくれないですかね

 先ほどから彼女の後をつけているが、それと言って変わった行動は取らない。ごく普通の女子高生として、平然と帰路についている。もしかして全部僕の勘違いだったのか?いやいやだとしても、あの、謎の空間だったり、謎のサウザアラビア語については、明華は絶対に何かしら知っているに違いない。



 手にしていたアンパン全てが、僕の胃の中に綺麗に収まる頃、彼女は不意に立ち止まる。周りは閑静な住宅街で、この道は人通りも少ない、ごく普通の住宅街の一角で一体なぜ立ち止まったんだ。



「さっきからこそこそしやがって、何のようだストーカー」



 ばばばばバレた!?ばれちゃったよ、しかもあの子ちゃっかりストーカーとか言ったよね、これストーカーじゃなくて尾行だから。誰が何と言おうと尾行だから、それ以外疑いようないくらいに尾行尾行してる尾行っぷりだから!!



 だがこのまま素直に出て行く義理もない、このままジッとしていれば、明華が勘違いした、ということになるかもしれん。現に明華は、僕の方に背を向けたままだ、位置がつかめていないという線もある。



「あと、3秒以内に出てこなければ、子孫繁栄出来ないようにするぞ、ストーカー野郎」



 その希望を打ち砕くかのように。僕の隠れていた電柱の方へと体ごと向けて、こえに怒りのトーンを乗せて言い放つ。



 こぇぇぇぇ!!何でそんな考えが浮かぶの?あれだよね、女子は経験したことがないから言えるんだね!それからストーカーじゃない、尾行だ。



「い、いやだなぁ……ストーカーとは人聞きの悪い、尾行だよ尾行だよ」



 僕は誤魔化し通すのは、僕の息子の危機だと判断し、父親が犠牲になることを選んだ。息子よ強く生きろ。



「お前さっきの……それに今朝、私にタックルを喰らわそうとした奴か」



 明華は少し意外そうな顔で僕をみた。しかし、今朝の事を激しく誤解している。確かにぶつかろうとしたけども。別にタックルじゃない、プラグを建設しようとしただけだ、そこは勘違いしないように。



「いや、今朝は遅刻しそうで……」



「そんなことどうでもいい、何でストーカー行為に及んだ」



 明華さん?そんな蹴る気満々のポーズされたら言うに言えないじゃないですか。ジリジリ距離をつめるのもやめてください。それからーー



「ストーカーじゃない!尾行だ!」



 ーーそう、これは尾行だ。決してストーカーじゃない。



「ふざけるな、人のあとをつける奴のことをストーカーと言うんだ」



「違う!ストーカーとは、相手の気持ちを考えずに交際を迫ったり、付きまとったりする行為のことだ!」



 たしかなんかの授業の時に習った。一路には、お前やらかしそうだな、と言われたのを今でも覚えている。あいつの中の僕は犯罪者予備軍というか、指名手配犯レベルで変態に仕立て上げられている。こりゃ性欲お化けもびっくりだ。



「だからなんなんだ、とにかく、私が今聴きたいのは何故あとを付けてきたか、この一点だけだ」



 苛立ったような表情で訊いてくる明華、どことなく焦っているような気がしなくもない。何故付けてきたか?うーん……



「そこに明華がいるからだ?」



「やっぱりストーカーじゃねぇかコラ」



「まてまてまて!早まるな!今のは軽い冗談だ!」



 やべぇよ、本気で子孫繁栄できなくなるところだった。奴の目はマジだ、あわよくば殺されてしまう。



「ま、まぁ何と言うか、明華のアレ……なに?」



「アレ?」



 明華は眉を顰めて、怪訝そうに僕を睨みつけた。



「いや、さっきの黒服と殴り合った時に出した、あの赤い玉」



 その瞬間、明華の顔がほんの一瞬だけ変化した。



 ーーまたあの顔……



 違和感の正体、いや、違和感を見つけた原因の顔だ。なぜそんな顔をするのか、僕には全く分からなかった。いや、予測はついていて、下手をすれば正解の可能性もある。だが、今はそれを話したところで意味がない。



「……お前には関係ない」



 何故なら関係がないからだ。今彼女が言ったように、今日あったばかりのやつに話せるような内容じゃない。僕の予測はそんな優しい予測じゃなくて、もっと酷くて醜くて、どす黒い感情が渦巻くような、そんな悍ましい予測。こんなことを平然と考えついてしまう自分にも、若干の嫌気を感じる。



 だが、そんなんで引くわけが無い。知ってしまった以上、最後まで頭に入れる。否、入れなくてはならない気がしたのだ。それは至極簡単で、僕からしたら当たり前の話だからだ。



