第十三話 二章完結 帰還
そうして、我輩と飴ちゃんはデッドキスの黒塗りの自動車に乗せられた。そうして、四ツ葉の若竹県県警本部の前に降ろされた。夕方だというのに、四ツ葉の前は記者と捜査員たちで騒然となっていて、パトカーが数台止まっていて、パトランプがチカチカしていた。
「連辞! 帰ってきたのだ!」
「え~と。ただいま」と、飴ちゃん。
連辞は呆気に取られて、開いた口からタバコを落としていた。
「しゃ、写影子ちゃん!? それに飴玉媛理!?」
あたりがざわついた。
「飴玉媛理を保護!」
「飴玉媛理、保護です!」
すぐにマスコミが飛びついてきた。フラッシュが炊かれ、記事用の普通の写真が撮られる。すぐに、我輩と飴ちゃんは連辞に四ツ葉の中にかくまわれた。
四ツ葉の中に入っていく。すると、見慣れた人影があった。露世と鑑だ。そうか、もう放課後だから、帰りに四ツ葉に立ち寄ったのだろう。
「あっ!」
こちらに気づいて、露世と鑑が持たれていた壁から身を起こした。
「た、ただいまっ」
慌てて我輩のもとに駆け寄ってきた。我輩の姿を見て、目を潤ませている。我輩は、壁に掛けられていた鏡を見た。飴ちゃんの回復の飴で元気になったものの、カサブタだらけで、服は汚れて、ミディアムボブの黒髪はボサボサになっていた。
「月野原!」
「写影子!」
「わわっ!」
我輩は二人にぎゅっと抱きしめられたのだった。
「お前無茶しすぎなんだよ!」
「本当に、びっくりさせないでくれ!」
我輩は、二人にぎゅうぎゅう抱きしめられて窒息しそうになっていたのだった。
飴ちゃんは記者会見を開き、今日一日のニュースはこれでもちきりになった。翌朝、新聞の一面に飴ちゃんのことがでかでかと載った。けれど、飴ちゃんは身代金目当てということに表向きはなっている。飴ちゃんの特殊能力のことは、今後狙われないために伏せられたのだった。
そして、その数日後。我輩は四ツ葉にこっそり表彰された。でも、あくまでこっそりだ。我輩の特殊能力も伏せられて、これからも四ツ葉に協力することになったのだ。
飴ちゃんはお菓子会社の御曹司だと記者会見でバレて、クラス中の女子からラブレターの山をもらっていた。飴ちゃんは一気にクラスの王子様に昇格。クラス中のヒーローになっていた。
「こんなところに、王子様がいたとはのう!」
「灯台下暗しとはまさにこのことよのう!」
「御意!」
闘志野さんたちは大喜びだった。
「飴玉君~!」
甘い声を出して、飴ちゃんに群がっていた。いや、闘志野さんたちに春が来て本当によかった。
飴ちゃんがクラスのヒーローになっているので、我輩たちは注目されてない。だから、我輩は堂々と特殊写真を机の上に広げていた。真っ黒なレイフォトが数枚に、絵の入ったレイフォトが一枚。
「露世、鑑、それでね」
話を切り出した我輩を前に、二人はむっつりと口を閉ざしている。しかも、我輩を見つめる目が怒っている。我輩は二人の形相に唖然とした。
「な、なんで怒っているのだ?」
「怒っているのは自分自身にだ! クソ!」
えっ? 自分自身に?
我輩は目をぱちくりさせた。
「なんで、写影子を守れなかったのかって」
「いやいやいや! 我輩、無事だし! あれから、カサブタが取れて、玉のようなお肌が……って聞いてる?」
しかし、目の前の二人はどんよりしている。
「そうだな……月野原から目を離した俺らが悪かったな……」
「そうだね……惜しい人を亡くしたな……」
「勝手に殺さないでほしいのだ!」
「そうだな、俺でも守れなかったんだから、四ツ葉のメンツ丸つぶれだ」と、連辞が後ろからやってきた。ポッキーを一本タバコのように口にくわえてご機嫌斜めだ。
「まあ、四ツ葉でも守れないんだから、仕方ないかァ!」
「そうだね! 写影子がこれから気を付ければいいことだし!」
急に開き直りやがった。二人は気を取り直したように朗らかだ。
「もう三日ぐらい悩んでほしかったのだ。まあいいか。それでね!」
我輩は、レイフォトを取り出した。
「連辞がくれた特殊写真が浮かび上がって、高校生ぐらいの男子の姿になったのだ!」
「月野原の知っている人?」
「いや、全然知らないのだ!」
「アレ? この特殊写真……」
後ろから毛色の違う声がかかり、我輩はギョッとした。
し、しまった! 教室ということを忘れて大きな声を出しすぎた!




