八年前①
遅くなりました
三つで編まれた黒い尻尾が揺れ、廊下の明かりでメガネが反射する。
神暦281年、12月下旬。
私、ミリアは、19歳だった。
外には白い世界が広がり、寒さが辺りを支配している。
王城の廊下は異様に風の流れが良いので、更に寒さを際立たせていた。
私はその寒さに体をブルっと震わせる。
「おいおい、陛下をお守りするときにそんなんじゃあ恥かくぜ。」
右斜め前を歩く団長、ヴァイアスが肩をすくめながら前に進む。
「あ、は、はい。えっと・・・、頑張ります・・・。」
私は精一杯心を開いて答える。
「そんなに緊張しなくてもいいんだぜ?
もう少し心開けよ。いつまでもそんなんじゃあいつまでたっても先には進めないぜ?
お前は魔法士としては天才だが、その消極的でおとなしい態度が足を引っ張ってんだ。
もう少し積極的に行け、なっ?」
私はその言葉で眼を伏せる。
いつもそうだ。
肝心なときに意思表示できず、親とは喧嘩ばかり。
自分からあまり話しかけることもしないので、学生時代に付き合いがあった友達も二人がいいところ。
任務先の依頼人とはなんとか話はするけれども、結局その程度。
仲が良いのは精々学生時代からの二人の友だちと、私のことなら何でもわかるとでも言わんばかりの兄くらいだ。
団長とは向こうが一方的に話しかけてくるだけで、言葉のキャッチボールなど皆無に等しい。
私が優秀な魔法士であることや、大貴族、エクセリア家の令嬢ということもあってか、取り巻きのような存在がいたり、妙に媚びをうってくる人もいるにはいるが、所詮はその程度の関係だ。
「陛下、失礼します。」
そんなことを考えている内に、いつのまにか国王の個室へと着いた。
私も団長に続いて部屋に入る。
「おお、よく来た。
待っておった。
今日の護衛は頼むぞ。」
「はっ。」
私は部屋の装飾の多さに眼をキョロキョロさせている中、団長は国王に頭を下げる。
家でもここまでこれほどまでの量を見たことがない私は心底驚いていたので、団長が頭を下げていることに全く気づかない。
「おい。」
団長が私を呼ぶ。
はっとした私は、そこで初めて頭を下げた。
「申し訳ありません。」
「よいよい。気にしてはおらん。」
団長が謝る中、国王は柔和な笑みを浮かべてこちらを見下ろす。
「彼女も騎士かの?」
「はい。彼女はミリア・デル・エクセリア。
エクセリア家の娘にございます。」
私は心のなかで慌てふためいている中、団長はすらすらと私の紹介をする。
「おお。この娘が。
話は聞いておるぞ。
儂の妻の命から救ったそうじゃのお。
是非褒美をとらせようと思っておったのじゃ。
宴が終わったあと、もう一度儂の部屋へ来ると良い。」
その言葉に、国王はもう一度柔和な笑みを浮かべる。
「は、はい。」
私は緊張しながらも、今度は自分の口で答える。
「彼女も儂を護衛するのかの?」
「いいえ、彼女には王妃様の護衛を。」
「おお、そうか。
それは安心じゃ。
今宵も頼むぞ。」
国王は二人の肩をポンポンと叩く。
「陛下、時間です。参りましょう。
ミリア、王妃様は任せたぞ。」
「はい。」
団長の言葉に自信なさげに答えると、私は急いで退出して王妃の部屋へと急いだ。
「今度もよろしくお願いしますね。」
王妃の言葉に私はビクッとする。
緊張のし過ぎで死んでしまいそうだった。
「ふふ、そんなに固くならなくてもよろしいのですよ?」
「は、はい・・・。」
私はなんとか返事をするが、尻すぼみになって消えてしまう。
そんな感じで小話(一方的に向こうが話しかけてくる)をしている内に、今夜の会場についた。
今夜は国王の生誕六十周年記念パーティということで、各地の貴族や大商人だけではなく、隣国の皇帝や教皇まで招かれている。
そんな場所に入れば、私はたちまち死んでしまうのではないかと内心ビクビクしていた。
「大丈夫ですよ。もう少し気楽にしていれば。あなたも是非楽しんでくださると、わたくしも嬉しいですわ。」
王妃はこちらに笑みを浮かべると、私も少しだけ気が楽になったような気がする。
扉の前に立っている二人の騎士がお辞儀をすると、会場の扉を開ける。
開けた先には、料理、装飾品、人。豪華絢爛とはまさにこのことを言うんだろうなあと思った。
天井には光魔法を動力にした眩しいシャンデリアがあちこちに点在し、この広い部屋を隅々まで照らしている。
その光に反射する貴族たちがつけた装飾品たちが更に眩しさを際立たせていた。
司会による開会挨拶が終わり、国王によるスピーチが終わった頃だった。
王妃の隣には国王が腰掛け、二人の斜め後ろに団長と私が立っていた。
団長の側に一人の騎士が駆け寄ってきた。
「団長、城門の所にお客様が来ていらっしゃいますが。」
「?
名前は?」
「ヤコブと。」
「追い返せ、席は外せん。」
「私も追い返そうとしたのですが、急用があると聞かないのです。
守備の邪魔になります。どうにしていただけませんか?」
「仕様がないな。」
「どうかしたのか?」
二人の小さな会話が気になったのか、国王が振り向いた。
「いえ、少し席を外します。
ミリア、クロウ。ここは頼んだぞ。」
「あ、はい。」
「了解しました。」
私とクロウ(呼びに来た騎士の名前)の返事を聞くと、団長は急いで城門の方へと向かっていった。
「父上、母上、ただいま戻りました。」
国王のもとに赤子を抱いた一人の男性が近づいてくる。
国王の息子だ。
「おお、ゴドウィン。良く戻った。」
「あらゴドウィン。おかえりさない。」
二人がゴドウィンを暖かく迎える。
「宴に間に合ってよかった。さあ、お座り。」
「はい。」
「リネアはどうした?」
「着付けの最中ですよ。」
王妃がゴドウィンを座らせると、直ぐ様身内話を始める三人。
私とクロウは心中共に、団長遅いなあという思いを持っていた。
その時だった。
地面が大きく揺れたのは。




