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ピタゴラスの遺言  作者: 二毛作
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ラブコメフラグはまだですか

ファンタジーラノベだって言ってんのに、いきなりラブコメフラグとか……ヘヘッ寝ぼけたこと言ってんじゃねぇ

 4月と言えば『出会い』というワードを思い浮かべる。日本に住まう誰しもは、新学期やら新生活やらで、必然的に出会いは訪れるであろう、強制イベントに近い。



 かくいう僕、阿智良アチラ ミナトもその出会いとやらに少なからずいや、かなりの期待を抱いていた。出会いというのはいいものだ、自分の知らなかった美少女とか、もしかしたら自分のことを好きになってくれるかもしれない美少女とか、とにかく美少女に出会える可能性を秘めているんだからわくわくしないはずがないよね?おそらく日本中の高校生が一度は考えたことがあると思うんだ。



 その新しい出会いの4月。ありがちな小説の導入ならここらで、パンを加えた美少女が、どこから声を出しているのかわからないが「遅刻、遅刻~」と叫びながら全力疾走。その後、彼女は遅刻しそうなのにも関わらず、同じ学校に通う主人公はノンビリ歩いて、偶然にもそのヒロインと曲がり角でぶつかる。あわよくばそれによりパンツを見るなんて事もある。



 まぁ、ヒロインの印象付けとしてなら、在り来たりな内容だが、僕としては嫌いじゃない。



 つまり、その条件を満たせば、癖っ毛気味の僕でも、髪のいじり方を知らない僕でも、二重ですべすべの肌を持つ中性的な顔立ちの僕でも、170センチ前後と、さほど高くもない身長の僕でも、細身な僕でも。僕はその女の子と、イチャイチャウフフでにゃんにゃんな関係を築けるに違いない。



 だからこそ僕は、始業式の今日、この通学路の角でパンを咥えて遅刻遅刻~と叫んで走る少女を待ち伏せしている。



 題して『高校2年生ってギャルゲの主人公に在り来たりな設定だから、角で美少女とぶつかっちゃおう大作戦』である。ネーミングセンスがありすぎて困っちゃうぜ。



 この作戦の為に僕は朝の6時から待ち続けている。だが、だからと言って街の人に変な目で見られているわけではない、そこらへんは僕に秘策がある。制服を着て、角にそびえ立った電柱に背中を預け、携帯をいじる。他人からは待ち合わせしている学生、にしか見えないはず。なんとも完璧な演技じゃないか。アサシンのクラスに英霊として呼ばれそう。



それにしても、時間の流れとは恐ろしい。こうも美少女を待つことにワクワクテカテカしていたらあっという間に8時20分。ここから学校へは、僕の全力疾走で10分もかからない。信号を全てひっかからずに行けたなら5分で着くことも可能。僕がこの一年無駄に遅刻しそうになったわけではないのだぞクラスメイト達よ。



 僕の学校は8時30分までに学校にはいるとセーフなのだ。本来ならSHRが始まるのだが、授業に遅れなければ良いと言う、少しのお見逃しが存在している。時間帯としてはもうそろそろ来ても良さそうな物なのだが……



「い、異常事態だ……」



 ここまで完璧な準備をしたにもかかわらず、遅刻しそうな少女は見当たらない。それどころか通行人が見当たらない。ナニコレ、異世界に転生したとか無いよね?そんなことあっては困る、僕は別に魔法ぶっぱなしたいとかそういう気持ち全くないの。ただ健全に女の子とイチャイチャしたいだけなの。デートしたいだけなの。制服を着ているうちに制服デートしたいだけなの!!



 ま、まさか、その遅刻遅刻ーって言ってる少女が始まりのフラグだったと思ってたけど、もしかしてその前にもフラグが必要だった?例えば、その女の子は実は僕と幼いころに結婚のお約束をしていたとか、今日から同じ家に住むことになっていたとか。



 うそ、これにもフラグが必要なの?湊そんなこと聞いてない。幼馴染はいるけどそいつ別に引っ越したとかそういうことないし、なんだったらそいつ男だし。



 これだめだな。



 くそ、朝から待った僕の努力は徒労に終わると言うのか……仕方が無い、これが僕なんだ、いつもいつもラブコメフラグは立たないのだから。



「全く、神よ私を見捨てるのか」



 僕は大げさな身振りでそう呟いてから、疲労感がどっと襲ってきたのか、足取り重く、トボトボ学校への道のりを歩き始めた。瞬間である。



「く、くそヤバイ!!」



 何やら声が聞こえた。その声の方向にそっと目を向けてみた。そこには僕のいる交差点から二つ奥の十字路から、長い金髪を揺らしながら懸命に走る女の子の姿があった。



 もう一度言う。“女の子”の姿があった。念のためもう一度言おう“女の子”の姿が女の子。あれ興奮して意味わかんないことになった。



「う、嘘だろ……」



僕の心臓が一度だけ、強く打ち付けた後、体の末端が冷えていく気がした。そのすぐ後に、心臓が早く打ち付けているのが分かった。



 僕の両眼に映る光景。そこには、金髪の髪をなびかせ、紺のブレザーに赤いチェックのスカートという制服を来た女の子が間違い無く、確かにいた。



「つ、ついにフラグキターー!!」



 思わず叫んでしまったがこればかりは致し方がないだろう、むしろ押さえろというのが無理な話だ。さて、問題は僕が飛び出すタイミングである。一歩間違えればこの時間をすべて水泡に帰すような事になりかねない。それだけは避けたい。



