第十話 六章完結 さよなら
「それ、ホントに?」
我輩の気分はお手軽で、いきなり地獄から天国まで持ち上げられた気分だった。
夢見心地だった。ここから先は全て良い事しかないような気さえした。
本当に我輩と露世は両思いなのだ。
「滅茶苦茶、月野原が好きだよ。二百年生きてきた今までで一番」
「我輩も! って……えっ?」
我輩は目をぱちくりさせた。何かの冗談だろうか。
「どうした? 月野原?」
「……二百年? 十六年の間違いじゃないの?」
「二百年だよ。人間とは違って俺は年取るのがゆっくりだから」
「えっ……? 人間とは違って? えっ……?」
瞬きを激しくしても、思考が付いていかない。
ちょっと待ってほしい。一体、露世は何を言っているのだろう。
どう見ても、同い年の十六歳だ。なのに二百年生きて来たって何?
確かに、露世の髪の毛はアッシュ系だ。つまり灰色な。
もしかして、染めているんじゃなくて、白髪なのか……?
一体、露世は何者? これは、冗談じゃないのか?
大魔王の唸り声が再び聞こえてきて、我輩は状況を思い出した。
そうだ。このままだと我輩も露世も心中しなくてはならなくなる。
「おい! 大魔王!」
「なんだ、小僧!」
「相変わらず低血圧で起きたときは不機嫌なんだな!」
えっ、相変わらず!?
大魔王は閻魔大王のような顔をぐるんとさせて、再びうなった。
「お前は?」
「百年も経ったから俺の顔を忘れたか? 俺は、大魔王の息子の露世だろ?」
「えええええええええええ!? 大魔王の息子!? 露世が!?」
「ああ。月野原には言ってなかったな。俺は、大魔王の息子の露世」
「じゃ、じゃあ、有栖川総理大臣と親しかったのって!?」
「俺は戦わないけど、俺の特殊写真のシャドウはカメリア国や本日国の防衛に役立っているんだ」
「そんなに、露世のシャドウって強力な防衛になるの?」
「ああ。だから、大臣クラスの人間が俺の特殊写真をこぞって撮りにに来る。だから、最初は月野原に俺の特殊写真を使わせるのをためらったんだけど、まあ、バレてないからいいかなって」
そ、それで襲ってきたシャドウが露世のシャドウにびっくりしていたわけだ……。
今明かされる真実なのだ。
「おお! 息子の露世か! 元気にしていたか! 人間にひどい目にあわされてないか!」
「ああ、親父。みんな良い奴らだったよ! 親父。そろそろ俺と、もと居た場所に帰らないか?」
えっ? もと居た場所に帰る?
露世と自宅にでも帰るのだろうか。
その時の我輩はぼんやりとそんな気楽なことを考えていた。
「だが、あそこには帰れんだろう。鍵がないからな」
「あるよ、大魔王の秘宝の鍵がここに」
「そうか! では、一緒に帰るか!」
大魔王は大笑いして、空気を震わせた。
「じゃあな、月野原。俺、もと居た場所に親父と一緒に帰るよ」
「えっ? もと居た場所って?」
「じゃあな、俺、月野原に出会えて幸せだった」
露世が、我輩の額にキスを落とした。そして、大魔王の元に駆け寄っていく。
そうして、露世が鍵を回すと真っ白な光が辺りを覆った。
そして、露世と大魔王はこの場所から消えていた。
「えっ? 一体何が起こったの?」
我輩の横に誰かが立った。それは、我輩の兄の写影彦だった。
「露世と大魔王は異世界に帰ったんだよ。写影子」
「えっ!?」
「そして、もう今世では二度と会えない」
「そんな!?」
「俺は、写影子と露世が一緒に異世界に行くと思って、あの鍵を渡したんだけどな」
また、我輩は異変に気付いた。写影彦の姿が消えかかっている。
「ちょっと待って! なんで、写影彦さんの姿が消えかかってるの?」
「写影子が露世を異世界に帰してしまったからだよ。だから、俺はもう生きていけなくなったんだ」
我輩はぶたれたような衝撃を受けて、立ち上がろうとした。
「そんな、せっかく会えたのに! 写影彦さん! お兄ちゃん! 待って!」
「じゃあな、写影子。元気で暮らしてね」
縋りつこうとした我輩を写影彦はあっさりとすり抜けて、空気と化した。
我輩は、足を怪我していたため、激痛に襲われて再びその場にうずくまった。
とてつもなく、痛かった。
我輩は、痛くて痛くて、声をあげて泣いていた。
七章に続きます。




