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フォトリベレーション~一寸のシャドウにも五分の魂~  作者: 幻想桃瑠
◆+◆第一章◆+◆大嫌いだったフォトリベがドツボにハマるかで章◆+◆
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第七話 鑑の特殊写真?

「卑怯だよ!」


 断れば、露世の命は保障できない。そういうことだろう。

 夕焼けの赤が教室を染め上げる。その中で、鑑は計略的な笑みを浮かべた。その深い色は、我輩の世界を濁らせていく。


「やるの? やらないの?」

「分かった、やるよ。その代り、露世を解放してよね!」

「ああ、分かってる」


 我輩は、教室の扉ひとつを特殊写真に収めた。

 フラッシュを焚いた後、魔法のカメラから特殊写真が出てくる。


「光のポイントを撮ったよ。でも、真っ黒な写真でしょ?」


 特殊写真を名刺のように見せる。鑑がそれを興味深そうに覗き込んだ。

 鑑がそれを掴もうとしたので、我輩は特殊写真を持った手を避けた。

 鑑が脅してくるなら、我輩も交換条件でも提示しようか。

 たとえば、この特殊写真と露世を交換でも悪い条件ではない。こんな真っ黒な特殊写真など何にも意味をなさないのだから。


「待って、何か浮かび上がってきたよ」


 飴ちゃんの言葉に、我輩の熟考していた意識が戻った。我輩は鑑から避けていた特殊写真を持った手を自分の正面の位置に戻した。

 不思議なことに、あぶり出しの文字のように何かが浮かび上がる。

 それは人のシルエットを帯びると、ブラストヘアの茶色の髪になり、優しい人懐っこそうな顔になった。


「えっ!? 何故か鑑の写真になったけど!?」


 それは、鑑以外の何者でもない。

 上半身の学生服姿の鑑が証明写真のように写っている。

 しかし、オリジナルの鑑と差異がある箇所もある。それは、ガラス玉のような眼だ。

 このガラス玉のような瞳に、何か意味があるのだろうか。


「ホントだね。これは大変興味深い」


 入念に我輩の手元に鑑の視線が注がれる。

 我輩はこの時になって、鑑が我輩ではなく我輩の能力目当てだと悟った。

 しかし、我輩の目の奥は冷静だ。

 友達と思っていた感情も、すっかりくすんでいる。


「他のも撮ってみようか?」と、我輩は、業務的な言葉を吐いた。

「ああ」と、鑑が頷いた。


 ピンク色の光のポイント、廊下の窓一ヵ所・教室の窓一ヵ所も特殊写真に収めた。

 それも同じように、顔が浮かび上がる。

 それは、先ほどの写真と同じだった。


「三枚とも、鑑の上半身が写っているよ」と、飴ちゃん。

「これって何だろう?」


 我輩は三枚の写真を順番にめくる。

 けれども、どの写真も同じ鑑の写真にしか見えない。しかも、全て目がガラス玉だ。


「教室の扉ひとつ・廊下の窓一ヵ所・教室の窓一ヵ所を撮ったのに、なんで全部鑑の写真になるの?」


 直接撮ったら、鑑の姿の特殊写真になるのは分かる。

 しかし、鑑ではないものを撮ったのに、これは一体どうなっているのか。


「ねえ、フォトリベしてみたらどうかな?」


 飴ちゃんが、弾んだ声で言った。


「えっ? フォトリベするの?」

「だってそれって、特殊写真でしょ?」

「そ、そうだよね。特殊写真だったら、何か起きるかもしれないよね」


 この鑑の特殊写真が実体化するのかは謎だが。


「やってみて」と、鑑。

「分かった」


 我輩は、むしゃくしゃする気持ちを抑えるために深呼吸した。

 そして、気分を整えた後、フォトリベした。


 我輩は、深呼吸して平常心を保った。特殊写真は、実体化させる者の思念でも左右されるので、できる限り無心を保つべきだと推断したのだ。

 我輩は一枚目の鑑の上半身が写っている特殊写真をフォトリベした。

 途端に写真から思念が流れだし、空中で集結して模る。あっという間に、空中で鑑のシャドウが出来上がった。


「こ、これは……?」


 我輩たちは、鑑のシャドウを目の前にして困惑した。

 これは、変わったシャドウだ。

 このシャドウの鑑はオリジナル通り美少年であるが、目がガラス玉だ。

 そして、身体も上半身しかない。

 まるで、上半身だけの色つきの銅像が空中に浮いているかのようだ。


「あ、あの~、鑑?」


 我輩は恐る恐るシャドウの鑑に尋ねてみた。


『第三の問い』

「は……? だ、第三の問いって何!」


 我輩はパニックになった。

 オリジナルの鑑や飴ちゃんに視線を走らせて、助けを求めた。

 しかし、シャドウの鑑はスマホの留守録のように、こちらにお構いなしに続けた。


『昔、黒板を書くために使われた物はな~んだ?』


 シャドウの鑑が感情のない声で言った。

 我輩は反射的にシャドウの鑑の方に振り返り、激しく瞬きした。


「え? えーっ! こ、これってまさか!?」


 我輩はひとり衝撃を受けて仰け反る。


「これは、なぞなぞだね」と、飴ちゃん。

