第96話 邪魔されたくない朝。
翌週、泊まりに来た昇とコレでもかとイチャイチャするぞと思っていたら、期待で物凄い顔になってらしく、それをお父さんに撮られてしまったがそれすら楽しい。
もう2度と嫌だと思った小学校生活でもニコニコ笑顔になっている。
2週連続中華かと思ったら、昇は「トースターピザやりたい。かなたピザソースが食べたい」と言ってくれる。
「じゃあ生地は昇だよー」
「勿論だぜ!あ…茂のところの粉じゃない…」
「でも貰いに行くとお泊まりだよ?」
「やだな。市販品で我慢しよう」
そんな会話で始まるお泊まり会。
まあ、あまり深くを気にしてはいけない。
お父さん達は朝一番に神妙な顔をして、「かなた、2人の邪魔をしたくないから、お父さん達も旅行に行こうかと思うんだ」と言い出した。
「え?」
「ほら、遠くに行かないで、都内で宿を取ってのんびりする奴よ」
旅行が地方とかだと、最悪子供の立場で何か起きると面倒くさい。
だが都内なら問題ない。
トーストを齧りながら「…食費置いていってくれる?」と聞くと、お母さんは「勿論よ」と言って、不在は一晩だけなのに五千円札を握らせてくると、「2人でお風呂も素敵よね」なんて言って、バッチリメイクでウッキウキで旅立っていった。
なんでも昨日の晩に予約が取れたレストランのディナーと、その近くで取れたホテルの夜景が楽しみらしい。
今口走った2人お風呂は、私と昇のことなのか、自分たちのことなのか、私は考えるのを放棄した。
懐かしい夫婦生活。
大人の時と変わるのは、まだ背が低くて高いところのものに関して困る昇と、非力でお鍋なんかを持つことに困る私。
2人でピザを作って、楽しく焼いて焼き上がりを見つめ合いながら、これからのことを話す。
昇は年代ごとにこれまでのことを謝ってくれて、私が許すのをわかっているのに、それでも許す度に、「あんがとかなた」と言って、身を乗り出してキスをしてくれる。
私はキチンと最初の時、昇が忘れてしまっている部分、春香に言われてグラついたと思い込んでいる部分をキチンと伝えると、昇は「え?そうなの?忘れてたか…。よかったぁ。かなたを裏切ってなくてよかったよ。一木の奴、ついにスクショの捏造まですんの?最悪だよ」と言って呆れていた。
私達は進路の話もする。
昇が「高校は?」と聞いてくれたので、私は「大久保先生に会いたいから、また京成学院に行こうよ」と誘う。
色んな時間で出会った教師の中で大久保先生が一番だった。
昇もそれは受け入れてくれた。
「…まあそうなるよなぁ。教科書読み直したけど、少し頑張らないとマジで無理だわ」
「うふふ。頑張ろうね昇」
2人で皿洗い、2人でお風呂。
2人して「真由さんの言葉を借りたらぺたんこ」、「俺なんかツルツル」と照れ笑いをしながらのんびり湯船に身体を任せて、「かなたー、もっとくっついてー」、「昇ー、ぎゅっとして〜」と言って長湯をする。
そして布団の中で「する?」、「ダメだって。俺ツルツルだもん」なんて、答えのわかりきった話をしながら抱きしめあってキスを続ける。
我慢キツいけと薫と香の事を思って我慢をする。
ママ頑張ると漏らしていたら、昇が「パパも我慢してる」と言ってくれて笑えた。
私はつい、前回のルートでは昇に話さなかった、私がいつから昇の事が気になって好きになって、もっと好きになっていたかの話をしてみたら、昇はしっかり憶えてくれていた。
「かなたの写真を見た俺が感動をして、学校の中だけだけど香川達が格好つけて女子達と距離を置く中でも、写真の話をした時に気になってくれて、それなのに西中で一木に散々邪魔されて、俺はかなたに迷惑をかけたくなくて、距離を置くようになる。好きになってくれたのは、高校生になって食に興味を持った俺とバイト先で再会して、話を聞いて仕事に向けて受験勉強に打ち込む姿を見てくれた時だったよね。後はアレだよね。“鳥の方”での誕生日。俺の仕事を始めてみてくれた時だよね」
