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ピタゴラスの遺言  作者: 二毛作
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ラブコメフラグは遠退く

書き足すのにも以外と時間使うんですねぇ〜

「新学期早々遅刻は、中々やってくれるじゃないか阿智良、えぇ?」



「いやほんとおっしゃる通りです」



 僕はただ今新しいクラスの担任となった体育の教師と同じくらい熱血であるという噂の、数学教師、長枝ナガエダ先生に絶賛、お叱られ中だ。それもまだ顔の知れぬ人達ばかりの新クラスでの教卓の前、つまるところのクラスメイトの前で説教されている。恐ろしい、実に恐ろしい。



 何だって遅刻なんてしてしまったんだ、あの距離ならば普通に走っていれば間に合っていたというのに、しかもだ、僕の作戦は失敗して、何らフラグを立てることなく、ただの蛇足に終わり、言いようのない疲労感がある。朝早起きしてたんだから、確実に間に合っていたんだよなぁ。フラグも建てられない、遅刻もして怒られるとは踏んだり蹴ったりもいいところだ。



「なんで遅れたのか理由を言ってみろ」



「ggrks」



 その瞬間、まだ慣れ親しんでいないはずのクラスが爆笑の渦に包まれた。これもしかして人気者のフラグ来たんじゃね?これは人気者になればフラグを立てるチャンスもいずれ巡ってくるのでは?巡音ルカなのでは!?いや意味わかんないから。



「ほほう、そうか貴様はこの高校を辞めたいんだな」



「嘘ですごめんなさい、調子に乗りました」



 速攻で土下座をする僕、プライドよりも将来を優先する。これ常識ね。高校退学とか笑えないから、僕将来は社長秘書になって女社長に仕えるか、アイドルのプロデューサーになるって決めてるんだからな。



「じゃぁ何なんだ、早く言え」



「えっと…………」



 あれ、これ僕が本当のこと言ってもまたふざけたと思われて、将来の夢の路線変更を余儀無くされるのでは?僕の人生の終点がお先真っ暗っていうものに変わっちゃうんじゃないの?



 だって、『美少女を待ち伏せして、そのままラブコメのごとくぶつかろうとしたところ、その子に「残像だ」と言われたから暫く放心してました』こんなこと言って信じる先生居るの?僕は信じるどころか「中二病乙」って返すよ。



 どうしたらいいんだ、この場における最良の選択肢を僕は知らない。僕の額に浮かぶ冷や汗、緊張するとすぐに顔に出るんだよな僕って。



「どうしたんだ阿智良、早くしろ時間はないぞ」



 長枝からも催促された、そんなのわかるよ馬鹿者が、なんてことは絶対に口が裂けても言えない。言った瞬間に僕の宿題の量が増えた後に、作家かよっていうレベルの原稿用紙が渡される。タイトルはきっと「やはり僕の行動は間違っている」これに決まり。



「えっと……寝坊しました」



「だとおもったよ、早く席に座れ」



 分かってるなら訊くんじゃねぇよクソヤロー!!親知らず抜かれちまえ!!と言ったような心の叫びをあげて、窓側の後ろから二番目の位置にある空席に向けて歩き出す。



「よう湊、初日から遅刻とは、まるで合コンの時にわざと遅刻して印象づけようとしてる、アホな女みたいだぞ」



 となぜかリアルな喩えをして挨拶を交わす僕の敵、つまるところのイケメン君は僕の小学生時代からの友人、いや悪友である。名前は鹿乃(カノ) 一路イチロ。高校デビューなのか知らないけど、入学と同時に髪を明るい茶色に染めて、いつの間にかワックスの使い方まで覚えていた。正直な話、もともと二重で彫りが深くて目力があって、爽やかな印象持たれてたのに、これ以上格好良くなられたら僕のラブコメフラグも建たないんですがそれは。



 ちなみに、そのイケメンで若干サディストな彼は、憎たらしいことにリア充だ、うらやま……じゃなくて爆発しろ。具体的に言うと、腹の中でテロリストが暴れてうんこ漏らす感じがベスト。うわ臭そう。



 一路の席は偶然にも僕の後ろ、窓側でいちばんうしろだなんて最高のポジションじゃないか。100円やるからその場所変われ。君は僕の体を利用して授業中に寝るつもりだろうが許さんぞ、その権利は僕が100円で買い取る。



 僕が席に着いたのを確認すると、長枝は一つ大きめの咳払いをしてから朝のSHRを再開した。



「ええと、それじゃあ今日はこのあと体育館にて全校集会をして解散となる、もう少しで放送がかかるのでそれまで待機」



 長枝氏はそういって出席簿を持って教室から出て行く、まだ慣れ親しんだ人がいない教室内は、ひそひそ話が聞こえる程度で、騒がしくなることはまだなかった。



「それで?湊よ何かあったのか?」



 後ろから方を叩かれ、振り返ると、憎たらしい笑みを浮かべて俺を見る一路がいた。何とも期待に満ちた目、ここまでビー玉のように澄んで輝いた一路の目を今まで見たことがあっただろうか。多分ないだろう。



