第三話 王子様のプロポーズ
「我輩……」
「写影子、目が覚めたか?」
「えっ……!?」
我輩の目の前にはアッシュ系のショートヘアの露世がいた。
何故か、王子様のような格好をしている。
やはり、露世は若々しいままだった。
あれから十八歳ぐらいになって、さらに美形に磨きがかかっている。
我輩は、ベッドの上にいて、慌てて体を起こした。
「ろ、露世!」
「よう、久しぶりだな、月野原」
うわぁ、露世なのだわ……。
我輩は思わず、手を合わせて拝んでしまった。
詩口写実は神様にでもなったのだろうか。
我輩に、こんなご褒美をくれるなんて……!
「ここは、どこなの?」
「魔界だよ。大魔王と俺の故郷だよ」
「ま、魔界!?」
とんでもないところに来てしまった。
「そして、ここは大魔王殿だ。そして、俺は魔王ってわけだよ」
「ええええええ!?」
びっくりして、腰が抜けそうだ。
ある意味、我輩は地獄に来てしまったのだ。
「ずっと、月野原を迎えに行こうと思っていたんだけど、こっちから大魔王の秘宝の鍵は使えないんだよ。それに、俺と親父が帰ってきたら魔界は二分していて、統一するまでに時間がかかったんだ」
そうなのか。それで、露世は王子様のような恰好をしていたのか。
露世は、十八歳くらいの美青年になっている。絵に描いた王子様のようだ。
そう、これは絵に描いた餅なのかもしれない。
我輩は、残酷な現実に気付いて、から笑いした。
これはもはやあきらめの境地だ。
「どうした? 月野原?」
「運命って残酷なのだわね……」
「えっ?」
「露世は、どう見ても十八歳なのに、我輩はもう八十のおばあちゃんなのだわ」
これでは、露世と恋愛もできない。
さめざめと泣く我輩に、露世は笑った。
「じゃ~ん、これを見ろ、月野原!」
涙をぬぐって顔を上げると、露世は真っ二つになった我輩の特殊写真を持っていた。
「えっ? そ、それは、我輩の特殊写真?」
我輩がフォトリベを勧められたときに、自分で撮った特殊写真を露世にあげたのだ。
「これ、今までずっと大切に持っていてくれたの?」
「フォトリベして月野原をこちらに呼んだから、もう特殊写真は真っ二つだけどな」
我輩は目をぱちくりさせた。
「あ、あれ? ということは?」
「ほら、あっちに姿見がある」
我輩は大きな鏡の前に足を進めた。
何故か、足が軽い。
以前は走っただけで息が切れて節々が痛んだのに、今は超人のように痛みもなく動ける。
どうして……?
我輩は姿見の前に立った。大きな鏡がきらりと光を反射して、我輩を映した。
「あ……! 我輩……!」
姿見に映った我輩の姿を目の当たりにした。
我輩の姿は十六歳に戻っていた。ブレザーを着て、あの時のままに戻っていた。
「我輩……!」
我輩はうれしくて涙が目から湧いて落ちる。
「なっ? これで、俺と末永く幸せに暮らせるよな?」
「うん……!」
「写影子さん、俺と結婚してください」
「……!」
「もう、月野原は、写影子って名前が好きになったんだろ?」
露世は、いたずらに片目を閉じた。
「うん……! 我輩、写影子という名前が大好きなのだ! 露世に呼んでもらってもっと好きになったのだ!」
我輩は、露世に抱き付いて、露世と一緒に笑いあった。
そして、幸せな月日が。また、流れた。




