第六話 露世の言い分
例によって、我輩たちは部活動のように自習室に放課後集まった。いや、集まろうとしていた。しかし、今日は連辞は休みだった。どうやら、四ツ葉の捜査が忙しいらしい。今のところ何も起きていないので、連辞は学校を休んだようだ。
我輩は、実習室Cで、鑑と喋っていた。昨日、意味深な言動をした鑑だったが、今日は不審な様子もなく至って普通だった。
「あのね、写影子?」
「ん? 何なのだ?」
鑑はカバンから、封筒を取り出した。
「今度、僕の屋敷で夜会が開かれるから、遊びに来ないかなと思って。これ、招待状」
鑑は招待状の入った白い封筒を手渡してきた。
手渡す鑑は本当に嬉しそうだ。親しみをもって我輩を招待してくれたのだろう。しかし、我輩は夜会という社交界の場に恐れをなした。
「えっ? や、夜会!」
我輩は、衝撃を受けて固まった。夜会ってどんな金持ちだよ。
我輩が行ったら、場違い丸出しだ。しかも、着ていく服なんて持ってないし!
「いや、せっかくだけど、止めておくよ」
「そう……」
鑑は明らかにがっかりしている。
気まずい空気に成り下がってしまった。その時、空気を換えるように、露世が入ってきた。しかし、彼とも喧嘩したばかりだった。
「あ、あのね、露世」
「月野原、あのさ……」
「う、うん!」
もしかして、謝ってくれるのかな!
我輩はすぐに許す心構えで、露世の目を見つめた。
「悪い、月野原!」
露世は我輩の目の前で手を合わせた。
うん、良いよ!
我輩もすぐに許すつもりだった。喧嘩したのだって些細なことだった。しかし、露世は思ってもみないことを口に出した。
「何も聞かずに、こいつと一日デートしてくれないか?」
我輩は、あきれて声が出なかった。声が出たら、「ハァ!?」と思いっきり尋ね返していたに違いない。
「だ、だれと我輩がデートだって……?」
露世の横には、初対面の少年が「俺とだよ~」と手を上げていた。
「な、なんで我輩がこの人と」
「俺、来栖野律雅っていうの。よろしく~」
「なんで、来栖野君と我輩がデートしなくちゃならんのだ!」
露世は「それは……」と、言葉を濁した。
「酷いよ、露世!」
我輩は再び泣きそうになった。露世は、から笑いした。
「さあ、月野原ちゃん、行こうか~」
どこまでも軽い来栖野君に露世はついにブチ切れた。
露世は、開眼した。そして、来栖野君の襟首をひっつかんで壁にたたきつけた。
「ぐえッ! な、何するんだ、一文字!」
「いいかァ、月野原に手出ししたら命はないと思えッ!」
露世が、来栖野君の襟首をギュウッと締め付けた。
「わ、分かったって!」
我輩と鑑はその様子を半眼で見ていた。ふーん。露世も、我輩と来栖野君がデートするのは不本意なようなのだ。察するに、脅されたか弱みを握られたかってところか。
鑑も冷めた様子でそれを見ている。
「じゃあ、来栖野君。一日だけデートするのだ。行こう!」
実習室を出て行った、我輩の後を来栖野君がついてきた。
露世と鑑が追いかけてこなかった。階段のところで、我輩は来栖野君を振り返った。
「月野原ちゃん、じゃあ、フォトギルドにでも遊びに行く?」
「嫌なのだ」
「えっ?」
来栖野君が、奇妙な顔で固まった。
「露世が、どうして我輩とデートするように言ったの? 脅したの?」
「そんなことするわけないだろ!」
来栖野君は心外だといわんばかりに憤慨した。
「じゃあ、どうして? 露世は、何もないのにそんなこと言うはずないのだ」
「参ったなぁ……」
全然なびく様子もない我輩に、来栖野君は頭を掻いて困り果てている。
「分かったよ! 教えてやるよ!」
「ホント!?」
「その代わり、俺と付き合ってね?」
「だから、一日付き合ってあげるのだ」
「ううん。だから俺と交際してね?」
「ええっ! 約束が違うのだ!」
来栖野君はにんまりと笑った。我輩は思わず身構えた。
この来栖野律雅という少年。一筋縄ではいかぬようだ。
「俺と付き合ってくれるなら、全部教えてあげるよ」
露世がそんなことを言ったら、我輩は二つ返事でOKするのに。
我輩は、返答に困ってしばしの間立ち尽くしたのだった。




