表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるかかなた。  作者: さんまぐ
【遥か彼方。編】◆やり直し・13歳~15歳。◇過去と対峙する。
9/107

第9話 桜かなた。

かつて、かなたも春香も一木を毛嫌いし、皆それぞれ一木に泣かされた過去もある。

一木はわざと皆の前で優雅の浮気を春香にバラしてみたり、優雅の浮気相手が春香の所に乗り込んで来れるように言葉巧みに誘導し、学校名やバイト先をバラしたりしてた。


あの話した感じは、一切変わっていなかった一木幸平。

あの顔を見た時に、自分以上に春香やかなたの事を心配した。


かなたには浮ついた話が無かったから、一木に恋愛を台無しにされるような事はやられなかったが、一木が嫌がらせを行った時には、困る人を見て同調圧力で笑うように仕向けられて、嫌々笑顔を見せて自己嫌悪に陥っていた。

恋愛以外ではカメラを持ち出したかなたを、グループの撮影係のように扱って、現像代も払わずにお礼の一つもないどころか、逆に「え?俺のあの写真撮ってないの?カメラ持ってる意味ないじゃん」なんて悪態をついていて、かなたは「…ごめんね」と謝っていた。


それでも社交性を前に出して、皆が大人ぶって我慢する形で一木を受け入れていた。

人付き合い、共通の知人が多い一木と縁を切るのは、一木だけでなく周囲の人達全てと縁を切る覚悟がなければできなかった。その為に全員が一歩を踏み出せずに一木の存在を黙認してしまっていた。


優雅で言えば、一木による浮気バレは正直何度もやられていて一木を面倒臭がったが、一木が周りを盛り上げて皆で笑う事は好きだった。

かなたは全般的に嫌がっていたが、皆が受け入れるならと一歩引いて我慢していた。

春香は浮気を告げ口してきて、浮気相手を呼び込んだ事は恨んでいたが、優雅が受け入れていたから嫌がってはいたが、近くに来なければ気にしていなかった。

今思うと本当に変な集まりだった。


そんな事を思いながらこの先について考えると、多分ここが分岐点で、失敗すると春香もかなたも、堀切拓実達も困ることになる。


だが一木幸平に何かをしても、警察に駆け込まれて大騒ぎをされては良いこともないし、小岩茂と事を構えるのはもっと良くない。



昇は考え事をしながら帰宅すると、玄関で座布団に座りながらお茶を飲み、煎餅を食べて祖父母と話すかなたがいた。


昇が「かなた?」と声をかけると、かなたは心配そうに昇に駆け寄って「怪我は?殴られたりとかしてない?大丈夫?」と心配をしてくる。


「え?なんで?」と聞くと、「きっとあの嫌な奴なら、待ち伏せとかすると思ったからだよ」と言ってきて、身体をマジマジと見て怪我がない事を確認すると、「良かったぁ」と安堵のため息をついた。


祖父母はかなたと昇を見て、微笑ましい気持ちになりながらも険しい顔になって、祖父が「昇、何があった?言え」と詰め寄ると、祖母が「まあこのお嬢さんに聞いちゃったんだけどね」と続く。


祖母の言葉に唖然としながら、かなたを見て「え?かなた?言っちゃったの?」と聞く昇。


かなたはモジモジと「だって…。昇くんは黙って1人で我慢するタイプだもん。こうでもしないと…」と言うと、後ろで祖父母がウンウンと頷いてしまう。


そのまま祖父母の部屋に連行される形で、一木と小岩茂の話をすると祖父が、「よし、ジジイに任せときな。明日は婆さんとデートしてくるから、お嬢さんはウチに来てこのバカが暴走しないか見届けてくれねえか?」と言う。


「爺ちゃん!?かなたの予定だってあるんだよ!?」と言って昇が止めようとするが、祖母がかなたに「忙しい?」と聞く。

かなたは「昇くんのお家が迷惑でなければ、私もウチも平気ですけど…」と言い、祖父母が客人として招くと言うので、明日は一日中かなたといる事が決まってしまう。


話がまとまり、かなたが帰る時間になった時、昇は危ないから送っていくつもりだったのだが、かなたを含めた3人からダメ出しをされてしまう。


昇は外を指さして「でもさぁ。かなた1人じゃ危ないって」と言うと、祖父は胸を張って立ち上がり、「ジジイを舐めんな。こう言う時のための年金よ!」と言うとタクシーを手配してしまう。


そして15分後に来たタクシーに、かなたの住所を伝えて大まかな金額を聞くと、「釣りなんていらねぇ。代わりにこの子がキチンと家に入るのを見届けてくれ」と言って、そこそこの額を渡してしまう。

