交差点の
その交差点にはいつも女の人が待っていた。
晴れた日も雨の日も、平日も休みの日も。
誰も彼女には気づかない。
いったい誰を待っているのか判らないけれど、彼女はわたしが物心つく前からずっとそこで待っていた。
ある日、わたしが誰を待っているのか尋ねると、彼女にとって大切な大切な人だという。
会えるといいね。
そう言うと、彼女はほんの少し微笑んだ。
高校を卒業して大学に進学したわたしは、一人暮らしにも慣れて次第に彼女のことを忘れていった。
やがて卒業して地元に就職が決まり、久しぶりに実家へ帰ったわたしを最初に迎えてくれたのは、駅からの道すがら通りかかった交差点で待つ彼女だった。
あれからもずっと待ち続けていたらしい。
まだ会えないのね。
だけど彼女は静かに首をふる。
会えたの?
それにもまた首をふった。
彼女の指す先には、まだ新しいユリの花束がガードレールに結んである。
会いに来てくれたのに、気づいてもらえなかったんだ。
来たのはあの人の息子さんよ。
彼女は言う。
この場所で、確かに彼と一緒にいたはずなのに、気がつくと一人ぼっちになっていたわ。
それ以来、彼の息子さんがこうして花を供えてくれるのよ。
そうだったんだ。
それなら彼女がいくら待っても大切な人なんて来るわけない。
二人とも事故で亡くなってたんだから。
そのことを教えてあげようとしたわたしの口を、彼女はそっと押さえる。
判ってる。判ってるから。
黒い瞳いっぱいに涙をためる彼女に何も言えなくなったわたしは、交差点を離れ実家へと向かった。
わたしのおじいちゃんは、産気づいたおばあちゃんを車で病院へ運んでいたときに事故で亡くなった。
おばあちゃんも瀕死状態だったけれど、お腹の子どもだけはお医者さんが帝王切開して一命を取りとめたそうだ。
だからお父さんは月命日ごとに、二人が亡くなった現場へ花束をお供えしている。
今日、おじいちゃんの位牌を持って、お父さんと一緒に交差点に行こう。
一人ぼっちじゃなかったんだよ。
おばあちゃんの命はちゃんとつながっているからね。