 だが。今はそれを話したところで意味がない。



 だからそれを話せるようになるまでに必要な工程、選択肢を模索して、僕は口にする。



「関係ないって、僕は巻き込まれた身だぞ?少し話くらいべつにいいだろう」



「お前はそれで何か被害を被ったのか?仮に被害を受けたとしよう、けど、生憎私も被害者の立ち位置なんだよ」



 依然として、僕を睨んだままの彼女は一向に話してくれる様子を見せない。それどころか、より深く殻に閉じこもったような印象さえ伺えた。




「ッ……け、けど、だけど、僕はアレについて知りたい。上手く言えないけど、知らなくちゃいけない気がする」



 上手く言えないわけではない。ただ、時期ではないだけであって。しかしながらそんな濁した会話で、回りくどく話していても、彼女が、話してくれる気にならないのは分かっている。



 だから厄介で、面倒なんだ……。



「知らなくちゃいけないだと?バカバカしいことを言うな、あれは私というか一人の人間のプライベートだ。そこにまで鑑賞する気か?」



「君があれをプライベートと言うのであれば、僕はそのプライベートによって被害を受けたと言い換えれる、それでも説明の義務はないと言うのか」



 自分の口調が荒くなるのが分かる。焦っているようだった。何に対してと聞かれればそれは明らかに、彼女はの態度が、まるで一変しないことに対してだろう。



「…………」



 僕のその言葉に、彼女はうつむき気味になり、その目つきも何だか力なくなっていた。諦めたのだろうか、そんな考えが頭をよぎる。



「だから、話してはもらえ…。」



「話したところでどうなるんだ」



 僕のセリフに被せるようにして、明華が強い口調でそう言った。



 明華の目が、明らかに僕を拒否するようなマイナスのオーラを放っていた。



例えるならば絶対零度の目だ、興味はゼロで、突き放す目、それに彼女にまとわり付く何かすら、僕を拒み、踏み込ませないようにしているようだった。



 いくら何でも拒絶が強すぎる。確かに彼女からすれば、僕のとった行動はストーカーに値するのかもしれない。だとしても、他にある要因が折重なり、雁字搦めになり、明華の心に巻きついているようだった。



 心臓が早く打ち付けている。僕の望んだ原因とは、程遠く、別のベクトルを向いた原因。何か、何か言わなくては、弁解するわけじゃない、ただ誤解、いやもっと違う何かを解かなくてはならない。



 なんども口を開くが、言葉のなりそこないしか出てきてはくれない。全くもってゼロだった。



 すると、彼女の目が変わる。



「お前に話したところで、私に何か得でもあるのか?」



 何もかもを諦めたような目、まるで子供をあやすかのような、残酷な目をしていた。ブレザーを着ていても、体が震える。いやきっとまだ肌寒いからなんだ。肌寒いんだ。4月なんだそうだ、きっとまだ寒いに違いない。



「ッ!……」



「話したところで私のメリットはゼロだろ?そんなことに時間を割く必要はあるのか?結局のところ、お前の言う話を聞きたいというのはただの好奇心なんだろ?人の好奇心はまるでゴキブリだな」



 吹き抜けた風で乱れた髪を、彼女は鬱陶しそうに耳にかける。見惚れていたわけではないが、なぜか何の反応も返せなかった。



「そういうことだ、私は帰る」



 明華はカバンを掛け直して踵を返し帰路につく。



「あ、ちょっ!まっ……」



 引き止めることすら出来なかった。それほど彼女の無言の圧力は重く、そしてーー



「な、なんで……」



ーーなんとも、不快だった。



 彼女の去りゆく後ろ姿をなんともいたたまれない気持ちで見送る。なにかかけるべき言葉があったのではないのか、そんな後悔にも似た感情の波が、荒くうずまき。淀みながら僕の口から、言葉とはならず言葉のなり損ないとして吐き出された。



「……ク、クソッ……」



 それが何に対しての怒りなのかはわからないが、僕の拳は、まるでギシギシと音を立ててしまうのではないか、というくらいにきつく握り締められ、眉間にはかなりのシワがよっていた。



 その行き場のわからない怒りが、永遠と腹の中を駆け巡り、吐くことすらできないゆえ、僕のこの形容し難い感情は、より高められていくのだった。



 僕は、鞄を乱暴にかけ直すと、鬱憤を晴らすかのように足元にある石を蹴飛ばす――



「ありゃ?」



――見事なまでの空振りだった。



 幸いなことに周りに人はいない、いるとすれば、僕をあざ笑うかのように鳴き続けるカラスだけだ。



「うっさいんだよカラスのバーカ!!」



 これを俗に八つ当たりと呼ぶのだろうが、こうでもしないと僕自身がおかしくなりそうだった。八つ当たりされたカラスは、一度僕を睨みつけるが、再び鳴き出す。



 無視されたようにも感じて取れるが、まぁどうでもいい、そんなことよりもだ。



 「……疼きやがる」



 僕は左目を抑えながらそう言った。それが本当に痛いのか、はたまたただの中二病なのかは、僕は知りたいとも思わなかった。


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