「それがさぁ……」



 僕は一路に対して、今朝起こった出来事を洗いざらいはいた。リア充計画も、僕の隠蔽のための行動の素晴らしさも、さっき現れた、謎の美少女のことも。ついでに神は死んだことも伝えた。



 話す間、一路は黙って……訂正、笑いを必死に堪えながら僕の話を聞いていた。肩が激しく上下しているし、かみ殺している笑い声が時折漏れているのだ。



「そ、それでプクク、話は終わり?」



 目に涙を浮かべながら、一路は訊いてきた。僕は若干イラつきながらも、首を縦に降る。その瞬間、爆発したかのように一路が笑い出し、クラス中の視線を我が物にした。



 視線を独り占めした一路は、その後数分は笑いが収まる事は無かった。非常にウザったい。ヒーヒー言いながら膝を叩く姿には、手元にあるシャープペンで、手の甲を貫いてやろうかと思う。



「いい加減しつこいぞ」



 僕がそう口を挟むと一路はクククっと短く笑い、目に溜まっていた涙を拭う、リアルで笑い泣くやつ始めて見たかもしれない。



「ていうかよ、そんなもん、笑うなっていう方が無理だっつーの」



「否定しない」



 一路は思い出したのか、再び短く笑った。



「ま、お前の想像力いや、妄想力には感心させられたよ」



「言い換えただけで僕が変態になっちゃったじゃないか!」



「変態だろ?」



「ちっがーう!!」



 大声をだしながら立ち上がって教室中の視線を独り占めした馬鹿がそこにはいた。



ーーというかそれ僕なんだわ。



「か、仮に変態でも変態という名の紳士だよ!」



「ならば、貴様のフェチを言ってみろ」



「女体フェチ!……あ……。」



「変態が」



 自分自身で変態をアピールした人物がそこにはいた。



ーー涙も出ないほど哀れだった。



 そんな哀れな男子高校生、というか僕を可哀想に思ってくれたのか、体育館への案内指示が流れた。



「よーし、男女各一列で廊下に並べ~」



 若干舌足らずな話し方で長枝氏がクラスに声を響かせる。僕助かった……先ほどまでの怪しい雰囲気が無かったかのように、皆廊下に出て行く。いやー助かった。長枝氏あんたさすがだよ、さすが教師やってるだけある。はぁ、助かった助かった。



「助かってねぇよ」



「人の心を読まないでくれ」



 後ろから一路がにやけ顔で話しかけてくる。本当に怖いんだけど、何でわかったの?


 そんな僕の疑問、恐怖心が顔に出ていたのか、一路は僕の肩に手を置いてから、人差し指を自分の口もとに持って行った。



「禁則事項です」



「男のお前がやってもキモイだけだよ」



 これは男がやったらだめだは、気持ち悪すぎて公害レベル。やっぱり二次元だから許されるんだよあれは。それか美少女なら許されるかもしれない。



「知ってるよバカ」



 そんな無意味な言い合いをしながら廊下に出る。周りの目がこちらに集まるのは仕方がないことだろう。



 皆が揃ったところで、長枝氏先導のもと体育館へと向かう。はぁぁ、始業式面倒だ……僕の憂鬱な気持ちを無視して、体育館に向かう長枝氏。もう少し遅くしろマジで……さっきは感謝したけど、それとこれは別問題だ。



 ため息を吐きながら、うな垂れた瞬間、視界にチラッと見覚えのある金髪が映り込んだ。 まさか、と思い顔を上げた。それと時同じくして我々のクラスは体育館へと入るところだった。体育館では既にたくさんの人たちが集まっており、少々息苦しさを感じるほどだった。



「見ろ人がゴミのようだ!」



 後ろで一路がなんか喚いているが、僕は気にかけない。これによって彼は大声で独り言を言う頭のおかしな人へと成り下がるだろう。やだこの人怖い。



「おいなんか反応しろよ」



「…………」



 後ろから一路がちょっかいをかけてくるがこれも無視、気にしたら僕まで変人の仲間入りだ。僕がなんの反応も示さないままでいると、一路は後ろで「ないわぁ、マジないわぁ」と、ブーブー文句をいった。どうでもいいけど「マジ」って言葉を「まぢ」ってかくと一気に馬鹿みたいに感じる不思議な感覚ってらなんなんだろうね?



 指定位置に整列し終わると、僕の目は、先ほど視界に捉えた金髪の子へといった。金髪の長い髪を素直におろしている女子生徒。紺のブレザーに赤いチェックのスカート、僕の通う高校の制服である。



 というか金髪ってなんだよありなんですかそれ?確実に明るすぎやしませんかね?それともここの先生たちは優しすぎるの?



