第五話 預かる? 返す?
我輩が百面相していると、インターホンが明るい調子で鳴った。
「は、はーい」
我輩は玄関先にいたので、すぐにドアを開けることができた。
するとそこには、何故か鑑がいた。
小難しそうな顔をして、鑑は突っ立っていた。
「鑑、どうしたの?」
「やっぱり、預けたものを返してくれませんか?」
「えっ? いいけど?」
我輩は首をかしげながら、二階に上がった。
預かった四角い木片を手に取ると、紙袋の中に入れる。
そして、それを持って階段を駆け下りた。
「はい、鑑」
我輩はそれを鑑に手渡した。
それを手にした鑑は、中身を確かめて笑った。
「……?」
我輩は、何故か違和感を覚えた。
しかし、顔を上げた鑑が普通に微笑んだので、その違和感も消えた。
「ありがとうございます。写影子! じゃあ失礼します」
「あ、あの、鑑?」
「……何ですか?」
「最近、危険が迫っているとか変なことはない?」
預かってくれと言ったり、返してくれと言ったり。
鑑は何を抱えて独りで悩んでいたのだろう。
鑑に危険が迫っているというのはいったい?
「何もないですよ、いたって平和ですよ」
「それならいいんだけど」
鑑はあんなに元気なのに。
「まあいいか。俺も帰るわ」
「う、うん」
露世との恋の進展はなかった。
むなしいのだ。
我輩は、玄関先でうなだれたのだった。