タクシー運転手はホクホクで「必ず!」なんて言うし、祖母はかなたに「ごめんなさいね。お婆ちゃんは心配性だから、帰ったらお電話頂戴ね」なんて言っている。


かなたは「はい。わかりました」と言ってタクシーに乗り込むと帰って行ってしまう。


昇は呆れ混じりに「爺ちゃん…。お金」と言うと、祖父は「バカヤロー。お前に貰った命の恩返しだ。まだまだ年金から払ってやるからな」と言ってから昇を捕まえて、「知ってる事を全部話せ」と言って再度祖父母の部屋に連れて行った。


昇は前の世界の話だとすぐに気付き、「一木幸平は前の世界だと、俺とかなたと一緒に西中に居たんだ。そこで散々やらかしてくれて、俺はアイツのせいで二年の頭から夏まで小岩茂の標的にされた」と説明を始める。


そこに春香も泣かされた事や、春香と付き合えても、その先の研修で上田優雅とよりを戻すように仕向けられて最悪の結婚式に参列した事は言えずにいた。

だが、それでも十分に危険性は伝わる。


「だから危険性を知っていて避けたのか」

「さっきのかなたちゃんをうまく誘導して情報を引き出して、皆に注意を促したのね」

「うん。アイツはとにかくテレビのバラエティ番組の司会みたいな真似をして、周りを笑い物にして楽しむような奴で、自分勝手で嫌な奴なんだ」


ここで祖父が、何故前の時間では自分もまだ生きていたのに、春から夏までのワンシーズンを小岩茂の標的にされたのか、さっきのかなたみたいに助けてくれる子は居なかったのかを聞いてくる。


昇は言いにくそうな顔をした後で、「前提としては、思春期になった俺が人に頼るなんて出来ないって思ったこともある。中学入学当時はかなたと仲良く話した事もあったけど、一木が邪推していちいち皆の前で騒ぎ立てるから、すぐに距離を取っていたんだ。後は爺ちゃんはずっと調子が悪くて、毎日イライラしてて、こんなに話す関係じゃなかったんだよ」と言うと、祖母が「お爺さんは調子が悪くなると不機嫌だものね」と相槌を打つ。


「うん。後は母さんが悪いわけではないけど、母さんの言葉も理由の一つかも。西中には小岩茂が居て、孤立したら終わりだから友達は作っておけって言われてさ、でも皆小岩に巻き込まれるのが嫌で、助け合いなんてしなかった。それで孤立しない為にも、一木みたいな嫌な奴とでも居たほうがマシかもって思って、何を言われてもされても我慢してたんだ」


祖父は「馬鹿野郎。家族なんだからキチンと言え!」と言って、昇の頭をガシガシと撫でると、「前の時は悪かったな。助けてやれなくてよ」と言ってくれて、昇は心の奥が熱くなり、「あれ…俺中身はもう25なのに」と照れながら泣いていた。


話中にかなたは無事に到着したと電話があり、祖母がかなたの母と話して挨拶と情報交換を済ませたりしていた。


その姿を見ながら祖父が「なあ昇」と声をかけてくる。

昇が「なにさ?」と聞くと、祖父は「おめえ、あのかなたちゃんとはどんな仲なんだ?」と聞いてきて、昇はごく普通に「え?同じ小学校出身ってだけだよ」と答える。


「前の時間は?」

「え?小中が同じで、さっきも言ったけど、中学は一木がいて煩かったから、今みたいにはできなかったし、高校は別だけどバイト先が偶然同じで、そこからはまた連絡したりする仲になって、社会人になって仲は続いていたよ。こっちにくる前の日も一緒にいたし」


昇は祖父の質問が気になり「爺ちゃん?」と聞くと、祖父は「いや、ああいう子がお前にはいいんだよ。大切にしとけよな」と言う。


昇は少し考えたが、すぐに春香が出てきて、「ないない。かなたは誰にでも優しいんだよ。俺が勘違いしたら迷惑だって」と言って笑い飛ばすと、祖父は呆れ顔で「まあそれでもいい」と言ってから真面目な顔で、「とりあえずここで奴らをやっつけんぞ。そうしねえと、被害があのかなたちゃんにまで行っちまう。それだけはダメだ」と言った。


昇は「え?まさか爺ちゃんって隠れた格闘家とかで、小岩の家に乗り込んで全員やっつけてくるの?」と聞いてみると、祖父は「ばかたれ」と笑ってから、「俺はそんな真似しねえよ」と言い、「任せな。命に変えても守ってやるからな」と言って笑った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