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Graphina 5
それは鎌首を持ち上げた。
それは黒くて、奥が見えないのに質量はあるようで、それがあるところだけ地面が沈んでいる。
相当重いそれは私__________白沢葬子をじっと見つめ、動き出した。
飛び出したという方が近い。
がばっという音が聞こえそうな動きだった。
端から見れば一瞬出来事だったのかもしれない。
いや、実際に一瞬の出来事だった。
テレビとかに出てくるアスリートでさえ、反応できるかどうかの速度でそれは動き出していた。
あかねとの距離は十メートルにも満たない。
本来の私であれば、すぐにあかねの後を追って、命が刈り取られていたかもしれない。
だけど…だけど…
結果的にはそうはならなかった。
背後で大きな音がした。
ガシャンという崩れる音。パリンという割れる音。
びっくりして、振り返るとさっきのそれが下駄箱へと突っ込んでいるのが見えた。
ガラガラと落ちてくる靴をめんどくさそうに払いのけ、再びこちらを覗くそれ。
なんで避けられたのか考える暇なんてなかった。
驚きの後に突然押し寄せる感情の波。
生物の遺伝子へと刻み込まれた純粋な恐怖に私は襲われた。
気がついたら走っていた。
怖い。とても怖い。
逃げたい。あいつから離れたい。
“視られたくない”
聞いたことのない叫び声が聞こえてきた。
見えないけど、多分あいつの声だ。
なんで雄叫びを上げてるのかな。