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ウツロヤミ  作者: ミーン
15/39

日陰ぼっこ

このお話には本当に残酷なシーンが登場します。

苦手な方は読まないで下さい。

●●県警察本部 様


先日の飛び込み自殺に関し、現住所より行方不明と

なり発見されるまでに不可解な移動経路をたどった

高齢の女性が書き残したと思われる、古い手記を入

手しました。


余命3ヶ月と診断されたことで、相当混乱が見られ

ますが、念のためお送りさせていただきます。


捜査の手助けの一つになればと願っております。


●●県●●島 駐在所








わたしの町を走る路線には、自殺の名所と呼ばれる場所があった。


踏切りでもないその場所は、どんなに高いフェンスをたてても監視モニターを設置しても、年に4~5人がそこで命を絶つ。



周囲は家もお店もない寂れた場所で、線路が通る前は古い共同墓地だったって言われている。




遠まきにでもそこが見えるところを通らないといけない時に横目で見ると、自殺防止柵や近くの電柱なんかにも、いっぱい落書きが書かれてる。



あれはみんな地元以外の者が面白半分に書くんだろう。



だけどこの町の人はみんな知ってる。


あそこで自殺する町の人は誰もいないことを。




あそこで亡くなるのは、必ずこの町以外の誰かなんだ。



その日、どうしても外せない用事でその場所を通りかかったわたしは、できるだけ早足で通り過ぎようとあせっていた。



もちろん場所は気持ち悪いし、ひと気が少ないので怪しげな車は止まってないか、なにより自殺しそうな人がいないかも心配。



自殺しそうな人がいたとしても、わたしができるのは警察を呼ぶくらいでほかに何もしようがない。



学校からは、へたに説得するのは危ないからと言われてるし、、、








プワァァァアアアンン!!



けたたましい警笛を響かせながら列車が近づいてくる。




嫌な予感がして顔を上げたわたしが目にしたのは、、、、




走ってくる電車の前に、突然、後ろから突き落とされてビックリしたような表情で『何もない空間から』現れた女の子だった。




キイイイーーーィィッ!ガゴゴン!




急ブレーキ。

車両が固くて柔らかい何かをひきつぶす音。



ズタズタの制服。



わたしは・・・女の子の血と千切れた肉と内臓のかけらを頭から浴びた。





「どうしてこんなところに!?」



一瞬目が合った女の子が確かにそう言った眼球は、わたしの頬にペシッ!と当たって地面に転がった・・・・・。




警察の事情聴取なんてまともに答えられるはずもなく、家に帰ってから溶けるほど何度もシャワーを浴びたけど、血が洗い流せない気がして・・・胃の中には何もないのに吐き続けた。






片っ端から友達にメールを送っても、ひかれた光景が頭から離れない。



頭から毛布をかぶり、ベッドに潜って思い切り泣いた。






いつの間に寝てたんだろう。



気がつくと夜中だった。


泣いて寝たせいか、少しは気が紛れてる。



携帯を見ると、友達からすごい数のメールが送られてた。



みんな大変だったねとか慰めてくれる中で、一つだけ気になるものがあった。




『その人、驚いた顔してなかった?』




またあの子の目を思い出して、手が震えた。




メールの相手は親友というほどでもない、挨拶がわりにメル番交換した子だ。




すぐメールで話してみると、その子も昔、あの場所で自殺を見たらしい。



わたしが見たのと同じ、何もないところから突き落とされた格好で驚いた表情をしていたと言う。


だけどそんなこと、誰に言っても信じてもらえるはずがなく、いつも通り自殺とされたそうだ。



『だから、思うの』その子は言う。




『あれって自殺じゃないんじゃないかな?


どこか別の場所で、死ぬつもりなんてまったくなかった人が、

“誰かに背中を押されたために”

あの場所へ突き落とされてるんじゃないかって』



誰かって、誰だと思う?



『そこまでは、分からない。

でもあれだけ入れないようにしてあるのに、自殺が減らないのは不自然じゃない?』



確かにそう考えたほうが、あの時の表情に納得できる。





だけど、それならそれで、わたしたちには入れる余地のない話だ。



おたがいこれ以上この話は続けるべきじゃない・・・同じものを見たからこそ、興味を持ってはいけないものだと感じて、どちらともなくメールを終えた。









6年後。



わたしは町を出た。



あの場所の自殺発生率はいまだに変わらない。



話を聞くたびに、わたしはあの時の光景が蘇って吐き気と頭痛に襲われるため、早く逃げ出したかったのだ。





遠く離れた新しい町には自殺の名所なんてイヤな場所はなく、わたしも早くこの町に慣れようと毎日頑張ったおかげで知り合いも増えた。




ある時、バイトの先輩が変な話をしてくれた。



『この町には昔、ひなたぼっことは逆の日陰ぼっこが大好きな妖怪が住んでいたんだ。

そいつは日陰でくつろいでる人間を見ると、自分の場所をとられたと思い怒って力いっぱい日陰から突き出すそうだ。


ホラ、国技館の相撲の土俵の上にも室内なのに屋根がついてるだろう?

