6話 購入当日 家電販売店にて (1)
エレベーターでガイノイド販売フロアに向かう。
今の時間は途中階に止まらずガイノイドアンドロイド販売階とさらに上層にあるシネコンのみの運行だ。
僕は迷わず販売フロアへのボタンを押した。
ガイノイドの販売フロアは6階。
液晶パネルのフロア表示が一つ一つと上がる度に体が少しずつ軽くなっていく。
円筒型コロニーの特徴で遠心力を利用して疑似的に重力を再現しているから高度があがる度に遠心力の影響が弱くなるんだ。
たどり着いたのは白く清潔感にあふれたフロア。
先ずトイレへ。
緊張をほぐす為と言うのもあるが何よりカウンセリングは結構時間がかかるうえ、電脳空間にダイブする関係で尿意のコントロールができないんだ。
そうして販売エリアに入るとガイノイドに案内されカウンセリングルームへと向かった。
ココでは電脳空間に意識を移し深層心理と表層心理の両方を同時に観測することでより正確なカウンセリングを行える。
そしてカウンセリングと同時にガイノイドやアンドロイドを購入するにふさわしいかと言う検査も兼ねている。
と言うよりも本来の目的はその検査が主でこれは購入する際全員が受けなければならない。
あくまでカウンセリングはそれに付随したサービスなんだ。
何せアンドロイドの頭脳である量子コンピューターやAIさらには動力源である超小型相転移炉やその表皮を覆う生体ユニット、骨格である疑似生体金属など国家機密に類する物がいたるところに使われている。
それを国の補助金を使って購入するというのだから検査が厳しくなるのは当然だ。
「それではこちらにどうぞ。」
通されたのはL字型の卵を想起させるポッド。
以前は頭にかぶるヘッドギア型のユニットがずらっと並んでいたらしい。
でも置き引き被害やわいせつ行為その他のトラブルが続出したため、このポッド内で電子空間に接続するようになったそうだ。
「カウンセリングルームへようこそ!」
ポッドに入ると落ち着いた女性の声で案内される。
同時にポッドの正面にある液晶画面が青地に白抜きで声と同じ文字が並ぶ。
音声が進むと同時にポッドの扉が閉まり、ロックがかかったことを示す音が鳴る。
これでもうカウンセリングが終わるまで外から開けられることは無い。
「これから貴方は電脳空間にダイブし適性検査とガイノイド適合カウンセリングを受ける事となります。」
「また、ダイブ中は体が脱力しますので無理のない姿勢でダイブしてください。」
僕は表示に従うがまま上着を脱ぎポッド内にあるハンガーにかける。
かばんも同様だ。
「背もたれはヘッドギア側面のダイヤルで調節できます。ヘッドレストは手で稼働させてちょうどいい位置に調節してください。」
背もたれを完全に倒しヘッドレストをいつも使っている枕と同様の高さまで引き上げる。
「準備できましたか?準備ができ次第ヘッドギアを装着してください。」
声にしたがい僕はヘッドギアを装着した。
ヘッドギアが作動し始める。
かすかな振動と作動音がした瞬間意識がふっと遠くなる。
しろい。
何所までも白く暖かい空間に僕は浮かんでいる。
手足の感覚はぼやけてよく解らない。
半分寝ているような起きているようなぼうっとした感覚。
「これから適性検査とカウンセリングを始めます。検査と言っても難しい事はしませんからリラックスして聞いてくださいね。」
聞き覚えのある穏やかで優しい声が僕を包み込む。
「まず、適正検査から始めます。こちらから幾つか質問をしますのでそれについて色々と連想してください。」
「声に出したり意見にする必要はありません。ただ思いつくままに考えるだけでいいんです。」
「貴方はこれからガイノイドと結婚します。これについてどう思いますか?」
声に導かれるまま僕はガイノイドとの結婚について想像する。
僕に合わせて選ばれたガイノイド。
理想の容姿と性格。
人間では習得に一生かかるような能力や資格で僕を私生活だけでなくビジネスでも完全にサポートしてくれる存在。
そんな素晴らしい存在との結婚は僕の人生を何よりもすばらしい物にしてくれるだろう。
父や母それ以外にも社会を構成する多くの人々がそうであるように幸せで円満な家庭を作れる。
そういった希望や幸福に満ちた未来を幾つも連想する。
高校では家庭教師、またある時はメイドとして、そして恋人としても。
高校を卒業すれば同じ家庭を形作るパートナーとして共働きを始めるだろう。
さながら空を逝く鳥の両翼の様にお互いが支え合う素晴らしい物となるはずだ。
そして結婚と言えば子作り。
未だ見ぬ彼女とのその行為は目くるめく快感と一人でするのとは比べ物にならない幸福感を与えてくれると期待してしまう。
GWWでは「思ったよりも良い物じゃないぞ。」とも「とんでもない快感。もう一人には戻れない。」ともあり判別がつかない。
でも今まで味わったことの無い物だろうと否応も無く期待してしまう。
「ありがとうございます。一度考える事をやめてください。」
音声に従い考える事をやめる。
「次の質問に移ります。人間との結婚についてどう思いますか?」
今時人間同士のカップルなんて滅多に居ない。
なんでも一部の上流階級の人たちは「見合い結婚」とかいう形でパートナーを得るらしい。
幼いころからあらかじめ結婚する相手が決まっていて、異性はその相手以外には知らない情況で育てられる。
そして異性を意識しだすころから一緒に生活してお互いが夫婦になることを意識させるんだそうだ。
二人とも成人するとようやく結婚が許されて、両家の関係者全員から祝福を受けるらしい。
僕はこの話を初めて聞いた時「まるで家畜みたいで可哀そうだ。」と思った。
それに夫婦二人とも人間だといつかうまく行かない時が出てくると思う。
アンドロイドもガイノイドも絶対にパートナーを裏切らないし隠し事もしない。
だから人間もパートナーであるガイノイドやアンドロイドに隠し事や言えない事を作らなくても済む。
でもこれが人間相手だとそうはいかない。
相手は裏切るかもしれないから言えない事も出てくるし、そうなっていくとお互いに心が離れていく切っ掛けになりかねない。
これはGWWの受け売りだけど。
ガイノイドもアンドロイドも美男美女ばかりだし、何より献身的に僕たちに尽くしてくれる。
上流階級の人たちの様に事情があれば話は別だけど、そうでも無ければ人間と結婚した生活なんて考えたくもない。
そうして幾つも質問が繰り返され僕はそれに従い連想を続けた。
質問の数が10に届こうかと言うときそれは告げられた。
「以上で適性検査を終了します。あなたは適性検査に合格しましたので、このままカウンセリングへと移ります。」
僕は適性検査に合格した。
正直少し不安もあったから思わず胸をなでおろした。
ただカウンセリングの内容は非公開でGWWにも情報が少ないからこれから何をするのか分からない。
何でも見合いに近い物をするとは聞いてはいるんだけれども……?
お付き合いいただきありがとうございます。
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次回投稿は4/3(日)午前八時を予定しています。
同時連載中の「コドクの転生者 〃平穏と人型を目指して〃」も合わせてお楽しみいただけると幸いです。
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