厳つい騎士団長がキュンキュン文体で告白してきたんですが、どうしましょう?
いつも読んでくださる皆さまも、今回が初めての方も、本当にありがとうございます。
今回は、キュンキュンな手紙を書いていたのが、まさかの厳つい騎士団長だった……から始まるお話です。どうぞ最後までお付き合いくださいませ(o´∀`o)
遠くで雷鳴が轟いている。
エステッラは、薄暗い書斎の窓辺に座って空模様を見ていた。空は厚い鉛色の雲に覆われ今にも雨が降り出しそうだ。
「ひどい雨になりそうだわ……手紙、来るかしら?」
彼女は郊外に暮らす子爵令嬢と文通をしている。そろそろ返信が届く頃だった。
今、令嬢の間では文通雑誌を通して知り合った相手と文通するのが流行っている。
エステッラは、馬車で五日ほどかかる場所に住んでいる子爵令嬢のベアトリーチェと手紙のやりとりをしていた。
彼女は、自分よりも3つ下の17歳で、末っ子のエステッラにとっては妹に手紙を送るような気持ちだ。
「今回、ベアトリーチェはなんて書いてくるのかなあ」
彼女の手紙はいつも若さ爆発の文章で読む度に“カワイイ!”と思ってしまう。
――激しい雷鳴が響いて大粒の雨が降ってきた。
開けていた窓を急いで閉めようとすると、外に見慣れない黒い鎧を身にまとった男の姿が目に入った。どうやら、我が家を訪ねてきたようだ。
すぐに使用人が来訪者を告げにくる。
「お嬢様、文通相手のお兄様だそうです。妹さんに頼まれて届けにいらしたとか」
「まあ……こんな天気のなか、わざわざ来てくださったのね。丁重にお迎えして。私もすぐに行くわね」
エステッラは急いで洋服を着替えると、客間へと向かった。
「お待たせいたしました。エステッラ・リヴェッリです。妹さんのベアトリーチェさんとはいつも楽しく文通をさせていただいております」
「オレはリカルド・ライモンディと言います。今日は妹から頼まれて直接、手紙を届けに来ました」
「雨の中、届くか心配してですか?この前、返事が楽しみ、と書いてしまったから……」
気にして言うと、リカルドは手を前に突きだし“いえいえ、とんでもない!”と言う。
「妹はあなたとの文通が楽しくてたまらないようなのです。妹は姉を欲しがっていましたから。だから、オレとしてもあなたのような方が文通をしてくれるのは嬉しい限り。まことに有難い」
そう言って彼は、懐から大事そうに手紙を取り出した。
が、激しい雨のせいでベアトリーチェの書いた手紙は湿って文字が滲んでいた。読むのは難しそうだ。
「なんと!濡れてしまっている……」
「これは……読めそうにはありませんね。せっかく届けて下さったのに」
「不覚……!」
リカルドはヒザをがくりと床に落とした。
「この雨の中では仕方ありませんわ。手間になってしまうけれど、ベアトリーチェに何を書いてくれたのか聞いてみます」
「それには及びません!」
彼は突然、立ち上がると“ペンと紙が欲しい”と、言い出した。
「どういうことですの?」
「その、オレは妹が手紙を書くところを見ておりまして……内容は把握していますから再現いたします!」
「えぇ……!?」
「心配なさらず!お任せくだされ!」
勢い込んで言う彼は自信に満ちていた。
(再現……って。ベアトリーチェの手紙はいつもキュンキュンしちゃう感じよ?)
――エステッラは眉をひそめたがとりあえず、ペンと紙を持ってきて渡した。
彼はペンを持つと、サラサラと書き始める。よく内容を覚えているものだと、少し驚いていたが、出来上がりを見て――度肝を抜かれた。
《この前、エステッラお姉様がオススメのお店から人気のマカロンを取り寄せたの!そしたらスッゴク美味しくて、ベアトリーチェの頬っぺたが落ちそうなくらいキュンキュンしちゃった♡》
思わず、目の前の厳つい騎士と手紙を見比べる。
(ギャップありすぎでしょ!!)