昇は言いながら「自分で言うと照れるな」と言ってから「ずっとあんがとかなた」と言って照れ臭そうにキスをして抱きしめてくれた。
私は嬉しさを隠さずに抱きしめ返して目を瞑ると幸せな気持ちのまま昇の右側で眠りにつけた。
朝も一緒に起きて、見つめあって笑い合う。おはようの言葉すら気持ちよくて、幸せな気持ちの中、2人で和食の朝食を作る。
朝食を並べて、再度見つめあっていると鳴る電話。
「すげーやな予感」
「お父さん達か、それとも茂くんかな?」
「毎週毎週はなぁ。新婚さんの邪魔すんなっての」
新婚生活なら7年くらいやってるけど、確かに人に邪魔されたくない。
「電話無視する?」
「ダメだよぉ。茂くんなら、きっと昇の家にかけて、お爺様がウチだって教えるもん。取らないとウチまでくるよ?」
凄く嫌そうに「…かなた、電話出て」と言う昇の気持ちに共感するように、私が困り笑顔で電話に出ると、相手は茂くんではなく曽房さんだった。
「桜さん、2人の時間をお邪魔して申し訳ございません。勿論お昼ご飯やお夕飯もご用意させて頂きますのでご同行願えませんか?」
「え?何処にですか?」
「大樹珈琲です。真由さんや華子達から、『今がいい』、『もう風が吹かないか心配だ』と相談をされました。それもこれも先週のお泊まり会もそうですが、皆ともう一度学生時代をやり直せるのが楽しみらしく、最高の最後にしたいと言われました。華子の奴も、今度はもっと楽しい人生にすると意気込んでまして、皆さんから風が吹かないか聞くように言われてしまいました」
確かに、それは一理ある。
いずれ行こうと思っていたので行く事に問題はない。
「折り返していいですか?昇の説得がちょっとだけ面倒で…」
昇は相手が茂くんだと思っているので、「かなたー、茂だよね?真由さんとイチャイチャしてなよって言ってことわんなよー」と言っていて、聞こえてきた声に、曽房さんが笑いながら、「華子が楠木さんに交渉を持ちかけると言ってますので、代わっていただけますか?」と言う。
なんだかよくわからないが代わると、向こうも華子さんに代わってて「あれ?華子さんだ。どしたの?」と言った後は、「え!?あー…?えぇ…、覚えていてくれる?何回?…箱?OK。かなたの説得?任せてよ。ご飯食べて着替えたら茂の家に行くよ」と言って昇は電話を切ってしまい、「かなた!ごめん!出かけよう!この埋め合わせは必ずする!2年後のためだからごめん!」と熱のこもった謝り方をされる。
この感じはイベント毎のたびに私を求めてくる昇に近い。何を言われたんだろう?
着替えながら華子さんから何を言われたかを聞いたら、「今日着いて行くと、中2になってボーボーになった時に、華子さんに言ったら避妊具買ってくれるって。しかも一箱分」と言う。
なるほど、そういう顔だったか。
だがまあ嬉しい。
昨日も思ったけど我慢が辛い。
大人になって結ばれた感覚を知って子供に戻るのはとても辛い。しかも毎回昇は16歳とか17歳で春香と結ばれるが、私は既定路線なら18歳の8月16日まで出来ない。
それが4年も早まるのなら感謝しかない。
だが気になったのは「一箱分」の部分だ。
「一箱分?」
「14歳で一箱貰っても期限内に使いきれないし、16歳まで保たなそうだから分納してくれるって」
おお、それはありがたい。
私が「やった」と喜ぶと、昇は「よかった。かなたも嬉しそうで俺も嬉しいよ」と言って喜んでくれた。




