４話 土曜日 購入当日 朝
ぱちりと目を覚ます。
寝ぼけ眼で手元のPCを掲げ時間を確認。
AM06:32の表記。
目覚ましをかけた時間よりも大分早い。
機能は夜遅くまでSHIMADAのHPを見ていたから少し寝過ごすかと思っていたんだけど。
僕の胸の高鳴りは眠気を吹き飛ばすには十分すぎたみたいだ。
二度寝するのは無理そうだしせっかく早く起きたので朝風呂にでも入ろう。
そう決めるとPCの目覚まし機能をカットしてそっと部屋を出た。
家の風呂は一階にあるので、タオルを持ってゆっくりと一階に降りていく。
本当は駆け下りてしまいたいぐらいだけど急いでも始まらないし、両親をこんな朝早くに目覚めさせてしまうのも気が引ける。
風呂場に着いたは良いけど、それより先に喉の渇きが気になったのでリビングへ。
当然誰も起きていない中コップに水を注ぎ一息に飲み干す。
ゴクリゴクリと喉を鳴らし水を飲むたびに体中に水分が巡っていくのを感じる。
一杯飲んだだけでは足りずにもう一杯飲み干す。
毎朝の事ではあるが目覚めに飲む水の美味さは格別だ。
確りと水分補給をし、再度風呂場へ向かった。
服を脱ぎシャワーを浴びる。余りの気持ちよさに「寝てる間も結構汚れるのかな。」なんて益体も無い事を考えたりもする。
髪を洗いながらシャワーを浴びる事数分。
体の一部に違和感を感じて目をやる。
「やっちゃった……。」
昨晩暴発防止にと付けていた「ゴム製品」がつけっぱなしであったのだ。
髪からシャンプーを流すと慎重に「ゴム製品」を取り外す。
「イテッ。イテテッ。」
先端部とゴムがくっついてしまって剥がす時に痛いようなむず痒いような感覚が走る。
それをどうにか外し脱衣所のゴミ箱に放る。
……見えない様に上からシリコンフィルムか何かを被せとこう。
体を洗い風呂場を出るころには体も温まりすっかり目が覚めていた。
体を拭きドライヤーで髪を乾かし歯も磨く。
念の為顎も確認するが、僕の顎は相変わらずツルツルだ。
髭自体は中学に入って半年ぐらいで生え始めたのだけど腋毛や陰毛と一緒にレーザーで脱毛したのだ。
なぜって？
当時の僕はお金を貯めるのに必死で、単純に安い方を選んだだけだ。
電気シェーバーの価格が十万円前後で剃刀は一本五万円に替刃が三個一セット一万円。
対してレーザー脱毛は全身脱毛セットで五千円だ。
陰毛まで脱毛したのは単に髭だけの脱毛よりも安かったからというだけの話。
実際僕と同様の選択をする人は多い。
髭を伸ばしている人はいわゆる超上流階級の人間か、脱毛にもお金を払えない貧乏人ぐらいだ。
リビングに移動して再び水で喉を潤す。
寝起きの水も旨いけれど、風呂上りの水も捨てがたい。
水の冷たさがお湯で火照った体を冷やしていく感覚が心地よく、ついもう一杯と手を伸ばしてしまう。
時計を見ればちょうど七時。
朝ごはんを食べるには良い頃合いだ。
父と母はまだ眠っているが起こさずとも、そろそろ起きてくるだろう。
CLVを付けニュース番組を見つつ今朝の献立を考える。
と言っても昨晩買ってきた朝食を温めるだけなのだが。
買ってきた朝食はホットサンド。
一度冷蔵庫に入れてから温めて食べる為、菓子パンかおかずパンかの二択だったのだ。
朝に甘いものを食べるのは若干の違和感が有るので今回はおかずパンのホットサンド。
これと買い置きのカップスープでの朝食だ。
ちょうどいまTVでCMをやっている。
「品種改良で生まれた新味覚！ユーグレナの新たな可能性！新味ミネストローネ発売！」
僕が子供の頃からユーグレナの品種改良は続いていて、今では野菜類や肉の殆どを代用する食品として扱われている。
品種改良によって幾つもの異なる味を生み出し、その組み合わせで肉や野菜の味を再現している……らしい。
というのも食品工場で作られる水耕栽培野菜やキノコ、管理農場で作られた米を除けば天然の食材等は手に入らないからだ。
子供の頃から一度も食べたことが無いため、新しい味が出てもそもそも元になったものを知らないので比較の仕様が無いのだ。
ポットのお湯を沸かしつつ、カップに粉末を注ぐ。
ホットサンドを温めるのはカップにお湯を注いでからでも良いだろう。
どうせ注いだ直後は熱くて飲めたものじゃないし。
ポットのお湯が沸くまでしばしニュースに集中する。
今日の見出しは、
「ユーグレナ新種開発成功！開発者の思いと苦労に迫る！」
「進む地球全域除染作業。今現場では。」
「G7首脳会談！各国の破廉恥な要求！？」
「日経平均株価六万円台を突破！！拡大する経済を牽引するのはやはり……！？」
「今週の戦果報告・内閣府・防衛省合同発表」
「国勢調査速報、人口二十億人突破・世帯収入平均7百万円の大台に」
「今週末と来週の天気予定」
まぁいつも通りと言ったところだ。
ユーグレナの新種開発最近見なかったがそれ以外の見出しはどれも見慣れた物。
