第十話 露世の秘密はな~んだ? 3
「じゃあ、フォトリベしてみるね」
「あ、うん」と、飴ちゃん。
我輩は一と書かれたレイフォトをフォトリベした。するとムースのような泡がクルクルと人型を象り、シャドウが出来上がった。
それは、キンキン声で大笑いした。しかし、我輩は良く見知ったその風体に驚いた。これは詩口写実ではない。詩口写実とそっくりな我輩のシャドウだ。なぜなら詩口写実はロングヘアで我輩はミディアムヘアだ。このシャドウがミディアムヘアだからこれは我輩のシャドウなのだろう。
「なんで、我輩のシャドウなのだ! なんで!?」
「さ、さぁ? でも、月野原さんのシャドウってことは、月野原さんのことだよね?」
我輩は頷いた。我輩のシャドウということは、我輩の真実を示しているということだ。つまり、露世は……。
『一。月野原写影子は。イレイス!』
「やっぱり我輩のことなのだ」
「……二枚目をフォトリベしてみる? 止めとく?」
飴ちゃんが気遣わしげに我輩に尋ねた。しかし、我輩には飴ちゃんの慮る気持ちがわからなかった。
「なんで?」
「月野原ちゃんの秘密だからだよ」と、来栖野君。
「そ、そっか……」
躊躇したが、我輩はフォトリベしようと思った。なぜなら、十中八九この秘密は来栖野君は知っているだろう。それに、飴ちゃんはきっとこの秘密を知っても秘密にしてくれるはずだ。
「じゃあ、二をフォトリベしてみるのだ」
我輩は深呼吸して胸の鼓動を落ち着けた。そして、緊張で汗ばんだ手でそれをフォトリベした。
すると、先ほどと同じような我輩のシャドウが出来上がる。それは割れるような高い声で大笑いして、ニヤニヤしながら続けた。
『二の問い。飴玉媛理が捕まった組織はな~んだ?』
「そんな嫌な思い出をなぞなぞにしないでほしいのだ」
「デッドキスだよね、それって」
答えたのは、張本人の飴ちゃんだった。我輩ははたと我に返った。
「あ、あれっ? ちょっと待ってほしいのだ。月野原写影子は、デッドキスって、ええっ!」
とんでもない事実に我輩もビックリだ。我輩すら知らなかったことなのだから。
「ちょっと待って? 露世が必死で隠して、壊そうと来栖野君に依頼したのは、我輩の秘密を守るため?」
「よかったね、月野原さん」
飴ちゃんは微笑んでいる。来栖野君も微笑んでいた。
「よかった……って、全然良くないのだ! なんでよりによって、我輩が全力で拒否していたデッドキスに我輩がなっているのだ!?」
我輩は頭を抱えた。そうやって思い悩んでいるうちに、我輩はハッとした。そういえば、思い当たることもある。
我輩が飴ちゃん救出のために、デッドキスに乗り込んでいったとき、デッドキスのナンバースリーが我輩たちを助けてくれた。我輩がフォトリベしたせいだと思っていたが、我輩がデッドキスのメンバーだからと彼が既知していたせいではないか?
「どうしよう……なのだ」
我輩は、新たな問題に胸を悩ませるのだった。
この日、我輩は飴ちゃんや来栖野君の慰めも耳に入って来なかった。悶々として、帰って来ると、露世が門のところで座って待ち構えていた。
近寄って行くと、露世は立ち上がって我輩に微笑みかけた。我輩は立ち止まって、露世を見上げた。
「露世……」
「よう、月野原。来栖野とデートはどうだった?」
露世は、我輩を探るように斜めに見ている。我輩は、露世に会って緊張の糸が切れた。
「露世ぇ~!」
我輩は、露世の顔を見るなり嗚咽を上げて、大泣きしたのだった。
その我輩の泣いてる様子に何を想像したのか、露世は額に青筋立てて激怒した。
「あの野郎! 月野原に手ェ出しやがって! ぶん殴ってやる!」
「っ!?」
ギョッとして涙が止まった。拳を手の平に打ち付けながら、般若の顔でどこかに駆け出そうとしている露世を、慌てて止めた。




