第十二話 雷雨と鬼瀬と写影子
レイフォトを破って、出てきたのは二十代ぐらいの男だった。
今までにないレイフォトのフォトリベに我輩は驚いた。
従来は、銅像のような上半身だけの魂のないような両眼が特徴だ。
しかし、この男は目には力があった。あまつさえ、全身姿だった。
そして、彼は縦じまの黒スーツに身を包んでいた。
彼は、全身打撲の我輩を目を吊り上げてにらんでいる。
「雷雨」
その男は冷めた目をして、後ろ姿で雷雨を呼んだ。
えっ? この人は、雷雨を知っている……?
なぜという答えは、雷雨が大笑いしたので、いやな予感とともに理解した。
「ハハハハハ! このお方は鬼瀬様だ! デッドキスのナンバースリーのな!」
「っ……!」
やはり、仲間なのか!
「いいことを教えてやろう! 光のポイントは自然に作られるものもあるが、『罠の能力』でわなを仕掛けることもできるんだぜ!」
罠の能力。そんなものがあったのか。
七色の教室のトラップやカラスのトラップも人為的に作られたというわけだ。それにまんまと我輩たちが引っ掛かったというわけだ。
「ジ・エンドだ」
雷雨が本日刀を振りかざした。我輩は力なく目を伏せる。
「雷雨」
「なんですか、鬼瀬様。今、一番いいところなんですから」
「お前はクビだ」
「えっ!?」
雷雨はひときわ驚いている、
なんなのだ? 仲間じゃないのか?
我輩は雷雨と鬼瀬をぼんやりと眺める。
「えっ! まさか、こいつはシャドウ!」
もしかして、我輩は完璧にフォトリベできたのか?
雷雨は後ろに飛び退いて、消去の呪文を放った。
「消去!」
しかし、鬼瀬は消去されない。
「えっ!? き、効かない!? なぜだ!? 俺の消去は完璧なはずだ!」
「教えてやろう。なに簡単だ。『本物の俺』がトラップを作るときにその中に入ったからだ」
鬼瀬が、シャドウの特殊写真をフォトリベした。鬼瀬の顔をした二匹の鬼が雷雨の両腕を両脇からつかんだ。雷雨の本日刀がむなしく落ちて転がる。
「連れていけ」
「お、鬼瀬様どうしてですぅ!? 鬼瀬様ァ!」
雷雨は引きずられるようにして去っていった。
「飴玉、回復の飴を写影子様に」
「えっ!」
飴ちゃんは、写影子様と呼んだこの男に驚いている。満身創痍の我輩も驚いていた。
「早く!」
「は、はい」
泣いていた飴ちゃんは、我輩に回復の飴をくれた。我輩は力なく口を開けて、飴を転がす。すると、徐々に元気になってきた。
強力な回復力を持つ飴だ。二階ぐらいの高さから落ちたのに、徐々に体の痛みがなくなってきた。
この回復の飴が数十億で取引されるというのも頷ける。飴ちゃんは、この特殊能力があるせいで、付け狙われているのだろう。
「月野原さん、大丈夫?」
「飴ちゃん、ありがとう」
「何言ってるんだよ! お礼を言うのは俺のほうだから!」
飴ちゃんは我輩を抱きしめて、大泣きしていた。
我輩のやり取りをデッドキスの手下たちが戸惑ったように見ている。
その前で、鬼瀬が声を張り上げた。
「一同、整列!」
その声に答えるように、手下たちは整列する。
まるで軍隊のようにきびきびとしている。
「写影子様と、飴玉媛理を四ツ葉の前までお見送りしろ!」
「は、はいッッッ! かしこまりましたッッッ!」
我輩は、満身創痍で鬼瀬を見つめた。なぜ、この男は我輩のことを知っているのだろう。
それに、写影子様って……。
再び、鬼瀬が我輩のほうに近寄ってきた。
強力な回復の飴の力で、我輩はすっかり元気を取り戻していた。
「鬼瀬!」
我輩が呼ぶと、鬼瀬はうれしそうに振り返った。
「なんで、我輩のことを知ってるんだ!」
「さあね」
「とぼける気なのか!」
食って掛かる我輩に鬼瀬は朗らかに笑った。
何がそんなにおかしいのだろう?
「そんなに不思議なことではありませんよ、写影子様」
「えっ? どういうことなのだ?」
「俺の特殊写真を破るときに、写影子様がご自分たちを助けるように念じられたから、それが形になったのでは?」
「えっ?」
我輩は、固まってしまった。振り上げた手を力なく下ろす。
そういえば、我輩は、助かるように強く念じた。
けれど、この鬼瀬は本物――オリジナルだ。
果たして、我輩の思念が鬼瀬に効果をもたらしたのだろうか。
あくまでも優しい笑みを浮かべる鬼瀬に、我輩はとまどっていた。




