第1話 馬鹿は死んだら直った気になります
俺の名前は、信条 雅人。2,178年1月6日生まれ。二十歳だ。
知っての通り、今日は成人式だ。勿論俺は、異世界を希望する。
理由は、俺の今までの人生にある。
俺の人生を3文字で表せ、と言われたら「下の上」だ。
何か突出した才能があったわけでも無く、何か一つに真剣に打ち込んだことも無い。いじめられない程度に流行に乗って、なんとなくで20年間を生きてきた。
自分で言うのもなんだが、学校を卒業したら真っ先に忘れられるような人間だ。だから、ここで特筆するようなことは特に何もない。
そうこうしているうちに、そろそろ家を出る時間だ。
ちなみに、一度異世界に行くともう二度と戻ってくることは出来ない。だから、今日が親との最後の別れになる。
「じゃあ、行ってくる。今まで20年間、ありがとう。」
「はぁ~、これでやっと食事に余裕が出来るわね。」
という母親の声を聞きながら、ドアを潜った。
冷たいと思うかもしれないが、今の時代、これが普通の反応である。
優秀な子供が産まれれば、国から補助金や、補助食料が提供されるため、子供は作るが、出来損ないの子供は親からすれば、生死に関わる問題である。
(ここまでひどくなる前に、何とかできなかったのかねぇ・・・)
などと、どうにもならないことを思いながら歩いて行くと、成人式の会場にたどり着いた。
ここまで来る間に、知った顔は何度か見たが、俺には友達どころか知り合いすらいないので、「よう、久しぶりっ!! 小6以来だな!!」 みたいな会話は無い。
そして、成人式が始まったが、この時代にご馳走など用意できるはずも無く、菓子パンが1人2個と、500mlのジュースを1人に1本ずつ配られた。
はぁ~、何とも悲しい成人式だなあ。歴史の授業で習ったような成人式に出てみたいもんだ。
その後、訳の分からない長ったらしい話を聞かされた後、ついに転生の時がやって来た。
異世界転生希望者は、必要用紙の提出と、本人確認が終了した者から順に奥の部屋で説明を受けた後、転生が行われる。
その説明によると、転生後はまず、一ヶ月のチュートリアル期間が設けられるらしい。その間は自分と、NPCと、雑魚モンスターだけの異世界空間に飛ばされ、基本知識や、魔法の使い方、攻撃の仕方等を練習できるそうだ。
その一ヶ月が過ぎれば、ついに本物の異世界に行く。
チュートリアルの異世界と、本物の異世界の違いは沢山ある。出現モンスターや、広さ、他のプレイヤーの存在。
だが、最も大きな違いは、本物の異世界は体力が無くなれば本当に死ぬという点である。
チュートリアルの異世界では、雑魚モンスターにいくらやられても、復活することができるが、本物の異世界では、実際に死んでしまう。
転生者の平均寿命は、約5年といったところらしい。
(まあ、俺なら3年もてば、良い方だろうな)
と、この話を聞いた時に思った。
後のことは、一ヶ月のチュートリアル期間で学べば良い、と言って、ここまで説明してくれたおっさんが、奥にあった馬鹿でかい機械を開けると、
「よし、じゃあ、この中に入れ。転生は数秒で終わるし、特に不快感は無いから安心しろ。向こうに行ったら、ステータスとかのくわしい説明はしてくれるからな。では、健闘を祈る。」
と言って、扉が閉められた。
そして、数秒後、扉が勝手に開いたかと思うと、そこには視界いっぱいに草原が広がっていた。
「おおおおおーーー」
と、少し感動した。なぜなら、現実世界に草原はもう無く、絵や映像でしか見たことが無かったからだ。
緑の素晴らしさに浸っていると、目の前の地面からモグラのようなモンスターが現れた。
モンスターといっても、おぞましい見た目をしているのでは無く、デフォルメされたモグラといった感じのかわいい見た目をしていた。
周りを見てみると、所々に穴が空いている。このモグラのモンスターが出たり入ったりするのだろう。
「うーん、何をすれば良いのか分からないし、モグラたたきでもしてみるか。」
と、思いついた。
いくらかわいい見た目をしているとはいえ、相手はモンスター、ちょっとは強めに叩かないと反撃されてしまうかもしれない、と思い、少し振りかぶって、自分の手がモグラモンスターに当たった瞬間、
ズゴバギョーン!!!
凄まじい爆音と共に、草原、どころか地面が消し飛んだ。
俺は、というと、あれ程の衝撃だったにも関わらず、全くの無傷で、その上、なぜか空中で浮いていた。
流石は異世界、到着30秒にして俺の脳では理解できないことを平然とやってのける。そこに痺れる、憧れるぅ!!
「って、さっきの草原は?俺の愛しのモグラちゃんはっ!?」
と、今更になって失った物に気づき、落ち込む。
「ってか、今のは何だったんだ?
・・・っは!! まさか、モグラちゃんは爆弾みたいな物なのか?
そして、もし、地面のしたにモグラちゃんが沢山いたとしたら、連鎖的に爆発するから十分にあり得る。
ってことは、俺は1回死んで、生き返ったって事か。」
やべぇ、異世界に来て早々、すごい頭の回転だ・・・。ってか、生き返るとか完全にパクリじゃねえか…
「いえ、あなたは、まだ一度もしんでいませんよ。勿論、この地面もあなたがやったことです。」
と、立てた仮定を一瞬の内に否定された。
「ん?誰だ?」
と声のして方を見てみると、そこには美女が浮いていた。
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