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ウツロヤミ  作者: ミーン
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クラゲ

わたしは小さいころ家族で海に遊びに行った。


浮き輪につかまって、おにいちゃんから借りた水中メガネをつけて海の中を見てた。


海の底が見えてテンションあがって、自分がどこ泳いでるかも気にしてなかった。


底はゆっくり深くなっていってたけど、ある場所から急に深くなってて、そこから先は真っ暗になってた。


その時になって、ゾッとした。


水から顔を上げると、岸からだいぶ離れた場所にいる。



帰らないと。

早く、帰らないと。


ばた足で岸に向かったけど、ぜんぜん前に進まない。


それどころか逆に押し返されてるようで、気持ちばかり焦ってるのに浮き輪ごとどんどん流されていく。


不安で、怖くて、目をつむって必死にばた足してると、何かが足に絡まった。


振りほどこうとばた足をはやくすると、もっとしっかり絡まってくる。


不思議に思い、手を伸ばすと・・・ブニャ・・・という嫌な感触があって、直感でそれが死体だと思った。


悲鳴をあげてバタバタしてたら、浮き輪が逆さになって頭から海の中にもぐりこんでしまったとき・・・。


海の底には大きな白い海藻がたくさん生えてた。


こんなのさっきまでなかった・・・


違う!

海藻じゃない!


これは白くてブヨブヨになった水死体の腕!!




腕がわたしに伸びてきて、体をつかんで引きずり込んでいく。


海水が口に入ってきてむせる。


鼻が痛い。


耳が痛い。



水中メガネが外れて目が痛い。



その時、誰かに体を支えられた。


大丈夫かとか、見るなとか言ってるようだけど、もう聞こえない。



気づいたらベッドに寝かされてた。


わたしは溺れてたところをお兄ちゃんに助けられて、病院に運ばれて助かったらしい。


だいぶ水を飲んだだけで、命に別状はないそうだ。



「ありがとお兄ちゃん。助けに来てくれて」


ベッドの隣に座ってたお兄ちゃんに話しかけた。


「あたり前だろ。どこ行ったのか探してたからな」


「海の、見た?」


「ああ?」


「わたしの足にからまってたの」


「ああ。クラゲだろ?」


お兄ちゃんは普通に言った。


「違うよ。わたしの足つかまえて離さなかった手」


「だからクラゲだよ。

 触ったろ? ブヨブヨのやつ」



お兄ちゃんが言うには、時期は早いけど大発生したクラゲがわたしに絡みついたため、身動きできなくなっていたんだそうだ。



だけど、あれは白くて膨らんでて、振り払おうと強くにぎったらズルっと皮が剥がれて骨が見えたのに。



腕が生えてる下にゴボゴボ泡を吹き出しながら、ジーッとこっちを見てる顔がいくつもあったのを見たというわたしに、お兄ちゃんは変なものが見えたのは、溺れてパニックになったからだろうと言った。



それに、クラゲの毒は種類によって人が死ぬこともある怖いものだから、幻覚を見たのかもしれないとも説明してくれた。



だけどあの後、どのニュースでもクラゲが発生したなんて話はなかった。




クラゲに刺された足はヒドイことになってるから見るなって言われてたけど、寝てるあいだにほどけて仕方なく自分で包帯を巻き直した時、わたしはお兄ちゃんが嘘をついてたのを知った。


足にはクラゲの触手の痕なんてなかった。


スゴい力で人間の手が握りしめたアザが、はっきりついていたんだ。


でもわたしがそれに気づいたことを、お兄ちゃんには言わなかった。





今年もまた夏が近づいてくる。


あれから何年もたつけど、わたしは今でも海が怖くて海水浴には行けない。


ある心霊番組で、わたしが溺れた海では毎年、海水浴客が何人も亡くなっているという話をやっていた。


あのクラゲに引きずり込まれたんじゃないことを、わたしはただ、祈ることしかできない。


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