エステッラは、思わず吹き出してしまった。
「あはは、ははは!」
「む、どうされた?」
ものすごく真面目な顔でリカルドが尋ねてきた。もはやその顔さえ面白い。
「あはは!……ゴ、ゴメンなさい!でも、おかしすぎて……!お腹が痛いわ!」
「腹が痛い?茶を共にしていただけなのに、急に腹が痛くなるなど奇怪な……もしや、茶に毒でも入っていたのか!?」
てんで見当違いなことを言っている。もう、笑い過ぎてお腹がねじ切れそうだ。
「ち、違うのです……ふふ!」
いまだ笑いが止まらない状態だったが、深呼吸して何とか落ち着くと、爆笑してしまった理由を話した。
「あまりにもお兄様が、ベアトリーチェの文体を完璧に再現するからおかしかったんです」
「なぜ、おかしいのです?厳密に再現したつもりですが?」
眉間にシワをよせ摩訶不思議といった様子で言う彼は、ド天然さんみたいだ。
「そう、完璧すぎたのです。リカルド様は騎士団長をなさっているのでしょう?見た目が厳ついあなた様が可愛らしい文章を書くからおかしいのではないですか」
「はあ……なるほど」
ようやく理解した彼は頬を赤く染める。
(恥ずかしいのね。ぷっ……笑える)
大きな図体を縮めて恥ずかしがる彼がエステッラのツボにハマった。
「うふふ、ベアトリーチェは素敵なお兄様をお持ちなのですね」
「そ、そういうわけでは……実は、オレが手紙を忠実に再現できたのには訳があるのです」
彼は息を吸うと改まって背筋を伸ばした。つられてエステッラも姿勢を正す。
「妹は今、病と闘っています。先月までは手紙を書く元気があったのに、寝たきりになってからは腕にも力が入らぬようで……オレがしばらく代筆していました」
「え……っ!?」
思いもよらない話にエステッラは大笑いしてしまったことを後悔した。
「ご、ごめんなさい!!事情があるとは知らずに笑ってしまって……」
「いや、いいんです。よく考えたら、妹の文体を完全にマスターしたオレも普通ではありませんでした」
彼の言葉は否定も肯定もしづらかった。
やけに窓を打つ雨の音が、大きく聞こえる。
「ベアトリーチェに言われた内容をオレが妹らしく書いて……あなたからの返信は妹がきちんと読んでいました。あ、オレも返信を書く時に見せてもらいましたが」
「そうだったのですか……。ベアトリーチェはお兄様に代筆を頼んでまで、私と文通を続けたかったのかと思うと胸が熱くなりますわ」
「そう言ってもらえると報われます。ありがとう」
目元にちょっぴり涙を溜めて話す彼はいい人なのだな、とエステッラは感じた。
「ベアトリーチェの容態はどうなのでしょう?」
「あと1週間で完全に回復するのではと医者には言われています」
「え……1週間?」
「はい」
もっと深刻な容態かと思っていたが、もうすぐ回復できるらしいと知って安心した。
「1週間で回復する見込みなのに、急ぎここまで手紙を届けにいらっしゃったのですか?」
「そ、それは、返事を心待ちにしているかもしれぬと思いまして……」
なんだか彼はまた顔を赤くしている。
「確かに返事が来るのを楽しみにしていましたが、お兄様がいらっしゃってビックリしましたわ」
「正直言いますと、ここに手紙を届けに来たのは、温かい手紙を書くあなたがどんな方なのか知りたかったのもあります。……実物は……想像していたより、ずっと……綺麗な方だった」
「え!?」
エステッラの顔も赤くなった。
自分の頬が熱くなるのを感じたエステッラは慌てて口を開いた。
「ま、まあ!……なんてお上手な!危うく喜んでしまうところでしたわ!あはは……」
「なぜ、そのようにオレの言葉を流そうとするのでしょう?オレは滝つぼに飛び込む勢いで言ったのだが……」
なぜ、“滝つぼ”……?と思ったが、一大決心をして言ったらしいので説明した。
「実は私、婚約者がいたのですが浮気されて解消したことがありますの。だから、それからは慎重になるようにしているのですわ」
「……不埒な輩のせいでそのような対応をされたのですか」
リカルドは手を握りしめていて、怒っているようだ。
「あなたを苦しめた者など、成敗して差し上げましょう!」
「いえいえ、確かに元婚約者は軍隊所属でしたけれども……」
「なんと!軍所属でしたか。それは都合がいい。名前は?」
「あの、ホントにいいのです!済んだことですし。 リカルド様ったら、少し過激ですわ」
苦笑いをしたが、笑顔を見たリカルドの顔が穏やかになる。
「……あなたの笑顔はひまわりのようですね。きっと、妹もそう思っているに違いありません」
やっと文通の話へと戻ってきた。ホッとする。
「こう話していると、おかしなものですわね。私とベアトリーチェとが手紙を交わさなければ、リカルド様ともこうして話すこともありませんでしたわ」
「……オレには運命的な出会いでした」
リカルドは片膝をつくと、エステッラを見上げてくる。
「リ、リカルド様、お立ち下さいませ!」
いきなり求婚しそうな勢いで話し出したリカルドに慌てた。
「いいえ。言わせて下さい。オレは心も姿も両方とも美しい女性を見たことがありません。どうかオレのことを真剣に考えてもらえませんでしょうか?」
リカルドの言葉は突然だったが、自分の中身も知ったうえで言ってくれているのだと思うと、この人を信じてもいいのでは、という気持ちになった。
「……では、まずは私ときちんとした文通からでお願いします。私がやりとりしていたのはベアトリーチェ本人だと思っておりましたし」
「それは、もっともです。宜しくお願いします!」
リカルドは立ち上がると、おそらく2メートル近くはあるだろう大柄な体を90度に曲げて深々とエステッラに頭を下げた。
――エステッラは今、忙しい。
元気になったベアトリーチェとその兄のリカルドから手紙が交互に届くので、返信を書くのに忙しかった。
「もう、2人して私のことが大好きみたいね」
2人から届く手紙を読みながら、照れくさそうにエステッラはくすりと笑った。
《エステッラ嬢、今度の休みにスイーツ巡りをしよう!この前の任務の時に良い店を見つけたんだ!》
《お姉様!今度、私とお洋服選びをしましょう!可愛いドレスを売っているお店を見つけたの!いつにする?》
こうして2人の手紙を見ると、兄妹だから思考が似ているな、と感じた。
「さて、どちらから先に返事を書こうかしら……」
エステッラは、頬を緩めながらペンを取る。
窓の外には、あの日と同じ雷雲が浮かんでいたけれど、今はどこか明るく見えたのだった。
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