第九話 この木片の使い方はな~んだ?~問題編~
今日の放課後は補習があったので、実習室が空いてなかった。
なので、にこつく川の河川敷で非公認のフォトリベ部をすることになった。
この辺のにこつく川は海の近くなので流れが緩やかだ。
今は潮が引いて、海鳥がのどかに鳴いている。
「今日は、ここでフォトリベ部するのだ」
我輩は、河川敷でも比較的きれいな場所に座った。
露世はそこにドカッと座って、手を叩いた。
「おけおけ! じゃあ、始めようぜ!」
「写影子、レイフォト撮れた?」
鑑は、しゃがみながら我輩の手元を覗き込んできた。
我輩は胸ポケットからレイフォトを取り出す。
今朝撮れた真っ黒だったレイフォトだ。
「うん、四枚撮れたのだ」
「おい、夜桜ァ!」
「っ!?」
露世の馬鹿でかい声に驚いて、我輩はそちらを振り向いた。
鬼の首を取ったような露世の表情に、我輩は嫌な予感を覚えた。
「お前、本当に夜桜かァ?」
げっ!? 露世が酔っ払ったおっちゃんみたいになっているのだ!?
鑑に絡む気満々だ。性質が悪い表情を浮かべている。
しかし、我輩でも聞きにくいことを露世は簡単に鑑に尋ねてしまった。
「……」
それを聞いた鑑は、半眼になった。
正体を現すわけでもなく、大笑いしてモンスター化するわけでもない。
ただ、鑑は半眼になった。
「……何? 僕にケンカを売ってるの?」
「も、もう、やめなよー!」
一触即発な雰囲気に我輩はあわてて割って入った。
いつも通りの鑑に、我輩は少し安心したのだが、露世が続けて核心を突いた。
「月野原のレイフォトによると、夜桜は死んだとあった」
ちょっとー!?
「……」
鑑の半眼が怖い怖い。
「じゃあ、生きているお前はニセモノだってことになる」
そうなんだけど、我輩は鑑がニセモノだとはどうしても思えない。
「写影子、本当なの?」
「う、うん」
隠し立てしてもしょうがないので、我輩は素直に頷いた。
「……残念だけど、僕は生きているよ。ずっと、このフォトグラン学院に通っているけど?」
我輩は目をぱちくりした。
この鑑がニセモノでないとしたら、一体どういうことなのだ?
「じゃあ、月野原のレイフォトがニセモノってことか? でも、感情のないレイフォトだったんだろ?」
「そうだよ、感情のないレイフォトだった」
ということは、我輩のレイフォトは真実を告げているということになる。
「じゃあ、考えられることは一つだね」
「考えられることは一つって……?」
この鑑はニセモノではない。
しかし、レイフォトは鑑は死んだとある。
しかも、感情のないレイフォトだ。
一体どういうことなのだろう。事態が矛盾している。
「と、その前に……」
あっさりと鑑がネタばらしをするのかと思ったが、鑑は自分のカバンの中を探り始めた。
「この木片なんだけど」
「ああ、鑑が預かってくれって言ったり、返してくれって言ったりしたアレね」
一体どうしたいのやら。我輩は苦笑を浮かべた。
木片にそんなに価値があるとは思えないけど。
「どうやらこれは、鍵らしい」
「鍵? この木片が?」
我輩は鑑から木片を受け取って、くるりと回転させた。
鍵? これが?
ただの木片だ。
「けれども、どうやってこの鍵を使うのかが分からない」
「確かに……」
「ただの木片にしか見えないけどなァ」
「だから、写影子なら分かるかと思って……」
うーん。
「そういえば、鑑のレイフォトが二枚撮れたのだ! これをフォトリベすればわかるかも!」
我輩が取り出したレイフォトを見て、鑑の目が輝いた。
ちょうど、レイフォトに鑑の顔が浮かんできた。
無表情のレイフォトだ。これは当たりのレイフォトだ。
「フォトリベしてくれないか?」
「分かったのだ!」
「なんか、ワクワクしてきたなァ!」
露世も鑑も楽しそうだ。
我輩もウキウキしながら、レイフォトをフォトリベしようとした。
唐突に、自動車が道に停まる音がした。
バタンと自動車のドアが開く音。そして、誰かが降りてくる音。
「露世!」
他人ごとだと思ってあまり気に止めなかったのに、それは露世の名前を呼んだ。
「げェ!?」
露世が拒絶したような声を出した。
もしかして、スマホで話していた女の人って……!?
「ええっ!? 有栖川総理!?」