 僕はその女の子にばれないように角からそっと顔をのぞかせる。女の子との距離は目測だがもう10mもない。しかしながらその女の子、なんだかいやに必至だなおい、そんなにちこくしたくないの?皆勤賞でも狙ってるんですか?まさかね?髪の毛金髪に染めてるような子が、皆勤賞ご時を気にするとは思えないし。完全に偏見だけど。ぶっちゃけ皆勤賞とか、社畜有力候補賞とか言い換えてもいい気がするの。



 おとお、そうこうしている間にもうそろそろでこの交差点に進入してくる。目測ではもう10mもない、あとはタイミングを見計らって……



ーー今だ!!



 完璧なタイミング。僕はボルトも驚きのスタートを決めて、あたかも『僕も遅刻で急いでいた』かのように角を抜けた。次の瞬間、僕の存在を視界に捉えた女の子が、驚きの表情で僕を見る。あ、女の子と目が合った。ひゃっほぉう!!



 おっと、浮かれている場合じゃない、ポーカーフェイス……は不自然だから驚いた顔をしておこう。これで完璧。ついに、ついに僕はラブコメ主人公の仲間入りだ。ありがとう、神様きっと僕の努力を見ていてくれたんだね。



 だが彼女が不思議な言葉を口にしたあと、僕は衝撃の出来事にあう。



「実体《0》」



 彼女はあきらめた世に立ち止まると、衝撃に備えて目をつむったり、体を丸めたり、そんあ人間として当たり前化のような防御反応を見せず、ただ僕を視界に入れ、まるで僕のことを睨むかのような目つきで、そうつぶやいた、そして、僕は完璧に衝突は避けられないと思っていた彼女の体を“すり抜けた”のだ。



ーーえ?なんぞこれ?



 僕はそのまま豪快にぶっ倒れると、彼女から言葉を投げかけられた。



「残像だ」



 なん……だと……。



 あまりの出来事に、僕は目を見開いたまま彼女を見る。しかし、彼女の方も驚いていたらしく、見開かれた碧眼は僕を見つめて、その見開かれた瞳には驚いた表情の僕がいた。その凛々しい目に見つめられ、少なからず僕の心拍数は上がっている。透き通るような肌をした華奢な体がふつくしい。



 というか何この子?さっきの出来事といい、この反則的な可愛さ、いやカッコ可愛さ?いやよくわからんけど、なんかパッと見は不良だよこれ。



 彼女は尻餅をついた体制の僕と目を合わせるようにしゃがみ込む。これはパンツが!?と思ったのだが、残念ながら拝むにはいたらなかった。



「なぁ、お前……ッ!」



 彼女が何かを口にする、しかし、彼女は何かを思い出したかのように、学校に向けて走り出した。どんだけ遅刻したくないんだよ。あれで顔が赤くなっていたらフラグだったんだがな……。



 僕は尻もちをついただらしない恰好のまま、その子の背中をただただジッと見ていた。見つめるというよりかは惚けていた、というのが正しいのかもしれない。彼女の美しさに魅せられたのか、はたまた別の何かかはわからない、次第に見つめていたものは豆粒のように小さくなりついには見えなくなってしまった。



 嵐の前の静けさならぬ、嵐の後の静けさ、こういう時を的確に表す言葉を生憎ながら僕は持ち合わせていない。



 そんなことよりもあの子一体何者だ、完璧なタイミングにも関わらず、僕をうまくかわしたとでも言うのか。それに「残像だ」ってどこの中二病ですか、そんなことあるわけないでしょ。



「謎が深まる一方ではないか……」



 それに加えて、彼女の放った言葉、確か「ジッタイゼロ」とかいっていた気がした、そもそも「ジッタイゼロ」って何語なんだ?サウジアラビア語とかなのか?



 今ありのままに起こったことを思い返しても、超スピードとかそんなちゃちなもんじゃない気がする。なんかもとっと恐ろしいものの片鱗を見た気がする。正確に言えばフラグクラッシュという恐ろしいもの。



 ん?あれ、ということはだよ?フラグクラッシュとかいう恐ろしいものの片鱗を見たということなら、僕の『高校2年生ってギャルゲの主人公に在り来たりな設定だから、角で美少女とぶつかっちゃおう大作戦』は失敗したことになるのか!?



 な、何てことだ!僕の崇高な計画が失敗するだと!?あり得ない、僕の努力は無駄だったとでも言うのか……ふざけんなよ!!こりゃほんとに神は死んだな、間違いない、多分闇討ち。



 閑静なる住宅街の道のど真ん中で、頭を抱え込んでもがき苦しむように転がりまわる男子高校生が、そこには居た。



 というかそれ僕なんだわ。



 しかし、人生とは時に残酷で、僕の通う学校の方角から登校完了の時間を過ぎたことを知らせるチャイムが、風に乗って僕の耳にまで届いた。



 新学期早々に遅刻する不名誉を僕は負ってしまったようだ。

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