G7首脳会談はどうせまた、アンドロイドの全機即時破棄を求める物だろう。
そうでなければ停戦の交渉か。
日本を除くG7を全て集めたところで、対抗する事すらできないのに何故こうも強気なのか理解に苦しむ。
日経平均が上り調子なのもいつも通りだし、地球の除染作業やその進捗も土曜定番の内容だ。
戦果報告も土曜定番の見出しだ。
元は毎日戦果報告が有ったらしいのだが、朝の天気予定の直前という事もアリ各放送局にクレームが殺到。
「平日の忙しい時間に長々情報垂れ流してんじゃねぇ！」という事で土曜にまとめて流すようになったそうだ。
これに加え期末恒例の国勢調査速報。
アンドロイドが各家庭の情報を持っていることもあり、それを統計局に送るだけ。
大昔は人間が手ずから各家庭の情報を送っていたそうだが、これにより調査が大幅に簡略化。
四半期ごとに国勢調査の数値が発表されるようになったのだ。
あとは毎日恒例の天気予定。
今日は土曜の為今日明日と来週の週間予定の発表だ。
各見出しの速報が終わると同時にポットがお湯の沸いたことを知らせてくる。
カップにお湯を入れ、ホットサンドをレンジに投入。
家の電子レンジは千五百ワットなので三十秒にセット。
ホットサンドを温めている間に食器棚からお皿とスプーンを取る。
「チーン。」
温まったホットサンドを皿に乗せ、スプーンを入れたミネストローネと共に食卓へ。
ニュースではおじいさんが涙ながらに
「これでまた一つ、かつての味を再現できた。」
と語っている。
スタジオのキャスターも心なしか涙ぐんでいるように見える。
僕は今まさにその恩恵を受けているわけだけども確かにおいしい。
程よい酸味と塩気そしてトマトと（合成ではあるものの）肉の旨味が合わさって舌の上で絶妙なハーモニーを奏でる。
欲を言えばもう少し具が欲しい所かな。
インスタントだからしょうがないとは思うけど。
「F-Sのチョイ足しレシピ！玉葱やセロリを刻んで入れると食感アップ！最後にバジルを散らすと風味もアップ！」
やはり具が少ないのが気になるのか、キャスターもチョイ足しレシピを公開している。
セロリを入れれば食感も出るし、玉葱の甘みはこのスープの旨みを引き立てるだろう。
バジルの香りががそれらを引き締める事を考えるともうよだれが止まらない。
因みにこの女性キャスターはもう一人の男性キャスターのパートナーで朝ではもうお馴染みの顔。
「F-S」技能を生かしてチョイ足しレシピや生活の知恵等を公開するのが好評で、旦那さんと共にニュースやワイドショーに引っ張りだこだ。
スープから口を離し今度はホットサンドに口を移す。
まず感じるのは表面のカリカリとした食感と内側のモチモチとした食感。
そして合成チーズのトロッとした食感と合成ハムから出た旨みと塩分そして鼻孔を仄かに擽るバジルの香り。
それらが渾然一体となって、味覚と嗅覚そして触覚を楽しませる。
モチモチと伸びるパンとトロッとした合成チーズの愛称は抜群だ。
また合成ハムの程よい塩分が食を進ませ、バジルの香りが舌と鼻を飽きさせない。
合成食料を含むとはいえこんなおいしい物を五分とかからず作れてしまうのはかなり贅沢な事だと思う。
気付くとニュースは二つも先に進んでいて今はお決まりの外交交渉。
今回は除染の完了した地球上の元領土を無償で引き渡せという物だ。
そもそも地球は第一次宇宙大戦の折に最も大きい功績を上げた日本に対しての褒賞として与えられた物だ。
人類が宇宙に挙がってすぐに起きた核戦争の影響で、死の星と言っていい状態だった地球が褒賞と言うのは当時国会でも大きく紛糾したと聞いている。
それを一部分とはいえ何とか住めるように再生させた途端に、やっぱり返せと言うのだからあきれて口もふさがらない。
そもそも日本以外の先進各国とは今もって戦争中だ。
戦況はこちらが押しているにもかかわらず、「領土を返還すれば停戦してやる。」と言うのはどういう了見なのか。
毎度の事だが「アンドロイドを全機即時破棄しろ！」だの「国際平和を乱す気か！」だの挙句の果てには「神をも恐れぬ不信心者が！」だのとよくもまぁ恥ずかしげもなく言えたものだ。
GWWの情報では「日本を人間の国に戻すための聖戦」等と叫んでいる者も居るらしい。
全く持って大きなお世話だ。
さて朝食も食べ終わったし、食器を片づけて出かける準備を整えよう。
お付き合いいただきありがとうございます。
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次回投稿は2/28（日）午前八時を予定しています。
同時連載中の「コドクの転生者 〃平穏と人型を目指して〃」も合わせてお楽しみいただけると幸いです。
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