第四話 災い転じて福となす
翌日、我輩は風邪で学校を休んだ。
でも、午後にはすっかり熱が引いて元気になっていた。
だから、外から「月野原ァ」と露世の呼ぶ声が聞こえたときには、我輩は笑顔で二階の窓から顔を出していた。
「おお、露世と夜桜君~」
ちょっとかすれた声なのは、ご愛敬だ。
「ちょっといいかな?」
「うん」
それは、露世とこの間転校してきた夜桜鑑だった。ブラストヘアの茶髪に茶色の賢そうな目をした、クラスメイトの男子だ。上品でいつもアイロンをピシッとあてた制服を着ている。
夜桜君が手招きするので、我輩は玄関まで下りて行った。
「月野原、大丈夫か?」
「うん、もう大丈夫」
露世と微笑みあっていると、横から夜桜君が笑顔で割り込んできた。
「写影子、久しぶり」
「しゃ、写影子……?」
いきなり夜桜君に名前で呼ばれて、我輩はびっくりした。
夜桜君はさらりと自分の前髪を優雅に撫で上げた。
「僕は、写影子のことをしっかり調べ上げているからね。だから、写影子も鑑って呼んで?」
「え、ええっ?」
「はい、これ」
いきなりの告白に戸惑っていると、鑑が紙袋を押し付けてきた。
家電量販店の紙袋だった。
なんだ、これ?
我輩は、目をぱちくりした。
「これ、僕からのお見舞いなんだけど」
「えっ? お見舞い?」
我輩は、また瞬きする。
鑑は、我輩に小箱を手渡した。
「僕が、写影子の一番欲しいものをリサーチして手に入れたんだ」
「えっ? 我輩の欲しいもの?」
風邪のお見舞いで大げさだと思ったが、プレゼントはいつの世も嬉しいものだ。
我輩は胸を躍らせて、小箱の包みを開ける。
姿を現したのは、ピンク色の魔法のカメラだ。
最新型なのか、薄くて軽い。
露世が身を乗り出して、目を輝かせた。
「こ、これは、季節限定で百台限りの限定版の魔法のカメラじゃないかッ!」
我輩より露世の方が欲しそうだ。
えっと……。
「何で我輩がこれを欲しいと?」
「写影子が、ねごとで言っていたんだ」
「ホントかよッ! どこで調べてくるんだその情報!」
我輩の問いも、鑑の百万ボルトの微笑みで誤魔化された。
しかし、我輩は嬉しかった。物で釣られたともいう。
実は、鑑が我輩の寝言だと言ったのは嘘だった。
鑑は、我輩に特殊写真を撮らせたいのだ。だから、我輩に魔法のカメラを手渡したのだ。勿論、これは普通の何の変哲もない魔法のカメラだ。鑑の目的は別にあった。
「ええと、うん。ありがたくもらっておくよ」
「喜んでもらえて幸いだね」
しかし、この時の我輩はそれに気付いてない。
まさに、鑑の思うつぼだったのだ。
鑑は露世を振り返り微笑んだ。
露世のこめかみに青筋が立っているような。そんなことはさておき。
今日、我輩はこの瞬間をもって、魔法のカメラデビューした。
しかし、この後で我輩の身に奇妙なことが起こったのだ。