第九話 大山鳴動して鼠一匹?
「ええと。ちなみに、我輩は『三』のレイフォトをどうすればいいのだ?」
鑑が手を出した。
「一文字、メモを見せてくれ」
「お、おお」
露世は慌ててカバンの中から、タブレットを取り出した。そして、みんなに見せながらうなっていた。
「『一。虹色の光のポイントにおける十枚のレイフォトを』『二。二枚まとめて一度にフォトリベしろ』だからァ……」
鑑は頷いて、手で二をあらわした。
「二枚ずつあるはずの『一』から『五』の数字を、二枚ずつ一度に破ればいいんじゃない? 『五』はまだ一枚集まってないけど」
「ということは、『三』も、二枚一度に破るってことじゃないかなァ?」
「なるほど、『三』を二枚一緒にフォトリベしてみるのだ」
我輩は、『三』のレイフォトを特殊写真を、勢いよく二枚一度にフォトリベした。
すると、またしても飴ちゃんのあのシャドウが現れた。
またしても、何かが落ちて金属音が鳴った。
「ま、また、ロッカーのカギが出てきたのだ!」
そして、飴ちゃんのシャドウは問答無用で喋り出す。
『三。間の駅の。消去!』
用が済んだとばかりに、飴ちゃんのシャドウは消滅した。
「今度は大丈夫だ。しっかりメモだ」
惑わされなかった露世は、しっかりタブレットに入力している。
我輩もしっかりと、鍵を拾った。
「できたぜェ」
露世はみんなにタブレットを見せた。
「『一。あらぶる駅と』『二。いきどおる駅の』『三。間の駅の』『四。ロッカーの中』ということは……えっ?」と、露世。
「あらぶる駅といきどおる駅の間の駅って、にこつく駅なのだ!」
にこつく駅とは、我輩や露世の住んでいるにこつく市だ。にこつく市には、フォトグラン学院もある。
鑑はげんなりしている。
「はは……。つまり、遠回りさせられたわけだね……」
「じゃあ、にこつく駅のロッカーをこの鍵で開ければいいってわけだね」
我輩はロッカーの鍵をチャラチャラさせた。
「連辞ィ、そういうわけなんだが」
露世が傍観している連辞を振り返った。
みんなの視線が彼に集まる中、連辞はおいしそうにタバコをふかしていた。
「よくできました。じゃあ、行くか」
「うん!」
我輩たちは連辞の覆面パトカーに乗って、にこつく駅まで連行された。
にこつく駅のコインロッカーの番号を四ツ葉の捜査員が探し出して開けている。数日経っているらしく、ロッカーのカギが開くまで小銭をたくさん入れていた。
「あ! 二階堂さん、開きました!」
捜査員は嬉々として振り返った。
「おお、開いたか!」
連辞がロッカーの扉を開けた。
「カァ~!」
「え゛?」
「ん?」
「あ?」
かわいらしい鳴き声が聞こえてきたかと思うと、ロッカーの中からカラスが飛び出してきた。
「な、なんだ!?」
「ぎゃああああああ! カラスなのだ!」
我輩は悲鳴を上げた。我輩はカラスが苦手だった。
連辞や我輩たちは目を丸くしている。カラスが飛び去る瞬間、我輩は見た。
「連辞ぃ! あのカラスが虹色の光のポイントなのだぁ!」
「ナニィ! 確保だァ! あのカラスを確保だァ!」
そして、連辞が四ツ葉に連絡して、捜査員がにこつく駅に集まってきた。
事件でも起きたのかというぐらいの騒々しさだ。
「思ったんだけど、普通に捜査して手掛かりないのかなァ……」
「ニュースによると、手掛かりはまだ見つかっていないらしいよ……」
「ふーん……」
二人はなんだかダルそうだ。
鑑も露世もわきによけて、捜査の様子を傍観している。
「でも、大山鳴動して鼠一匹ってまさにこれだなァ。ネズミじゃなくカラスだけどね」
「いや、意味がちょっと違うと思うよ。前触れの結果ばかり大きくて、実際の結果が小さいことのたとえだから」
「ん? そうか? あれ? 月野原はどこ行った?」
「ん? 写影子?」
やばい、見つかった! こっそり帰ろうと思ったのに!
「そ、そろそろ、我輩帰るのだ……はは……」
「写影子ちゃん!」
そ知らぬふりをしている我輩の肩を、背後から連辞の手がつかんだ。
「ふぎゃ!?」
我輩の悲鳴がのどの奥ではじけた。
ホラーなのか! ホラーなのか!?
「写影子ちゃん……」
「な、なんなのだ……?」
「明日までにカラスた~くさん捕まえているから、虹色の光のポイントがあるカラスを探し出す手伝いしてね~……?」
「な、なんで我輩なのだ?」
「探偵の能力のある捜査員はみんな忙しくて、写影子ちゃんしか頼める人がいないからだよ」
「……ッ!?」
連辞がにっこりして言ったので、我輩は涙目になった。
「わ、分かったのだ……!」
飴ちゃんのためなら涙ながらに頑張ろうと思う、けなげな我輩なのであった。




