子守狼
聖獣だって暇じゃない
「リリアナに近づく不埒者は半殺しになさい」
赤ん坊の父親になったひとつの命を分かつ番いにそう命じられた日から、イザークの聖獣・白狼ロウルはリリアナの子守狼になった。番いのイザークとは少し違う、でもとてもよく似た匂いをすんすんと嗅いでから、揺り籠の傍に伏せるように寝そべった。
龍女王アデルの目の代わりをしなくてはならないつがいは、龍女王共々多忙な身。どれだけ可愛くても、娘だけに構っている訳にはいかない。そのための子育て二周目の乳母・ニーナであるが、いくらニーナが「なんて楽な子育て……しょっちゅう泣いていたアデル様とは大違い……」と感涙を流していても、非力だけはどうしようもない。
そこで白羽の矢が立ったのが、ロウルだった。
イザーク本人が兵器並みに強い今、ロウルの役目は無いに等しい。せいぜいが魔法の補助くらいだ。妻も娘も同じくらいに大切なイザークは、躊躇うことなくロウルに子守を言いつけ、不埒者は半殺しにしろとまで言い放ったという訳だ。
「俺のリリアナに手を出した時点で死罪は確定だが、とち狂った他の愚か者に二度と手を出させないようにしないとな!その為にも、侵入者は半殺しが適当だ!」
「御意」
今日はよい天気だと呟くような気軽さと、にこやかな顔でかわされた龍女王夫妻の会話に、ロウルは少しだけまだ見ぬ不埒者を哀れに思った。
ちなみに、ロウルが子守狼になるのと引き換えに子守龍になり損ねたアデルの聖獣・聖龍キラムは「僕もリリアナのお守がしたい!アデルの子は僕の子でもあるのに!!」と半泣きでつがいに懇願したものの「俺とお前は国のお守が先!」ときっぱり言い渡されて子守の夢は露と消えた。
……かと、思いきや。
「よく考えたら、空き時間にお守すればいいんだ!」
龍女王の政務の隙を狙い、悠々と飛んできたキラムはしれっと小さな龍の姿で現れた。転んでもただでは起きないところが、番いとよく似ていると思う。ロウルはチラリとキラムを見て目を細めると、視線を揺り籠のリリアナに戻した。
リリアナが泣いたら、慰めること。
番いと同じくまだ幼いリリアナの聖獣・白馬のアウラムの遊び相手になること。リリアナの布おむつが濡れたら、呼び鈴を鳴らしてニーナを呼ぶこと。布おむつ交換の間、リリアナの気を逸らして交換がスムーズに済むよう手助けをすること。
そして……。
リリアナを狙う何者かを感知したら、首から下を凍りづけにして城の最下層にある地下牢に直送すること。
それが、ロウルの役目だ。
白くてふわふわな尻尾をリリアナの手が届く距離に差し出してご機嫌を取りながら、耳をぴくつかせて氷塊を地下牢に直送する。今はキラムがいるから、間違ってもリリアナの視界に氷塊が入る事はない。侵入者の存在を感知して「こっちを見たら駄目だよ~」と金色の体躯で視界を遮るとは、押しかけ子守龍にしてはよい仕事をする。
夜になり、政務を終えた龍女王アデルとイザークがリリアナの寝顔を見に来た。「なんて可愛い寝顔でしょう」と蕩けそうな顔のイザークが、つい先ほどまで地下牢に直送済みの侵入者達を言葉と自白剤で責め立てていたなどとは誰も思うまい。
「子守、お疲れ様。……キラムもな」
アデルの両手が、ロウルとキラムの頭を撫でる。
こんな日々も悪くないと、欠伸をひとつして揺り籠の傍で眠りにつくロウル。
明日もまた、子守が待っている。