あの由来は日陰ぼっこからきたんだぞ』


あからさまに嘘の由来を言いながら笑った。




だけど、、、


何も知らずに日陰でくつろいでいた人が、次の瞬間迫りくる電車の前に突き飛ばされたとすれば・・・。


わたしの頭の中にあの光景が重なって強い耳鳴りと吐き気、頭痛が襲ってきて、目の前がまっ黒に・・・



気を失ったわたしはバイト先の事務所で目を覚ました。



先輩は店長さん(女性)からすごく怒られたらしい。



翌日、改めてわたしから日陰ぼっこのことを尋ねても、先輩はそのことを話すのはすごく嫌がる・・・それはそうかもしれない。



仕方なくわたしはあの時の話をして、何か手がかりになるかもと言うと、バイトが終わってから落ち着いた場所で話そうと言ってくれた。





先輩とわたしはまだ西日が強い公園で、バイト先からもらった飲み物を手に木陰の下のベンチに座った。



先輩は、原因がこの町の妖怪、日陰ぼっこかどうかは判らないとした上で、「自殺する人はみんな他の町の人なんだろ?」と尋ねる。



昔からそう言われてきたし、実際にあそこで町の人が死んだという話は聞いたことがない。



「それなら…」先輩は続ける。



「日陰ぼっこは独占欲が強い。だからこの場所から出ていけ! って突き飛ばすんだ。


それはここや君の町なんかの田舎よりも、都会の方が多いと思う。


田舎なら涼める場所はたくさんあるけど、都会では自然の中の涼める場所は限られてるからな。


それに、色んなところから来た人が集まってる」


「そっか、だけどそれならどうして突き飛ばされた人はうちの町にくるんだろう?

やっぱり共同墓地だったところに線路通したタタリなのかな」


「そこまでは分からないな。古くからの因縁かも知れないし、土地の磁場と関係あるのかもしれ









え?




目の前で話してた先輩の姿が、急に消えた・・・。




そのとたん、生臭い匂いがして顔をあげると、半透明のぶよぶよした……醜く太った馬鹿でっかいおばさんのような何かが、汗をダラダラ流しながら座ってる。



「な、なんなの? これ・・・」


声を出したわたしに、ソレが気づいた。


『…暑ッツイ、アッチイケ…』




押されたとたん、わたしは見覚えのある場所に飛ばされて・・・・・









そうだ。


わたしたちは公園の日陰のベンチに座ったんだ。


じゃああれが日陰ぼっこなの?



あんな気味の悪いものに突き飛ばされてたくさんの人が死んで、さっき急に消えた先輩も、、、




今度は、わたし!!







ドサッベチャ…!!




ッツ! イタタタ。




あれ? 目の前に、電車の車輪。

止まってるの?



どうして? と思ったとたん、周囲の音が聞こえてきた。



「大丈夫か!」

「1人は生きてるぞー!!」



どういうことだろう?


ふと地面に着いてた手を見ると、血まみれになってる。



周りを見渡すと、一面血の海だ。



だけど、、、そこに見覚えのある服の切れ端が落ちていた。



間違いない。

先輩のだ。



電車の先頭車両付近には、昔見たズタズタの肉片らしきものが転がってるのが見える。



「おい! しっかりしろ!」

「頭を打ってるかも知れない。不用意に動かすな!」



車掌さんらしき人に抱えられたとたん、意識を失った。




後から聞いた話では、わたしは飛び込むのに一瞬躊躇したため、電車に体をかすめて弾き飛ばされて肋骨と両足を骨折しただけで命は助かったけど、先輩は即死だったそうだ。



わたしは、この町の人間がこの場所で自殺しようとするなんてと、両親も町の人たちからも白い目で見られ、いくら違うと言っても信じてもらえなかった・・・。






傷が治るのを待って、わたしは町を出た。



どこにも宛てはなかったけれど、もうここに居場所なんてないから。



ただ少なくとも、ここや先輩と会った町より自然が多く、涼める場所がたくさん残された町を目指そうと思う。






あれから数年。


あちこちを転々としたわたしは、ようやく新しい地に腰を据えることができた。




たまに昔暮らしていた町で起きた飛び込み自殺のニュースを耳にすることがある。



だけどそれはもう、わたしには関係ない話だ。






わたしが見たのは日陰ぼっこだったのか、それともカウンセリングで言われたように自殺するほどの精神状態で見た幻覚だったのかは、判らない・・・。




いまだ日陰に対して恐怖が拭えないでいるわたしは、もうあの町に戻るつもりはまったくない。




あるいはもっと年をとって故郷が懐かしくなったころ、木陰を求めてさ迷い歩くのかもしれない。




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