第十九話 三角形
ひまりの背中を見て、僕は無になる覚悟を決めた。日焼け止めを手につけ、背中に手早く塗り広げた。
「はい。終わったよ。」
「早くない?りっちゃんのとき、もっと時間かかってたよ。ちゃんと塗れてるの?」
「慣れたんだよ。」
そう言って、海に行こうとしたとき、ひまりが僕の手を掴んで言った。
「……りっちゃんの背中のほうが良かったの?」
「……何言ってんだひまり。そんなことないぞ。」
「ゆうくんは塗ったの?」
そう言われて、僕はしまったと思った。
「いやー忘れてたよ。自分で塗るから、りおと先遊んできなよ。」
ひまりを離そうとしたができなかった。
「いや……その……私がゆうくんに塗るよ……」
僕はこの場から逃げることはできないと思い、背中をひまりに向けた。
「……ありがとう。」
ひまりの手が僕の背中をなぞっている。僕はドキドキして上がりそうな息を必死に殺した。
「終わった?」
ひまりの手が離れた瞬間そう言って、ひまりのほうに振り返り、海に向かおうとしたとき、ひまりが言った。
「待って!……塗り残し……あったから……」
そう言って、それを塗り広げると、ひまりはすぐに海のほうへ走っていった。僕はそれに少し安心した。
「やっと……一人だ。どうなるかと……思った。」
そうつぶやくほど胸の奥が、やけに疲れていた。
少しして、僕の高ぶる気持ちが落ち着き、海に向かった。二人が楽しそうに水を掛け合って遊んでいた。僕はそれを立ち止まって見ていると、
「あの子達、可愛くね?」
「お前、いけよ。」
「モデルさんかなぁ?」
「あんな美少女、普通の海にいるんだな。」
そんな声が周りから聞こえてきた。よく考えたら、あの二人はとても美少女だ。いま、なぜ僕はあの二人と遊べているんだろう。来年もこうやって遊べるのだろうか――そう強く感じた。
「ゆうくんも早く来て!」
ひまりにそう言われて僕も海に入った。入って遠くのほうを眺めていると水をかけられた。
「冷た!ひまり、やったな?」
「それ!」
「あ!私にも喧嘩売る?うちらでゆうくんやろう!」
「おい!やりすぎだろ!」
そんな感じで楽しく海で遊んだ。
「あー疲れた。けど楽しいね海。」
「でしょ。やっぱり最高、海!」
二人がそう喋ってるところに僕が言った。
「二人とも、これやらない?ひまり、分かるか?」
「ボール?なになに、りっちゃん。」
「ビーチバレーね。やろう!てか、持ってきたの!?」
「まあ、そのための大荷物ですから。」
三人で自然と三角形になるように立ち、僕がボールを高く上げた。
「いくよ!りお!」
「はい!ひまり!」
「あーどこ!?」
なかなか続かなかったけど、そのとき、僕はとても楽しかった。同時に二人とも楽しそうだったし、とても可愛かった。これを言葉にできたらなあ……そう思いながら、ボールを見上げた。




