第八話 ロッカーの中にあるもの?
連辞が、我輩と露世に鑑を校舎の外に連れ出した。外は夕暮れ時で、下校途中の学生たちが散見している。
ひと気のないところに連辞が連れてくると、黒い自動車が停まっていた。
「消去!」
高校生の連辞は、勝手に消去の呪文を唱えて消滅した。
「連辞が消えたのだ!」
「あ、ああ!」
びっくりしている我輩たちの横で、黒い自動車の窓が自動で開いた。
運転席にいたのは、高校生の連辞ではなく、二十歳過ぎの連辞だった。制服ではなく、黒いスーツを着込んでいる。
「あ、連辞!」と、我輩は指さした。
「えっ? この人が連辞なの?」
「大人版の本体の連辞だよ。消えた高校生のほうがシャドウなのだ」
露世と鑑は戸惑っている。
一応、以前説明したのだけど、実際に聞くのと見るのでは違うようだ。
そして、この黒い自動車は覆面パトカーらしい。
「よう、お待たせ。さ、現場検証に行くから、三人とも乗れ?」
「現場検証?」
我輩は驚いたが、すぐにそれは好奇心にすり替わっていた。
「現場検証とは面白そうなのだ。我輩行くのだ」
「僕たちも行こうか……」
「お、おお……」
助手席に飛び乗った我輩の後ろに露世と鑑が収まった。
そして、自動車は発進した。
「えーと。現場検証ということは、あらぶる駅といきどおる駅に行くの?」
「そゆこと」
連辞はタバコを吸ってご機嫌だ。
「えっ、でも?」
我輩はちらりと後部座席の露世と鑑を振り返った。
「現場には何もなかったんだよね。なんでなのだ?」
「なんでだ、連辞ィ?」
「まあ、いいから付いて来な」
我輩たちは連辞の覆面パトカーに乗せられて、あらぶる駅までやってきた。
夕暮れ時なので、帰宅途中の客で混雑していた。学生たちやサラリーマンたちが思い思いの方に向かっている。コインロッカーのほうに行くと、制服を着た四ツ葉が番をしているので、彼らの視線がそちらにくぎ付けになっていたが、やがて興味を失って通り過ぎていく。
「それで……」と、我輩は切り出した。
「連辞は、あらぶる駅になにかあると?」と、露世。
「そういう考えなの?」と、鑑。
我輩の目の前には、ロッカーが並んでいる。鍵を抜くと、一日三百円で使用できる便利なコインロッカーだ。
あの鍵のあるコインロッカーの前では、四ツ葉の捜査員が見張りをしていた。連辞が来ると、敬礼をしている。
連辞は彼らに軽く挨拶をして、財布から小銭を取り出した。
「この中にあるものは、俺の予想だとアレがあるはずだ」
アレ? アレって何なのだろう? やけにもったいぶるなぁ。
不満たらたらに目くばせしあう我輩たちを後ろに、連辞は百円玉を三枚入れた。
昨日、捜査で開いたばかりなので、三百円だけで開くらしい。
そして、鍵を回すとロッカーの中は連辞の言った通り空だった。
「うーん、からっぽだねぇ」
「見事に何もないねェ」
鑑と露世は四角いロッカーの中をまじまじと覗いて嘆いている。
しかし、我輩だけは目の覚める思いだった。
「連辞は、これが言いたかったんだね!」
「えっ!? 月野原?」
「写影子?」
驚いた露世と鑑が振り返った。
「そ、そうか……!」
我輩の視線の先に気づいた鑑がつぶやいた。
そんな、鑑に露世が驚いている。
「な、なんだ、夜桜までわかったのか?」
「何もなくても写影子だけには見えるものだ」
その鑑の言葉に露世もハッとしたようだ。
「そうか、光のポイント……!」
露世のつぶやきに答えるように、我輩は頷いた。
「そうなのだ。このロッカーの中には、虹色の光のポイントがあるのだ!」
連辞は、おいしそうにタバコをふかした。
「ビンゴだな。俺の予想通り」
我輩は、さっそく特殊写真に収めた。
そして、いきどおる駅のコインロッカーの中にも、虹色の光のポイントが存在した。
それもしっかりと、我輩はレイフォトに収めた。
次第に、その真っ黒なレイフォトから次第に絵が浮かび上がってきた。
「これは……! 二枚とも『三』の番号の特殊写真なのだぁ!」
我輩は得意げにそれを見せびらかした。
「やったな! 月野原!」
「さすがだ、写影子!」
捜査の突破口が次第に開いてきた。
我輩は、みんなと顔を見合わせて笑いあった。
「さあ、次を頼んだよ、写影子ちゃん!」




