第八話 彼がデッドキスではない理由~問題編~
その翌日。いつもの実習室で、我輩たちは長机を前に椅子に座っていた。連辞は深刻そうにいつもの三人に告げた。冷房の音が心地よく届く中、我輩は耳を疑った。
「……えっ!? それは本当なのか?」
「ああ。小使井網羅は、デッドキスでもないしフォトリベすら知らなかった」
鑑が、驚いたように目を瞬いた。
「じゃあ、まったくの無実ってこと?」
「そういうことだな」
とても気分が消沈する情報だ。我輩は椅子の背にもたれて脱力した。
「つまりは、このレイフォトがインチキだったってことか!」
もともとお遊びのようなレイフォトなんだから、これが真実だと思うこと自体馬鹿げている。しかし、その我輩の言葉を連辞が否定した。
「いや、それはない。日付が古くて情報が新鮮でなかったということは稀にあるが、このレイフォトの情報は真実だ。だから、信用できる。そうでなかったらみんな血眼になって光のポイントを探したりしない」
露世が困ったように頭を掻いた。
「じゃあ、どういうことだ?」
「分からない」
「おいおい……」
我輩たちは苦笑した。
「真実のはずの情報が真実じゃないなんて、俺にもよくわからない」
うーん、連辞もお手上げか。禅問答のようであるから、我輩にもわかるわけがない。
けれども、八方ふさがりというわけではない。
「まあ、それはさておき。もう一枚レイフォトが撮れたんだけど」
「じゃあ、写影子。フォトリベしてみて?」と、鑑。
「うん、分かった」
我輩は、張り切ってフォトリベした。すると、思念が綿菓子のように集まって段々と形を成していく。最後には、色のついた上半身だけの制服を着たマネキンのようになった。それが抽象画のように宙に浮いている。
その男子高校生は、無表情で喋り出す。
『④。フォトグラン学院・高等部・一年二組・出席番号二十五番はだ~れだ?』
「フッ。出席番号二十五番……知らねえよォ!」
露世がちゃぶ台返ししそうな形相で叫んだ。
文句を言いながら、露世はタブレットに入力メモをしている。
「二階堂、分かる?」
鑑が露世の入力メモを一瞥して連辞に尋ねた。
「連辞!」
連辞を振り返ると、彼はスマホをいじっていた。フォトグラン学院のホームページにアクセスしているのだろう。
「ああ。フォトグラン学院・高等部・一年二組・出席番号二十五番は詩口写実だな」
『正解! 消去!』
シャドウは用が済んだらしく勝手に自ら消滅した。
「おお~。詩口写実か~」
「アレ?」
「どうしたんだ? 露世」
我輩は露世のほうに歩いて行った。
「これ、フォトリベした後に落ちていたぜェ?」
「あ、ホントだ」
我輩は、露世からレイフォトを一枚受け取った。
「写影子、何それ」
鑑がやってきて我輩の手元を覗き込んだ。
「まだ真っ黒なレイフォトなのだ」
「ふーむ。じゃあ、『☆』と『△』と『真っ黒な』レイフォトが集まったわけだ。これをどうするのかは分かったか、写影子ちゃん?」
我輩はかぶりを振った。
「ううん。全く分からないのだ」
「じゃあ、これは保留だね」
「うん」
鑑がレイフォトを我輩に返してきた。我輩はそれを受け取る。
「話を戻すけど、詩口写実って、隣のクラスにこの間転校してきた女子だろ?」
と、露世。鑑も頷く。
「ああ、そうだね。彩島騎得が言っていたよね」
隣のクラスの転校生か……。あ、アレ……?
「我輩、小使井網羅がデッドキスじゃない理由が分かったのだ!」
「「「ええっ!?」」」
にっこりと笑う我輩に、三人の視線が集まった。




