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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【初恋解呪。編】

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第98話 岩手へ。

毎日が楽し過ぎてどうしようかと悩んでしまう程で、昇と決めたのは2度と子供になれないから子供でいる事、それでも大人じゃないと楽しめないことでも楽しむ事として、日々の全てを、1秒も無駄にしないように楽しんだ。


今までと本当に違うのは、お父さん達も、お義父さん達も、巌さん達も、子供でありながら大人のように扱ってくれて、旅行やキャンプや様々な事で楽しませてくれるし、巌さんは昇の夢の手伝いと言って、テキ屋仲間の所に連れて行ってくれて、食品バイヤーの勉強をさせてくれたりする。


何回も戻ってきている昇は、そこら辺の大人よりも知識も経験も豊富で、大人相手にも負けていないで、バリバリと仕事をしていく。


小学校の卒業式直前だというのに、昇は巌さんに意見を求められて、巌さんの友達のお弟子さんが営む居酒屋さんでやらかしてくる。

そこは巌さんのお友達のお弟子さんが独立をしたお店で、悪くないが良くない売上で、食材の仕入れから見直したいという事で昇が呼ばれていく。


相手は小学生が来て馬鹿にしているのかと思うがそうじゃない。


ひと口焼き鳥を食べて「合ってない」と言った昇は、大人相手でも容赦なく「炭と鶏とタレと塩が合ってない」と続ける。


子供に適当な事を言われたと思った相手がムキになると、昇は「鶏肉、名古屋ブランドで固めたでしょ?それなのにタレは東京に合わせようとした。バランスが崩れてる。それにこの炭だと火力が弱いんだよ」と言い当てて、「今から岩手に行くよ。岩手の小さなブランドだけど、そこの鶏肉ならこのタレにも炭にも合うよ。塩はなぁ…、金額的に利益がでるなら和歌山の奴にして、名古屋の鶏肉とのコンビで行くのがコスト的にもいいかも」と続ける。


お弟子さんは「岩手だと!?今からかよ」と言ってしまうと昇は豹変して、「今からだよ!こんなんじゃ鶏肉が報われないの!タレに使ってる食材も報われない!わかんない!?わかんないの!?わかんないなら今わかって!」と怒鳴りつけると、「おじさん!車か新幹線!」と言い、巌さんにスマホを借りると「曽房さん!かなたも連れてく!日帰りは無理だから宿代出して!」と言い、私達は30分で用意をさせられると巌さんと曽房さんの運転で岩手まで行かされる。


相手は昇の事なんて覚えていないので突然の小学生に訝しむが、昇は「戻ってきて!」と呼び戻してしまい、簡単に説明すると快く鶏肉を分けてくれる話になる。


「だけどまだこの時期だと生産数が足りねえからなぁ」

「大丈夫、タレ焼きだけに使うから、唐揚げとか塩焼きは、前の肉を使わせるよ!」


お弟子さんが「おい、本当に肉の種類を変えんのかよ!?」と言えば、茂くんは「うわ」と怯え、茂くんが誘って着いてきた梅子達は「キター」と喜ぶ。


私と言えば、自慢の旦那様の本領発揮にニコニコしながら昇を見ると、「おい。飲食舐めてんのか?春夏秋冬、晴れの日も雨の日も雪の日も嵐の日にも、大切に鶏を育ててくれてるオーナーさんに、『あなたの鶏肉はタレ焼きに適してるけど、種類を分けるのが面倒くさいから唐揚げにします。身が固くなって美味しくなくなりますけど、金払えば何やってもいいですよね?』って言うのか!?売れなきゃ廃棄してもいい、残されてもお金貰ってるからいいとか思うんじゃねぇ!食材の神に謝れ!鳥神様に謝れ!残ったらアンタが感謝しながら食うんだよ!お客様に食べて貰えなかったのは、仕入れを間違えて熱意が伝えられなかった私が悪うございましたって、謝罪文を書いて奉納してご先祖様に詫びんだよ!」と言って怒鳴りつける。


お弟子さんは涙目で「すまなかった」と謝ると、オーナーさんに「私に扱わせてください」と言い、オーナーさんはニコニコと笑顔で「私はいいんだけどさ」と言って昇を見ると、車から網と炭とタレを出してきて、「は?何売ってもらえるとか思ってるの?相応しいか見極めて貰うためにテストだよ」と言って、その場で焼き鳥を焼かせる。


「わ、おいしー」と喜ぶ春香に、昇は「これが俺の仕事だよ」と言う。

コレを理解できずに、寂しいとか言って昇を裏切った春香からしたら、顔には出さないが心が痛むだろう。

少し痛めばいい。


私と昇はニコニコと微笑み合う。


「昇、いい顔してるよ。やり切ったって顔だよね」

「おうよ。店で食べた時より格段に良くなったしね。オーナーさん、どうかな?」


「楠木くんの紹介なら安心だよ」と言ったオーナーさんは、「ウチの鶏をどうぞ使ってやってください」とお弟子さんに言っていた。


焼き鳥で幸せになってる茂くんが、「昇、今から帰るのはしんどいだろ?宿ってどうすんだ?」と聞いてきて、昇はオーナーさんに「風香さんの宿って行けるかな?オーナーさんみたいに、戻ってきてもらっても許されるかな?」と聞くと、「龍之介も戻ってこれるなら万々歳さ、夕飯が厳しくてもウチの鶏も差し入れるし、いつもみたいにあり合わせでいいんだろ?」と言ってくれた。


オーナーさんは電話を取り出すと「おう、龍之介。今からだな。16人連れてくから命燃やしてくれ」と言うと、電話先からは「おい!重三!なんだそりゃ!?ふざけんな!?」という声の後で、「風香!客だ!重三の奴が16人とかぬかしてんぞ!とりあえず米だけは炊け!味噌汁は芋煮会のレベルでやるぞ!」と聞こえてきた。


「にひひ。風香さんと龍之介さんのご飯は美味しいから、かなたも喜ぶよ」


昇が私に話しかけるのを見て、オーナーさんが「ん?この子が家で子供を育てながら、帰りを待ってくれる自慢の奥さんなのかい?」と聞いて、「あ!そうそう。まだ戻って来たてだから結婚はしてないけど、奥さんになってくれるかなただよ。かなた、オーナーさん、名前は沖ノ島さんね」と昇が教えてくれる。


「未来ですが、昇さんの妻になるかなたです。よろしくお願いします。私は何度も昇さんがお土産で持ってきてくれた鶏肉をいただいてましたから、ひと口食べてすぐわかりました」

「いやぁ、会えて嬉しいよ。初めての時もだけど、楠木くんはどうしても扱わせて欲しいって頼み込んできたり、今みたいにいきなり料理人を連れて来てテストしてさ」


「初めて主人の仕事を生で見ました」

「まあ、お子さんもいたし、遠方だから仕方ないさ、さあ龍之介が待ってるから行こう」


沖ノ島さんは言うと車を出してくれた。

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