第8話 初めての出会い
振り返るとそこには、肩甲骨のあたりまで伸びた長い金色の髪、肌の色は白く、身長は俺よりも高い人がいた。服装は、膝上ぐらいまでのスカートと金属製の鎧を着て、腰には2本の剣を携えた冒険者風の服装をしている。
ただ、一つ問題がある。それは、この人物が、
女装した、筋肉モリモリマッチョマンの変態だ、ということだ。
…おかしいだろ、ここまでは順調だった。
異世界に来たらチート性能のステータスを持っていて、いきなり不良に絡まれる。そしてここからの展開は、チートパワーを使ってこの場を切り抜けるか、誰かが助けに現れる。今回は後者だった、目立ちたくないからな。
そして、そこに現れるのは、メインヒロインだろ!どう考えても、厚化粧のゴリッゴリのおっさんじゃねぇだろ⁉︎しっかりしてくれよ。
不良たちも、まさかの乱入に開いた口がふさがっていない。もちろん、俺もだが。
「お前達、揃ってそんな顔をしてどうしたんだ?何か険悪な雰囲気だったから来てみたのだが、私の勘違いだったか?」
おお、声は少し低めだが、女性のような綺麗な声をしている。口調も女性冒険者っぽい話し方だ。目を瞑って聞いていればこんな見た目だなんて誰も思わないだろう。
不良たちは、と言うと、さっきから放心状態だったのだが、ようやく状況が理解できたのか一斉に笑い出した。
「ぶふぁはっはあははははは、お、おっさん、な、何だよその格好ww。こ、この世界の奴らは、皆そ、そんな格好をしてんのか?wwwwwww」
「キッヒッヒ、そっ、そんな格好してて、はっ、恥ずかしくねえのかよwwwwww」
「………ぶふっwww」
上から順に、不良A、B、Cである。不良C、初セリフ(?)おめでとう。
俺は、と言うと、一応俺を助けに来てくれたようなので笑わずにこらえていた。しかも、上手くいけばこの世界のことを教えてもらえるかもしれない。正直、見た目と声とのギャップは結構危なかったが、前世の知り合いで似たようなやつがいたので何とかこらえることが出来た。
助けに来てくれた人物は、不快そうに目を細め、
「今すぐ、その下卑た笑いをやめろ。そうすれば、私を笑ったことに関しては不問にしてやろう。」
と、不良に向かって警告した、が、不良たちが聞くわけも無く、
「はっ、何が『不問にしてやろう』だ。てめえみたいな変態に負けるわけがねえだろうが!」
フラグ建設、お疲れ様で~す。
不良が言い放った瞬間、助けに来てくれた人物は凄まじい速度で不良たちに肉薄すると、全員の鳩尾に的確にグーパン、肘打ち、回し蹴りをかました。ちなみに、グーパンを不良Cに、肘打ちを不良Bに、そして回し蹴りを不良Aにぶち込んでいた。
そうして不良たちをK.O.すると、今度はこちらに向かってきた。もちろん、ゆっくりと歩いて。
「お前、怪我は無いか?」
ぐっ、やっぱり自分に話しかけられるとこのギャップに耐えるのは、中々しんどい。
しかし、何とかこらえ、
「はい、危ないところを救っていただき、ありがとうございました。」
と、普通に返すことが出来た。
すると、相手は驚いた顔をして、
「お前は、私のことを笑わないんだな。初対面の人に笑われなかったのは、久しぶりだ。」
この人、大変な人生を送ってるんだな。まあそれはさておき、とりあえずこの世界のことを教えてもらう方向に話を持って行かなくては。
「俺の元いた世界の知り合いに、あなたのような、その、両性的な知り合いがいたからですかね。」
「元いた世界?と言うことは、君は最近噂されている、異世界とやらからの住人なのか?」
よし、上手くいった。
「はい、今日この世界に来たばかりで…」
「ふむ、ならば私が色々と教えてやろう。」
「本当ですか!?ありがとうございます。俺の名前は、信条 雅人と言います。マサトって呼んでください。」
「私の名前はフルトンだ。生物学上は男だ。だが、そんなことは知らん。分からないことや、困ったことがあれば遠慮せずに聞いてくれ。」
「フルトンさん、ですか。よろしくお願いします。」
「ああ、だがその堅苦しい話し方はやめてくれないか。」
「分かった。よろしくな、フルトン。」
「ああ、こちらこそよろしく、マサト。」
よし、無事に異世界の案内人を手に入れたぜ。しかもあれだけ強いんだ、色々なところに顔が利くかもしれない。中々幸先の良いスタートを切れたな。男だという部分を除けば。
初めての出会いがメインヒロインだと、いつから錯覚していた?