1話 金曜夜 購入前夜
「ごちそうさまー!」
家族との夕食を終えると僕は階段を駆け上がって自分の部屋に向かった。
僕の名前は山本 タカシ。
高校入学を間近に控えた男だ。
家は四階建てで僕の部屋も四階。
中学に上がった時に父さんが、
「お前にもそろそろ自分の部屋が必要だろう。」
と当時物置兼メンテナンスルームだった四階を丸々僕にくれたのだ。
嬉しかったが、その夜父さんが母さんに「そろそろ二人目どうだ?」と言い寄っていたのを見て何となく複雑な気持ちになったのを覚えている。
というわけで僕の家族は5人。
え?数が合わないって?
あはは。そりゃ言わないとわかんないよね。
四人目と五人目の家族になった僕の妹たちは双子だったんだ。
今は未だ二歳になったばかりだから母さんが常に二人の面倒を見てる。
胸の高鳴りと共に階段を駆け上がる足がドンドン軽くなっていく。
いつもの事ではあるけれど今日はいつにもまして足が軽い。
何せ僕が小学生の頃から心待ちにしていたアンドロイドを購入する許可をもらったのだ。
厳密には「アンドロイド」は男性型を指す言葉で、僕が欲しい女性型は「ガイノイド」と呼ぶらしい。
どちらも一般的にはアンドロイドで一括りにされている。
でも販売店で「アンドロイド下さい!」というと男性型の販売コーナーに連れてかれるから注意が必要だ。
これは小学校の頃から学校で繰り返し注意されるから流石に間違える人は殆どいない。
それでも年に一人ぐらいは緊張しすぎて、アンドロイド売り場に案内される男子が出るというから恐ろしい。
自分はそういった目に合わないように気を付けよう。
中学入学からバイトを続け足掛け三年。
僕が貯めた予算は600万、父さんが用意してくれた分も600万。
小さいころに憧れた最高級ガイノイドを手に入れるために努力した結果だ。
昨年父さんに自分の予算を伝えた時はビックリしていた。
予算の半分を父が出してくれるという話ではあったが、予算オーバーだと言われるのを覚悟で相談したんだ。
でも
「タカシがそんなに頑張ったなら父さんも頑張らなきゃな!」
と用意してくれた。
無茶な頼みをしてしまったという罪悪感と、それ以上の喜びで胸がいっぱいになった。
そして中学卒業を目前に控えた今日、
「明日、ガイノイドを購入してきなさい。」
と許可をもらったのだ。
そして階段を駆け上がりながら初めてガイノイド売り場に客として案内された日の事を思い出す。