第七話 手掛かりは○○
その翌日の放課後、我輩たちは例によって自習室に集められた。
我輩は朝からそわそわして連辞に捜査結果を聞いたのだが、人目が気になると乙女みたいなことを言うので、放課後まで持ち越しになっていた。
「それで、捜査結果はどうだったのだ!」
我輩は自販機で買った炭酸グレープのジュースを一気飲みして、連辞が座っている長机の上に力任せに置いた。
いきなり、露世が我輩の頭をくしゃくしゃに撫でたので、我輩の思考はこちらに移った。
「月野原、酒飲みみたいだなァ」
「炭酸では酔えないのだ」
「ちょっと、捜査結果を調べていたんだけど、ニュースにはなっていないみたいだったよ?」と、鑑が涼しい顔で言った。
「ああ、捜査は空振りだったんだ」
いきなりの連辞の声に、我輩たちの視線はくぎ付けになった。
我輩は目をぱちくりさせた。
「えっ? 空振り?」
「何もロッカーの中になかったってことなのか?」
露世も納得いかないようだ。
「ああ、何もなかったな。二つとも鍵は開いたんだが、二つのロッカーの中は空っぽだった」
連辞は手持無沙汰にポッキーを口にくわえている。
「ところで、写影子ちゃん。虹色の光のポイントにおけるレイフォトはあれからあったか?」
「んーん。全然なかったのだ。他の光のポイントはあったけど、真っ黒なレイフォトのままだから、今は関係ないかなと思う」
我輩は、真っ黒なレイフォトを長机の上に置いた。みんなの視線がそちらに注がれる。
真っ黒なレイフォトは時間が経つと絵が浮かび上がってくる。今は関係ない事柄なので、浮かび上がってこないのかもしれない。
「捜査は振出しかァ……」
露世が我輩の撮った真っ黒なレイフォトをピラピラさせて嘆いている。
「クソ!」
連辞がいきなり長机の上をグーでたたいたので、我輩はのけぞった。露世や鑑も瞠目している。
我輩は、のどのつっかえを嚥下した。
さすがは四ツ葉だ。
連辞は人生に疲れ切った顔をしているが、それだけ真剣に捜査に向き合っていたのだ。
仕事熱心な刑事の鏡だ。良い大人の見本だ。
そんな連辞に、我輩は尊敬のまなざしを向けた。
「クソ~、タバコ吸いてぇ!」
連辞は歯がゆそうにポッキーをポキポキ噛んでいる。
「そっちかッ! 心の中で称賛しまくった我輩はどうすればいい!?」
「クソ、この体が高坊だからタバコ吸えなくてイライラするぜ!」
「思ったんだけど、本体で吸えばいいんじゃないかな? 本体は大人なんだから」
半眼の鑑の冷静な突っ込みに、連辞は手をポンと打った。そして、ポッキーをおいしそうに食べだした。
こっちの連辞を遠隔操作している本体は、タバコを吸い出したのだろう。
「それで、どこまで話は進んだんだっけ?」と、連辞。
「「「オイ……」」」
急にご機嫌になった連辞を前に、我輩はドッと疲れた。
「だからァ、虹色の光のポイントが全然見つからなくてだなァ!」
「ロッカーの中にも何もないってことだから」
「捜査は振出しってことなのだ!」
連辞はポッキーを再び口にくわえると、椅子から立ち上がった。
「よし! 写影子ちゃん、俺と付き合え!」
「は、ハァ?」
露世がびっくりしている。
「な、なんで……」
我輩も、いきなり告白されて戸惑うばかりだ。
「そうだ、写影子は僕のものだからな」
「違う! どさくさに紛れて、鑑のものにしないでほしいのだ!」
「そう、違う。俺が言いたいのは、今からある場所に付き合えってことだ」
「えっ? ある場所に?」
我輩は目をぱちくりさせた。
露世も鑑も戸惑ったように顔を見合わせていた。




