体育館の床に
私の通っている学校の体育館の床には、一か所だけへこんでいるところがある。
体育館の床に
うちの学校の体育館には一カ所だけ少しへこんでる所がある。
何度板を張り直しても必ずへこんでしまうため、そのままにしているそうだ。
だからその場所には噂がある。
この体育館を建てる時、工事のおじさんが天井から足を滑らせて板を張ったばかりの床に落ちて死んだ。
だけど現場監督は工事が遅れるのと、床を張り直すお金がないのを理由に、そこに死体を埋めて隠した・・・というありがちな話だ。
何年か前に噂を確かめるため警察立ち会いで床下を掘り返したそうだけど、結局何も出なかった。
しょせん学校の怪談にすぎないのにこの噂は根強く残ってる。
その体育館が新しく建て直されることになった。
うちのバレー部が三年連続インターハイ出場とベスト4進出を決めたおかげで、保護者やOBの先輩の寄付、それに市から補助金が出たからだ。
すると今度は新しい噂が流れた。
──体育館が取り壊されると必ず何かが出る──
取り壊し初日は夏休みだというのに、結構な数の野次馬が集まっていた。
まあ、バカにしてた割にわたしも見にきてるのだから文句は言えない。
でも実際には何も出ず、期待は大はずれだった。
だけど、解体が始まって数日後、とんでもない物が発見された。
おじさんの死体?
いいえ、もっと恐ろしい物で工事は急遽中断されてしまった。
それは・・・。
大戦中に落とされた1トン級の爆弾だった。
数日後、周囲500メートルに避難勧告が出され、わたしは家族とショッピングモールで時間を潰し、夕方帰ってくると作業も終り、避難も解除されていた。
ただ、爆弾が掘り出された場所というのがあの一カ所だけへこんでいた所の真下だった。
これは噂ではなく、旧体育館の図面などからちゃんと判明してる。
あそこがへこんでいたため、皆、無意識に避けて通ってたし、バレーやバスケの個人練習も床が傾いてるからって避けられてた。
工事のおじさんの噂は根も葉もない嘘だったけど、もしあの床がへこんでなかったら噂なんて立たなかっただろう。
そして体育館が取り壊されると必ず何かが出るなんて噂も流れなかった。
だけど、わざわざ見物人が集まるほど噂が広まっている以上、解体と土地の調査は慎重にならざるを得ない。
もし重機で一気に進めていれば、誰にも気づかれなかった爆弾はどうなっていたか。
わたしは幽霊なんて信じてないし、噂なんてつまらないと思ってる。
だけど、それでも説明のつかない何か・・・。
ホラーのように人に危害を及ぼすだけでなく、人を見守り、助けてくれる何かが確かにあることだけは信じてみようかなと思った。