表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォトリベレーション~一寸のシャドウにも五分の魂~  作者: 幻想桃瑠
◆+◆第六章◆+◆フォトリベで後悔!? ○○は一体何者なので章◆+◆
71/86

第一話 見誤った選択

 鑑の事件があって、一か月が経過した。

 学校の夏休みが済んで、心なしか朝晩がヒンヤリしてきた時分だった。

 高等部の一年一組の教室に登校してきた我輩は、自席でカバンを下していた。


「露世、おはよう!」


 隣の席で眠そうに机に突っ伏していた露世は、ようやく体を起こした。アッシュ系のショートヘアに寝癖が付いていたので、思わず笑みがこぼれた。


「はよー、月野原。あふ……」

「昨日ね、変な人が来たのだ」

「変な人?」






 それは、昨日の夕刻の頃だ。我輩の自宅に来客があった。インターホンが鳴ったので出ていくと、見慣れない青年が突っ立っていた。我輩より五つぐらい年上だ。


「こんにちは、写影子」

「え? どちら様ですか?」


 誰だろう? このひと?

 名前でなれなれしく呼ばれたことで、我輩の警戒心はマックスになった。


「俺は、写影彦」

「写影彦?」


 写影彦。聞いたことのない名前だった。

 父方の親戚の名前には『写』が付いてるらしいが、聞いたことのない名前だった。


「だ、だから! 俺は写影子のお兄さんだよ!」

「えええええええええ!?」


 我輩は、驚倒しそうになった。お兄さんということは、血がつながっているのだろう。そして、両親かもしくは父に所縁があるのだろう。

 まさか、我輩に兄がいただなんて……!

 瞠目したまま固まっていると、兄はカバンの中をごそごそと探り始めた。


「写影子に渡したいものがあって……」

「は、はぁ……」


 渡したいもの……?


「これなんだけど」

「……?」


 手渡されたのは、何かの鍵だった。

 ま、まさか……!


「これね、大魔王の秘宝の鍵だから」

「えええええええええ!?」

「ちなみに本物だから」

「ほ、ホントに? ですか……?」

「うん。一応、写影子に渡しておこうと思って」

「そ、それは、ご丁寧にどうもなのだ……」


 いきなり現れた兄。手渡された大魔王の秘宝の鍵。

 兄の帰っていった後もしばらく街路を唖然と眺めていた。







「というわけなのだ」

「ふーん、月野原のお兄さんかァ……」


 露世は、何か言いたそうに我輩の一挙一動をうかがっている。


「隠し子なんてびっくりするのだ」

「……そうだな」

「でも、兄が来てくれたので、うれしかったのだ」

「……それで、大魔王の秘宝の鍵は本物だっていうのは?」

「これらしいけど……」


 露世の前にそれを提示した。すると、いきなり我輩の目の前で露世はパンッと手を合わせた。

 びっくりした我輩は、思わず鍵を落としそうになった。


「月野原! お願いがある!」

「え、ええ? な、なんなのだ?」


 なんとなく、クラスメイトの目が気になって。周囲を見回したが、みんなは全然気にも留めてない。我輩は安堵して、露世に視線を戻す。


「大魔王の秘宝の鍵、俺にくれないか?」

「えっ?」


 露世は手を合わせて懇願のポーズのままだ。

 我輩の額から冷汗が流れた。

 そんなに、大魔王の秘宝の鍵がほしいのか。

 そういえば、鑑の事件の時も欲しそうにしていたような……。


「どうしても必要なんだ!」


 そんなに必要なのか、この鍵が!

 我輩は、動揺してしまい返答に困った。

 我輩もこの鍵が手に入ったことで、一獲千金を夢見ていた。

 けれど、露世は何らかの事情で、この鍵がほしいのだろう。

 うーん。我輩にはこの鍵は露世ほど必要ないか……。


「う、うん。良いよ。露世にあげるよ」


 露世はバッと顔を上げた。


「サンキュ!」

「……!」


 大魔王の秘宝の鍵を受け取った露世は、すごくうれしそうに微笑んだ。

 露世が、喜んでくれたので我輩もうれしかった。

 けれど、なんなのだろう。この、選択が間違ってしまったような感覚は――。


 この時、我輩は自分の嫌な予感が正解を告げていたことを見誤っていた。

 我輩は、この選択を一生後悔することになる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