5話 土曜日 購入当日 朝(2)
部屋に戻って寝巻を脱ぐ。
タンスに手をかけ今日着る服を出す。
チノパンに薄手のカラーシャツ。
これにネイビーカラーのジャケット。
フォーマルではないがだらしなく見え無い物を心掛けてセッティング。
持ち物は………財布が有ればOKだ。
念の為財布の中身も確認。
まずは銀行カード・少額決済用カード・ナンバーカード。
ついでに家電販売店用のポイントカードも持った。
家電販売店の予約は昨日のうちに父さんが取っておいてくれた。
念の為PCを起動しメールが僕のアカウントに入っている事を確認する。
うんこれで本当に準備は完了だ。
そして僕はPCと財布をカバンに入れて部屋を出た。
階段を降りる。
一段また一段と階段を下りるたび興奮と緊張でドンドン胸が高鳴っていく。
「おっもう出るのか?行ってらっしゃい。」
「うん。予約までには時間が有るけど、余裕を持ってね。あと予約ありがとう。」
玄関で父さんに声をかけられた。
昨日は興奮でお礼を言い忘れていたのでそれも伝える。
少し胸のつかえが下りたような感じだ。
「気にするなって。母さんも随分楽しみにしてたからな。準備を手伝うのは父として夫として当然さ。」
そう言って父は僕に笑いかける。
「母さんに見つかると話が長くなるから、もう行ってきなさい。話は返ってきてからゆっくり聞くから。」
父の言葉に甘えて僕は家を出た。
ここからの道のりは単純だ。
家から最寄駅まで自転車で移動、そこからリニアに乗って商業地区まで。
降りたらそこからまた自転車で5分ほど移動して販売店へと言う流れ。
玄関で靴を履くと自分用の自転車を取り出す。
立体型の駐輪機の一番高い位置にあるのが僕の自転車だ。
前かごにかばんを入れ鍵を外しまたがる。
もう少し面白い自転車に乗って居れば話題にもなるのだけど僕が乗っているのは珍しくもないミニベロだ。
カゴを付けてライトと鍵を付けただけの極めて一般的なタイプ。
中にはリニアを使わずに区画間を移動する人も居るらしいけど僕はそこまでする気にはなれないし、電動に変えて楽をするほど老いてもいない。
そうこうしているうちに駅に着く。
自転車を降り入場ゲートへ。
入場ゲートをくぐり混雑状況を確認。
次のリニアは先頭車両が空いているようだからそちらに移動する。
先頭と最後尾のリニアには自転車用の留め具が付いているしこれはラッキーだ。
待つこと数分、リニアに乗り込んだ僕は自転車を固定具にはめ込み吊革につかまる。
この吊革と言う器具1000年近く前から形が変わらないというから驚きだ。
最も昔は石油で作っていたのが今では強化シリコンなどと細かい差異はあるが。
石油化学製品は高級品だし昔は贅沢をしてたんだなぁとしみじみ思う。
総合商業施設までは七駅。
かかる時間は20分程度だ。
自分以外も客は載っているがそれはまばら。
それもそのはずだ。
この時間総合商業施設のテナントはほとんど休みで例外は家電販売店くらい。
その家電販売店もアンドロイド・ガイノイド購入の為のカウンセリングを除いては業務していない状態で人が出歩く理由が無いのだ。
今日僕が予約しているのはそのカウンセリング。
予算や今後の進路希望によってアンドロイドに入れる適切なアプリを選択してくれる。
それ以外にもVR空間内でAIとマッチングを行い自分に最適なAIを紹介してくれる。
勿論なくても問題は無いけど、やった方が満足度は高い。
何せカウンセリング受講者のアンドロイド・ガイノイド返品はサービス開始して一世紀間ずっとゼロなのだ。
ポンポンとアンドロイドを買い替えられない僕みたいな人間にとっては必須と言っても良いサービスと言えよう。
電車を降り目指すは家電販売店。
ペダルを一漕ぎする毎にスピードと鼓動がドンドン早くなっていく。
余りの興奮に息が荒くなるが構わず、ペダルを踏み込んでいく。
商業施設が見えた。
僕は駐輪場に自転車を固定し、家電販売店へと足を進める。
これから僕は自分の運命を共にするパートナーと出会いに行くんだ!
お付き合いいただきありがとうございます。
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次回投稿は3/6(日)午前八時を予定しています。
同時連載中の「コドクの転生者 〃平穏と人型を目指して〃」も合わせてお楽しみいただけると幸いです。
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