「ああ、なぞなぞだな」と、鑑まで首肯した。

「な、なぞなぞ。何で、なぞなぞなんだ? それが一番の問題じゃないか」


 我輩は頭を抱えているのに、飴ちゃんと鑑は冷静だった。


「とにかく、問題に答えなくてはいけないらしいよ」


 飴ちゃんは楽しそうだ。


「昔は、高温で熱した焼石膏で、緑色の油煙墨の塗料を塗った黒板に、文字を書いていたという」

「へー、物知りだね、鑑」我輩は素直に感心した。

「たしか、その高温で熱した焼石膏は『チョーク』と言ったかな?」

『正解。消去(イレイス)!』


 シャドウの鑑は、自ら消去(イレイス)して消えた。


「えーっ!? なんで消えるんだ!?」


 我輩はますますパニックになっていた。

 なんで、シャドウがいきなりなぞなぞを出題してくるのか。

 そして、用が済んだとばかりに消滅してしまうのか。


「どういうことだ!?」

「とにかく、メモした方が良いよ」

「そ、そうだね、メモメモ」


 我輩は、タブレットに『第三の問い チョーク』と書きこんだ。


「か、書いたよ」


 しかし、我輩は放心状態だ。


「何を意味するものか、まるで解らないんですが」

「じゃあ、この特殊写真もフォトリベしてみたらどうかな?」


 我輩は、ムッとした。


「待ってよ! フォトリベしたら、露世を返してくれるはずでしょ!」

「分かっているよ。返すから、フォトリベしてね」


 鑑は、有無を言わせずにっこり笑った。

 飴ちゃんに至っては、期待してワクワクしているのが丸わかりだ。


「まあ、露世を返してくれるなら良いけど……」


 流されるままに、我輩は例の特殊写真をもう一枚フォトリベした。

 フォトリベすると、思念が流れだした。

 その思念は鑑のシャドウへと変貌する。

 またしても、鑑の上半身だけで、目がガラス玉みたいなシャドウだ。


『第二の問い』

「第二の問いだって」と、飴ちゃんが我輩を促す。

「う、うん。メモだね、メモメモ」


 我輩は慌てて、タブレットに『第二の問い』と、入力した。


『トマトの色はどんな色?』


 これは、簡単ななぞなぞだ。


「赤い」我輩は張り切って答えた。

『正解。消去(イレイス)!』


 先ほどと同じように、用が済んだら鑑のシャドウは消えた。


「写影子、メモして」と、鑑。

「う、うん。メモメモ」


 我輩は、『第二の問い』の横に、『赤い』とメモした。

 タブレットを眺めて、我輩はうーんと目を細めた。


「第三の問いの答えが、チョークで、第二の問いの答えが、赤い」

「待って、写影子。第二の問いと第三の問いは、順番を表すんじゃない?」

「じゃあ、『赤いチョーク』ってことかな?」と、飴ちゃん。

「なるほど~。赤いチョークを探せばいいのか」

「待って、写影子」

「ん? 鑑、何?」

「第二の問いと第三の問いがあるってことは、第一の問いがあるってことだから」

「もう一枚の特殊写真をフォトリベするべきだよ」


 そういえば、鑑の特殊写真がもう一枚あった。


「分かった」


 我輩は、もう一枚の特殊写真をフォトリベした。

 それも、先ほどと同じ鑑の上半身だけのシャドウを模った。


『第一の問い』


 感情のない声で、鑑のシャドウは喋った。


「月野原さん」

「メモだね、メモメモ」


 素早くタブレットに『第一の問い』と、我輩は入力した。

 鑑のシャドウは、感情のない声で続ける。


『フォトグラン学院で、大魔王の肖像画がある教室はど~こだ?』


「大魔王?」


「本日史で習ったでしょ?」


 そう言って、鑑はタブレットで本日史のテキストを開いた。


「ここだよ。『一世紀ほど昔、我輩の自国の本日国ほんじつこくに現れた大魔王が魔法を持ち込んで世界をどん底に落とした。討伐するため、大魔王の魔法を応用した魔法のカメラが製作された。そして、自らが元になったフォトリベで大魔王は倒された。大魔王も魔法も我輩の世界から消滅した。しかし、魔法のカメラを作る技術だけは消えなかった』っていう、この大魔王だよ」


「説明ありがとう、鑑。でもフォトグラン学院に大魔王の肖像画ってあったっけ?」

「肖像画? あっ、美術室じゃないかな」と、飴ちゃん。


『正解。消去(イレイス)!』


 先ほどと同じように、鑑のシャドウは自ら消滅した。


「ということは、う~む」


 我輩はタブレットにメモした一覧を見て顎をさすった。


「問いの順番で読むと、美術室・赤い・チョーク?」

「美術室の赤いチョークじゃないかな?」と、飴ちゃん。

「それだ!」我輩は、笑顔で声を上げた。


「じゃあ、美術室に移動しようか?」と、鑑が上機嫌で言った。


 鑑は従者を先に帰し、美術室に向かった。

 飴ちゃんも鑑の後に続く。彼らの後姿を見て我輩は嘆息した。

 とにかく、露世を返してもらうまでは鑑に付き合わなければならない。

 だから、我輩も仕方なしに美術室に向かうのだった。

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