「あ、この髪地毛なんですー」



「そうなんだーうんおっけー」



 みたいな頭の中お花畑なわけ?



 そういえば今朝の厨二少女もあんな感じの制服じゃなかっただろうか、いやいや待てよ湊、そんなどこぞのエロゲみたいな偶然があるわけないじゃないか。半ば無理やりな理論だったのがいけなかったのか、僕の頭の中のモヤモヤが晴れる事はなかった。



「あ、あの先生のおっぱいでかい」



 うるさい一路、今僕は真剣に考えて……ん?おっぱい?



「どこだ」



 一路のつぶやきから僕が反応するまでに、時間という概念がなかったかのように感じるほど、人間離れした反応をした僕。我ながらアッパレ。



「うっそだよー」



 と振り返った僕を待ち構えていたのは、意地クソ悪い笑みを浮かべ、僕を小馬鹿にする一路だった。ぶん殴りたい。



「もがき苦しんで死ね」



 もういい、この集会中は僕は一路のことを無視し続ける。喩え、集会中に変な黒服の人が入って来て、一路が「逃げようぜ」とか言っても僕は無視する。絶対に。



 とまぁ、そんなあるはずもない状況になっても無地する覚悟を決めた僕は、再び視線を金髪の生徒に向けた。金髪って、生徒指導部の先生とか注意しないのかな。僕だったら注意して聞き入れなければその体におしえ……なんてお下劣なことはしないぞ。僕は女性を守る紳士なんだよ多分。



 ってそんな無駄な思考はいま関係ない。問題はあの子が、今朝のこと同一人物かどうかだ。



 しかし、この位置からでは、あの子の顔を拝むことはできない。となれば、この集会が終わったあとに教室に戻った時に確認するしかないのか。



 金髪の子について考察を繰り返していると、何時の間にか集会は終わり、僕は教室へと戻り帰りのショートホームルームを行った。明日の予定や持ち物を長枝氏が報告し終わり、ショートホームルームも終わるかと思ったのだが。



「あ、そうだ、今日の席は各々好きに座ってもらったが、正式な席は今からくじ引きで決めるからな、帰る前に一人一枚引け」



 長枝氏はそれだけ言うと、ショートホームルームを強制終了させた。



 クラスの人達は教室から出るついでにクジを引いて、書かれた番号を長枝氏に報告していた。僕のごっとハンドがその秘めた力を発揮して、美少女の隣になるように祈りを込めていた、その時である僕の中に一つの衝撃が走る。



 金髪の子がくじを引く瞬間見えた瞳の色。それは今朝の女の子と似た青をしていた。僕は暫くその場から動けずに、口を開けたままその子を見ていた。



 そうか……これが恋……じゃなくて!これって、もしかして今朝の子なんじゃないの!?何なのこのご都合主義はさ!!これはテンション上がるわ、つまりこれは、僕のリア充フラグつまりラブコメフラグが立ったという事か!



 やべー、妄想が止まらねぇ!これを気に僕はニュータイプへと進化を……



「コラ阿智良、さっさとクジを引け馬鹿者」



「へ?」



 長枝氏の声で我に返り、教室を見渡してみると、生徒は一路を含め誰一人いなくなっていた。



「ば……バカな……」



 またしても、僕はフラグをたてられなかった。



 どうしてこうなった、何故だ何が悪かったんだ。



 僕は心の中で僕自身に悪態をつきながら長枝氏のもつクジを引く。というか、僕が最後なんだから引く必要無いじゃないか。



「引いたな、よし、さっさと帰りやがれ」



「言われなくても帰ります」




 ☆★☆★☆★




 人の少なくなった校舎内を走る。そのまま玄関で靴を履き替える。しかし、思いもよらぬ人物がいた。



「なんぞあの黒服?」



 正門まえに止まっている黒塗りセダン、そこから出てきた三人の黒服。全員サングラスをしていてどこかのエージェントのよう。これは車に傷をつけようものなら、冷たい海の底へとご招待される案件だな。



「ま、僕には関係ない」



 靴を履き替えた僕は、そのまま堂々とした歩きっぷりで正門へと向かって行く。そのままセダンの横を通り過ぎようとしたときである。急に黒服の手が僕の肩のほうへとに伸びてきた。



「おい、待て」



「はい?」



 え?ぼく?なんで?ヤダ怖い、僕何もしてない。こんなのビビッて漏らしそうなんだけど。と思っていたのだが。



「お前じゃない、その後ろの奴だ」



 そう言われ、振り返るとそこにいたのは。



「なにぃぃぃ!?」



ーー後ろにいたのは、教室で見かけたあの金髪碧眼の少女だった。

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