第十三話 五章完結 騒動の後で
業者さんが来て、すぐに割れた大窓は新しいガラスに取り換えられた。眠っている鑑はベッドに横たわらせられ、布団を被せられている。お手伝いさんがせわしなく動き、我輩と露世は部屋の隅のテーブルに追いやられた。
「なんか、すごいのだ」
「あ、ああ」
我輩も露世も唖然とするばかりだ。お手伝いさんが持ってきたお茶を飲みながら、我輩と露世は彼らの一挙一動を目で追った。
まず、白衣を着た仰々しい人たちが大勢来た。研究は成功だと言って大喜びして万歳三唱していた。そして、鑑の写真をたくさん撮って、口の中の細胞を摂取すると、すぐに帰っていった。
沢山の人たちが来て喜びを語り合い、ついには大臣クラスの人まで来て、部屋の中は賑やかになった。そして、一通り喜んだあとは、潮が引いたように人がいなくなった。もう、夜だ。窓の外は暗闇が支配している。
それから、その数分後にやっと鑑が目を覚ました。起き上がろうとするので、我輩と露世が体を支えて鑑を起こした。シャドウではなくなったせいか、鏡の頬は生気を帯びて心なしか色が鮮やかだ。
彼の瞳がこちらを向く。茶色の瞳は深い知性の色をたたえ、我輩と露世を認識したようだ。
「大丈夫、鑑?」
「ああ、もう大丈夫だよ」
「夜桜も結構な苦労してそうだよな」
露世が珍しく優しそうな言葉を鑑にかけた。
鑑は自嘲したように笑った。
「僕はね、幼いころからオリジナルの夜桜鑑になるために、生き残りをかけて他のシャドウと戦わされてきたんだ」
「夜桜鑑っていったい何者なのだ?」
「夜桜鑑は、優秀なシャドウをオリジナル化するための、本日国のシャドウプロジェクトだよ」
「そんな話聞いたことないのだ」
「極秘の研究だからね」
「じゃあ、夜桜は生き残った勝者ってことか」
「そういうことだね。でも、実際、僕は優秀でも何でもない」
「えっ? そうかなぁ?」
「僕はいつも死にかけていた。けれど、みんながいつも助けてくれた」
「そっか、今回は創理さんが助けてくれたみたいなのだ」
「えっ? 姉さんが」
鑑の瞳が揺れた。
「でも、創理さんはデッドキスに捕まっているんだろ?」
「ああ、絶対に助け出す」
「我輩も協力するのだ」
「俺もしてやってもいいぜ」
「ありがとう」
我輩と露世は鑑の手を取り合って彼の回復を喜び合った。鑑の手は、血が通っているせいか温かだった。オリジナルになった鑑のことを、我輩は自分のことのように喜ぶのだった。




