第十一話 ロングヘアの女子のレイフォトは何を示しているのか?~回答編~
連辞は仕事が休みなので呼ばなかったわけだが、呼ぶと快く承諾してくれた。
連辞は覆面パトカーですぐに現れた。大人バージョンの連辞だ。タバコをガンガンにふかしている。
「行くぞ、写影子ちゃんと野郎ども!」
「おおお!」
我輩たちは連辞の覆面パトカーに乗り込んで、ファミリーレストランに向かった。夏めいて来たので、冷房を利かしている。だから、車内は涼しい。
「そういえば、我輩の両親も開店したファミレスで食事するって言ってたのだ。たぶん詩口写実と一緒の『シャトーベル』にいると思う」
「へぇ、仲がいいんだね。写影子ちゃんのご両親って」
「うん、うちの家族は仲がいいのだ」
「……へぇ、良いね。普通の家族って」
「……ほんとになァ」
浮かれて話していたが、後部座席の露世と鑑のテンションが低いことに気が付いた。
家族の話はよくなかったのだろうか。
話の途中で、無線が入った。
『詩口写実を保護しました!』
「了解!」
道路の脇に駐車して、我輩たちは覆面パトカーから降りた。道路の中央に集まるようにしてパトカーがパトランプを光らせながら数台停まっていた。
四ツ葉の大人たちに囲まれて、女の子が後ろ姿を向けていた。
「二階堂さん、詩口写実を保護しました!」
「よくやった!」
詩口写実は、こちらに気づかずに四ツ葉たちの質問に答えている最中だ。
四ツ葉の大人たちが捌けて、詩口写実の後ろ姿があらわになった。
「えっ……?」
詩口写実の髪型はロングのストレートヘアだった。
えっ……?
我輩は自分に起きている異変に気付いた。ロングのストレートヘア。そのキーワードがやけに頭に引っかかる。
その時、詩口写実が振り返った。
「ッ!?」
我輩の心臓がドクンと上下した。我輩の眼が瞠目の限りを尽くしている。
「月野原……!?」
「なんで、写影子が!?」
そこにいたのは、確かに詩口写実だ。
ロングのストレートヘアの詩口写実だ。
しかし、奇妙なことに我輩と詩口写実の顔は我輩と瓜二つだったのだ。
我輩はドッペルゲンガーを見た時のように、腰を抜かした。
つまり、あのロングヘアの我輩のレイフォトは、詩口写実の姿を模したものだったのだ。未来を言い当てているわけでも、我輩の未来の姿でも何でもなかった。
あれは、我輩と瓜二つの詩口写実のことを表していたのだ。
「写影子とは名字が違うから他人の空似、だよね?」
鑑が戸惑ったように詩口写実を見ていたが、傍でへたり込んで後ずさりしている我輩にもっと驚いていた。
「しゃ、写影子?」
「あ……あ……!」
我輩は震えていた。
夏の日差しが届く人ごみの中、我輩は寒気を感じていた。
「月野原、大丈夫か!」
我輩がおびえているのが、露世に奇妙に映っていたらしい。
詩口写実が赤いプラスチックのふちの眼鏡をかけた。そして、こちらに歩いてくる。
「月野原 写影子さん?」
「ッ!?」
なんで、我輩の名前を知っているのだろう!
詩口写実は勝ち誇ったように笑った。自信がある彼女の眼力が我輩の表情を硬くする。
「これ、あげるわ。集めてるんでしょ?」
それは、真っ黒なレイフォトだった。
我輩はそれを受け取って、石化したように動けなくなった。
我輩の消えかかっていたトラウマに火が付いたように燃え盛る。
燃え盛って、我輩の存在を消してしまう。
「火事だ! ファミレスの『シャトーベル』が、火事だぞ!」
振り返ると、辺りは騒然となっていた。
燃え盛――えっ?
『写影子、行ってくるわね?』
『帰りは遅くなるかもしれないから』
『楽しんできてね』
今は昼時だ。だとしたら、シャトーベルの中には、我輩の両親が……!
考えるより早く、我輩は立ち上がっていた。不思議なことに抜けた腰は元通りになっていた。一心不乱に、駆けていく。
「写影子?」
「月野原! 月野原ァ!」
露世と鑑の声が背後で聞こえる。我輩は逃げる客の流れに逆らうように炎の中に入っていった。




