第七話 二つの能力と交換条件
どうしよう。困ったのだ。
露世の理由を尋ねるには、来栖野律雅と付き合わなければならない。
けれども、彼と付き合うくらいなら、露世と付き合いたいというのが本音だ。
露世と付き合いたいが、簡単に付き合えるぐらいなら苦労はしない。
「あれ? 月野原さん、どうしたの?」
「えっ、あ、飴ちゃん」
背後から階段を上がってきたのは飴玉媛理だった。飴ちゃんと呼んでいる我輩の男友達だ。
癒し系の微笑みを浮かべて、我輩と来栖野君を興味深そうに眺めている。
「それに、来栖野じゃないか。最近どうなの? 探偵の能力と破壊の能力は狙われてないの?」
「お、おい! 月野原ちゃんにばらしてどうするんだ!」
な、なんだ? 来栖野君と飴ちゃんは友達なのか?
しかも、来栖野君は厄介な能力を二つも持っているのか。
我輩は、瞬きして二人を交互に見つめた。
「月野原さんは、探偵の能力を持っているからね。俺も彼女に助けられたんだよ」
「ええっ! 月野原ちゃんって、探偵の能力持ってんのーッ!?」
腰を抜かしそうになりながら小声で来栖野君は仰天した。
「う、うん。なんか来栖野君も大変そうだけど……なんで、飴ちゃんこのこと知ってるの?」
「俺のシャドウってあんな能力があるだろ? だから、類は友を呼ぶかな」
類は友を呼ぶか。たしかに、現在も来栖野君は我輩という友を呼んでいるわけだ。
来栖野君は疲れ果てた様子で、髪を掻きむしった。
「うん。ああ、もう、俺、白状するわ……」
「えっ、白状?」
「俺、こんな能力があるから、デッドキスの勧誘を受けまくって困り果ててんの」
「ええっ! 四ツ葉に相談した方がいいよ!」
「四ツ葉に連絡したら、四ツ葉を手伝えって勧誘が四ツ葉から……」
「なんだって?」
「だから、勧誘を受けない代わりに、双方の交換条件を飲んで事なきを得ているというわけ」
「交換条件?」
「来栖野は、破壊の能力持っているからね」
「破壊の能力って何なの?」
「月野原さんは、探偵の能力持ってるなら、光のポイントが見えるはずだよね?」
「う、うん。色とりどりに光って見えるのだ」
「破壊の能力はその光のポイントを壊す能力だよ」
「な、なんだ……。破壊の能力っていうからものすごいのかと思ったけど」
「ものすごいよ。レイフォトは真実を喋るシャドウを作るだろ? 破壊の能力は、それを壊して真実を隠すわけだから」
「た、確かに……。依頼主とか多そうだよね」
二つも能力を持っていたら、多忙を極めそうなのだ。
「来栖野は、真実を壊すだろ。壊す前には、依頼主の真実を知る事もできるわけだ」
「だから、命を狙われたりするんだよなぁ……」
我輩以上に大変そうだ。我輩は同情して泣きそうになった。
「だから、この間、来栖野が瀕死のところを俺が例の飴で助けたんだ」
「なるほど……」
それで、来栖野君と飴ちゃんはお知り合いになったと。
来栖野君が無事でよかった。
アレ? 待てよ……?
「じゃあ、露世も光のポイントを壊してほしいと頼まれたのかな?」
「え゛?」
来栖野君の顔が面白いほどに固まった。
「だから交換条件で我輩に付き合うように?」
「い、いや、あのッ!」
この来栖野君の慌てよう、ビンゴだったみたいだ。
「あはは、来栖野は、正直だね~」
飴ちゃんは楽しそうに笑っている。
「露世の光のポイントは壊したの?」
「い、いや、これからだよ。一文字には交換条件を飲んでもらわないといけないから」
正直な人だ。チャラい人かと思ったが、苦労人で誠実そうだ。
「ちょうどいいのだ。せっかく、友達になれたんだし、露世の光のポイントまで案内してね」
「ええっ!?」
「楽しそうだね。俺も一緒に行くよ」
何故か、飴ちゃんもくっついてくることになった。
そうして、我輩と飴ちゃんは露世が彼に依頼した光のポイントまで来栖野君にくっ付いて行ったのだった。




