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ウツロヤミ  作者: ミーン
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残影


残像の中に人の顔が見えはじめてから、ずいぶんたつ。


ちょうど横向きに浮かんだ状態の年配の女性が私を右側からのぞきこみ、悔しそうな表情で泣いているのだ。

最初は気のせいや偶然だと思っていたが、だんだんはっきり見えるようになってきて気味が悪い。


もちろん女性に見覚えはなく、誰かに恨みをかうようなことも覚えもない。

妻にも相談したけれど、私と同じく心当たりはないという。


眼科で診察を受けたけれど異常はないといわれ、それだけで納得できなかった私は、脳神経外科でMRIなど精密検査を受けたが、やはり異常は見つからなかった。


結局、医師は常に見えているのではなく残像としてしか見えないのなら、飛蚊症と同じように意識しないで慣れるしかないといわれた。


仕方なく私は、ふと空を見上げたときや、なに気なく視線を変えたときに、どんなにはっきり女性が見えたとしても、すべて無視することにした。

すると徐々に慣れていき、見えても気にならなくなっていった。




私の病気が発見されたときには、すでに手の施しようがない状態まで進行し、妻が医師から告げられたとき、すでに余命は半年と宣告されていたようだ。


それからずっと妻は私に黙ったまま中学生の息子と小学生の娘の世話をしながら、病院へ見舞いにきてくれていた。

しかし、日に日に痛みが増して薬の副作用らしき症状が現れはじめると、さすがに自分の体のことに気づいたが、無理をして微笑む妻を見ると私からは何もいい出せなかった。

だが妻は私が気づいたことに気づいたようだ。やっぱりどうやっても嘘はつけないなとおかしくなったけれど、それでも私たちはそのことには触れず日々を過ごしていた。


さらに悪化が進んだある日、医師から痛みはなくなるが、二度と目覚めることなく最期をむかえる薬を使うかどうかを選ぶよう告げられた。


妻はいやがったけれど、これ以上、私が苦しむ姿を見て妻に苦しんで欲しくなかったので、なんとか説得して薬を使う選択をした。


最愛の息子と娘、そして妻に見守られながら、新しい点滴の薬が私の腕につながれる。


「おやすみ。また今度な」

猛烈な眠気がおそってきて力づくでまぶたが閉じられる直前に、妻がベッドに眠る私を、泣きながら悔しそうな表情でのぞきこんだ。


取りつけられた点滴の薬が必要なくなるまで、もう無視したりせずに見続けておこう。

その顔はずっと目の奥に焼きついているのだから。


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