豆大福とタンポポ
「それではスズキ様、これでご契約約款も含め、ご理解いただけたという事で」
PC、マイク、ライト、ミキサー、ゲーミングチェア、ライブカメラ等々所狭しと置かれている俺の部屋に、若い女子営業が口を開いた。
ビジネススマイルの首からぶら下げている社員証が、彼女の胸の谷間で行き場を無くし苦しそうにしていた。
そこから視線を彼女の方に戻すと、さも男なんてどこ見てるのか、もう慣れてます。
的な、視線で返しているのが何か気まずく、もう一度目の前の書類に視線を落とし契約にサインをした。
俺はホラー系の動画配信をしているのだが、ここ最近この手の配信者が多くなり中々、再生回数、登録者数が伸びず悩んでいた。
そんな時、(レンタル幽霊あり〼)とDMが飛び込んできた。お伺いしてご説明いたしますと。
今時ネットで完結することが多い契約事に対面なら、信用できると思い話を聞くだけなら。
と、思っていたが、今契約をしてしまった自分がいた。
後日、レンタル幽霊ショップからキャリーケースが届いた。
開けてみると位牌と説明書らしい紙切れ以外、何も入っていなかった。
【この度はご契約、誠にありがとうございます。
レンタル幽霊№12 名前 命日7月2日 享年16歳 略歴 JK、援助交際中ホテルにて絞殺される。
好きなお供え物 豆大福 好きな供花 タンポポ】
そう、書いてあった。
どんな属性の幽霊かは特に希望は聞かれてなかったし、言っていなかったが、援助中に絞殺とはなかなかヘビーだなと思っていた。
そして位牌を手に取り、どこか適当な高さの棚を見つけお水とコンビニで買ってきた豆大福を供えた。
「ありがとうございます」
そう俺の右耳にダイレクトに女の人の声が入って来た。
ハッと振り向くと。
暗い瞳の黒髪が長い、ブレザーの女子校生がいた。
首にはネクタイが痛々しく巻かれていた。
それを見ておれは確かに彼女がこの世の者でない事を認識した。
「あなた、お優しいですね」
続けて言った。
「他のユーザーさんでは、そんなことしていただけませんでした」
そして音もなく近寄って来て。
「私はどうしたらよろしいのですか?なにをたらいいのでしょうか?」
彼女の言葉使いから、彼女の暗い瞳の理由を推し量るしかなかった。
俺はホラー系の動画配信の事を説明し、二人?で動画の企画、出演や編集をしながら生配信も始めた。
やはり、本物は違うのだろう、再生回数はびっくりする位あっという間に伸び、登録者数も一万、十万を突破し、やがて、ゴールド手前まで来た。
二人?手を取り合って喜び合った。
なんだか、とても楽しかった、伸びる再生数、登録者数、今までそれに悩んでいた自分が過去のものとなって、充実した日々になって来た。
彼女もあの暗い瞳が晴れだしたのも、彼女の笑顔の回数が増えてきたことも、再生回数や登録者数のそれを上回って来た。
そんな時だった。
投稿があった。
彼女についてだった。
事件についてやたら詳しく、そして彼女の過去までも暴露する書き込みがあった。
「なんだ、こいつは、もう死んだ人の話を蒸し返すなよ」
そう言って、俺はだんまりを決め込んだ。
そうすると今度は、俺自身に話が飛び火して、(お前も、結局援助交際と同類じゃねえのww)と、言ってきた。
そして日に日に酷くなってきて、これ以上続けたくなくなった。
俺はともかく、彼女に対してのあまりにもひどい言動にこの憤りをどこに持ってい けばいいのか分からず、悔しかった。
亡くなった人には、個人情報や、名誉棄損の概念がこの国ではないらしい。
彼女のつらそうな顔を見るのが俺には耐えられなかった。
そして、一切のSNSや動画サイトから手を引き閉鎖、削除した。
「これでいい」
PC配信用の器材一式を処分し、ガランとした俺の部屋には、片隅の棚の上に彼女の位牌と豆大福。
そんなある日、レンタル幽霊返却についてのお知らせが来た。
「そうか、もうそんな時期になるのか」
時間が経つのは早いなと、改めて実感した。
買取、もしくは延長を選ぶことが出来るらしい。
俺はネクタイを締め、この春第二新卒で何とか得た会社に今日から出社する。
「行ってきます」
「いってらっしゃい」
豆大福の横には一輪、タンポポがコップに活けられていた。 了




