第五話 夜桜鑑の誤解
その後、我輩と露世は口を利かなかった。
我輩と露世の仲を鑑が取り持ってくれるはずがない。
放課後、我輩は誰かに後を付けられていた。
怖くなって、我輩は連辞に連絡を取った。
連辞が、夜まで我輩の家の前で見張っていてくれたのだ。
その甲斐あって、我輩の身に何も起こることはなかった。
でも、我輩の後を付けた連中が、鑑の手の者だとは予想だにしない。
「鑑様。本日、月野原写影子に不審な行動はありませんでした」
「そうか。分かった」
後で聞いた話だ。
その頃、鑑はある屋敷にいた。
タブレットで本を読んでいたが、それをメモ帳に切り替える。
そこには、鑑の配下に集めさせた情報がメモされてあった。
「鑑様、そこには何が書かれてあるのですか?」
新参者の鑑の従者が、何気なく尋ねた。
鑑は、クスリと笑った。
「これ? すべて僕に関するレイフォトからの情報だよ。探偵の能力でなくても、レイフォトはフォトリベできるみたいだからね」
「そうなんですか。でも、レイフォトをフォトリベなんてスゴイですね」
だから、鑑は我輩と同じように独自でフォトリベして、情報をメモしていったようだ。
「そして、最終的に行き着いたのが、月野原写影子だ」
「彼女がまさか?」
「ああ。今日、確信を持った。彼女が黒幕だ」
鑑は怖い顔をして、壁に貼っているポスターにダーツを飛ばした。
それが、大きな我輩の顔の写真だと知ったら、すぐに誤解を解くために我輩は鑑に言い訳を並べただろう。
「僕は、許さないよ! 月野原写影子!」
鑑の思惑に全く気付かずに、我輩はこれを放置することになるのだ。
我輩の大きな顔写真がすべてダーツで埋まるまで、鑑は目の下にクマを作って恨み節を呟いていたという。
最近、夏だというのに背筋に寒気がしていたのは、彼のせいだったらしい。




