第二話 偽物? シャドウ? 露世? ロゼ?
「ただいま~」
自宅に帰ってきた我輩は、階段を駆け上がって部屋に閉じこもった。
我輩の部屋は、何の変哲もないピンクを基調としたファンシーな部屋だ。
勉強机があって、ベッドがある。こじんまりしているが、落ち着く空間だ。
ともあれ、取り出すは露世の特殊写真だ。
「ふっふっふ」
失敗は許されない。露世の特殊写真を完璧にフォトリベする。
フォトリベは、撮った者の思念と、写真を破る者の思念が、フォトリベに影響してくるといわれている。
だから、我輩の断固とした意志が、気合の入ったポーズに変わる。
「とうりゃあああああああ!」
中から煙が漂い出し、人型の形を作った。そして、露世の特殊写真はフォトリベされた。
そこに現れたのは、露世そっくりのシャドウだった。
我輩は、両手を組み合わせて歓喜した。
フォトリベサマサマだな。もう、フォトリベ大好きすぎる。したくないとぬかした奴の顔が見てみたいわ。わっはっは!
それは我輩だと自らツッコミながら、完全にフォトリベされるのを待つ。
煙が引いていくと、我輩は異変に気づいた。
「あ、アレ?」
その、シャドウの露世は鎧を着ていたのだ。
「どうした? 写影子?」
露世に名前を呼ばれて、心臓がドキドキ――じゃない。
「俺に何か用か?」
「アンタだれ?」
「ああ、俺はシャドウの、ロゼ」
我輩は目を瞬いた。
な、何で武装しているんだ?
戦国の武士のようだけど、どことなくファンタジックな。
言ってしまえば、ゲームのキャラクターみたいな。
呆気にとられている我輩が面白かったのか、ロゼはクックックと笑っている。
「な、なんで、そんな衣装来ているの?」
我輩は、人差し指を向けて尋ねた。
「なんでと言われてもな。でも、写影子に会えてうれしいよ」
「え?」
戸惑っている我輩に、ロゼは頷いた。
急に我に返ったように、ロゼは目を見開いた。
「お、おい、写影子! お前!」
切羽詰まったようにロゼは震えている。息も心なしか荒い。
「な、何!? どんな大変な事が起きたの!?」
「お前っ!」
ロゼは我輩の右肩を掴んだ。
「な、何?」
「お前っ、露世が好きすぎるあまり、ピンク色の気分で特殊写真をフォトリベしたなっ!?」
「あ!」
し、しまった~。自分の気持ちに嘘は付けなかった~。
そ、そうか。思念がフォトリベには作用するから。
「とうっ!」
「きゃあ!」
我輩は突き飛ばされて、ベッドの上でバウンドした。
身を起こして、ロゼを見る。
こ、これってもしかして、R15!?
「……う!」
「う?」
ロゼは、カッと目を見開いた。目が血走っている。
「討ち入りじゃあッ!」
「討ち入りってなんだッ!?」
恐怖している我輩の前で、ロゼは再び叫んだ。
「消去ッッッ!」
「えっ!?」
そうこうしている間に、ロゼは自ら消滅した。
先ほどの消去という呪文。あれは、たしかシャドウを消すための――いや、重要なのはそこじゃない。
「き、消えた……ってことは。しまったあッ。フォトリベ失敗したあッ!」
「写影子、うるさいわよ!」
母・羽子が一階から叫んだ。
我輩は真っ二つになった特殊写真を拾い上げた。違うところをフォトリベしてみるが、何も起きなかった。特殊写真は一回きりの使い捨てらしい。特殊写真の裏からセロハンテープでくっつけて補修する。
「露世がまた我輩に特殊写真をくれるかなぁ」
どう考えても、無理に決まっていた。
「でも、シャドウのロゼって格好良かったなぁ。また会いたいなぁ」
それに、ロゼに名前で呼んでもらえてうれしかった。
「よしっ」
再び我輩は立ち上がった。
こんなことで挫ける我輩ではない。
再び、露世に特殊写真を貰うために画策するのだ。