第三話 夜桜鑑からの預かりもの
「仕方ないのだ。大魔王のレイフォトはまた探すのだ……」
「月野原、他にレイフォトは撮れたか?」
露世の問いに、我輩は一瞬躊躇した。他のレイフォトといえば、今朝撮れた鑑のレイフォトだ。鑑のことを心配して撮ったレイフォトだったが、彼は無事なので用無しだろう。
だから、我輩は首を横に振った。
「ううん。特に」
「じゃあ、もう、今日はお開きということだね?」
鑑は朗らかに聞きながら、フォトリベした後の破れたレイフォトを片づけている。
「そうだね。もう帰るのだ」
「じゃあ、帰るかァ」
我輩と露世は、ウーンと背伸びした。
「あ、写影子?」
鑑が思い出したように、我輩を呼び止めた。鑑はカバンを開けると、中を探っている。
「なーに? 鑑」
そして、探し当てた何かを我輩に押し付けて来た。それは、小さな紙袋に入っている。
また、鑑からのプレゼントだろうか。貰ってばかりは悪い気が――。
「これ、写影子に預かって貰いたいんだ」
なんだ、預かるのか。預かるなら別段問題はない。
我輩は、紙袋を開けて中を確認した。中には我輩の拳ほどの四角い木片が入っている。
「なんだ、コレ?」
「!?」
横から、露世がのぞき込んでいる。ち、近いのだ。
その様子を見た鑑が冷たく言い放った。
「一文字には関係ないよ」
「なんだと!」
「もう、やめるのだー」
我輩はあわてて、仲裁に入った。
この木片が何なのかわからない。けれど、早く了承したほうが二人がもめなくていい。
「じゃあ、預かっておくね」
「じゃあ、またね。写影子」
鑑と別れた我輩は、露世と一緒に駄弁りながら下校していた。
鑑から預かった木片は、全く何かわからないので、その話はそれっきりになった。
いつもの見慣れた通学路を歩いていく。
蝉が遠くでシャワシャワと鳴いている。
川辺の土手を歩いているときには、詩口写実の話題に花が咲いていた。
風で土手の草がさわさわと揺れている。
「でね、詩口写実がヤバいと思って逃げたのだ」
「あはは、そっか、嫌われていたのか。ある意味スッキリしていいな」
「アー、あのさ、月野原」
迷っていると露世の方が何か言いたそうにしている。
奥歯にものが挟まったような物言いだ。
何故、はっきりしないのかがわからない。我輩は首を傾げた。
「何? 露世」
「いや、あの……」
「あっ! 光のポイントなのだ!」
突如、白い光のポイントがふわふわとモンシロチョウのように目の前を横切った。
白い色の光のポイントは、おそらく露世のことだ。是非ともレイフォトに収めなければならない。我輩はしっかりと、魔法のカメラで白い光のポイントをファインダーに収めた。
「月野原、あのさ!」
「えっ、なに?」
「いや、あの……」
何を、言いにくそうにしているのか、我輩にはまるで分らな――。
ハッ!? これは、まさか!
我輩はカッと開眼した。
これは、まさか、愛の告白というイベントでは!?
唐突に、露世のスマホが鳴った。どうやら、電話がかかってきたらしい。
露世は仕方なく電話に出ている。
「……ああ、うん。分かった」
な、なんだ……?
「……誰からなのだ?」
「いや、ちょっと」
はぅあ!? ま、まさか!?
「もしかして、女の人?」
「ああ、うん」
「ええっ!?」
そ、それは、露世の何なのだ!?
我輩は一気に天国から地獄に突き落とされた。
我輩の百面相が面白かったのか、露世は暢気に笑っている。
「家に着いたぞ、月野原」
「え、あ、じゃなくて!」
「どうかしたか?」
ええっ!?
「いや、女の人って、詩口写実かなと思って……」
「違うけど?」
「そ、そう……」
詩口写実ではないのか。それは安心だ。じゃなくて!
我輩が落ち込んでいるのを楽しむように、露世がふふんと笑った。
「気になる?」
「ぜ、全然!」
一八〇度違う言葉が飛び出してしまうお年頃。
案の定、露世はムッと顔をしかめた。
「あ、そう! じゃあな!」
怒って帰ってしまった。
引き留めようと思ったが、告白する勇気は全くない。
露世の背中が遠ざかっていく。
「あ、あまずっぱい……あ、そうだ!」
我輩は急いで家の中に入っていった。
二階へと駆け上がる。
露世のレイフォト。これさえあれば、露世が何を言おうとしていたのかが分かるかもしれない。我輩は、露世のレイフォトを取り出して、フォトリベした。




