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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【初恋解呪。編】

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第85話 春香を戻す。

梅子が呼んだのは、春香ではなく春香のお父さんで、訝しげにエントランスまで降りてきた春香のお父さんは、梅子を見て「え…と、とりあえず町屋さんだったね?話ってなにかな?この人達は?」と聞いてくる。


春香のお父さんに戻ってきてもらうと、目を丸くして昇を見て「昇くん!?それにかなたちゃんに小岩くん!会田くんに曽房さんに昇くんのお爺様まで」と驚いたところで、昇が「細かい説明は後でもう一度しますけど、俺とかなたと後1人のせいで、俺達は何回もこの世界に戻されてて、今まではかなたしかその事を覚えてなかったんですけど、今回は俺も覚えていて、俺が手を繋ぐと思い出してもらえるんです。今回で終わりにする為に今日はきました」と説明をする。


「じゃあ、昇くんは今度こそ春香と?」

「それはないです。優雅との結婚にしても、その後の事にしても、俺が散々春香を信じて友達に戻ったり、やり直そうとしても裏切られたし、おじさんが知らなくても、俺とかなたが結婚したり付き合おうとすると、春香が割り込んでくるんです。俺は俺を待ってくれて、双子の子供を産んでくれたかなたと結婚します」


とんでもない事を口走る春香のお父さんを見て、皆が怖い顔をしたが、昇はごく普通にそれを拒否して私の名前を出してくれる。


「俺は、それでも俺の初恋は春香だから、恩のある春香を助けたい。一木と優雅に春香が泣かされなくしたいし、かなたは大変な目に遭っても春香を助けようと言ってくれたから、今日来ました」


キチンと言う昇に、残念そうに肩を落とした春香のお父さんは、「仕方ないね。娘は散々君を裏切った。上がってくれるね?春香にも思い出してもらおう」と言ってマンションの中に入る。

春香の家までの間に「昇くん?なんで先に私にしたんだい?」と昇に聞くと、昇は「え?春香って先に会おうとしても逃げ出すタイプですし、それにお父さん達に戻ってきて貰わないと、誤魔化して逃げるだろうし」と答えると、また肩を落とした春香のお父さんは、「そうだね…。娘があんなに嘘つきだとは思わなかったよ」と言った。


…昇はキチンと見ていた。

それこそ、あの最初の時、昇が覚えていなかった結婚式後の時間のように、キチンと物事を理解していた。

本当に初恋の呪いが昇の目を曇らせていたんだと私は納得をした。



春香のお母さんも戻ってくるとすぐに昇に謝り、私たちにも感謝と謝罪をしてくれた。

春香のお父さんよりまともなのは、春香とやり直してほしいとは言わずに、「春香を見捨てる事もできたのに、来てくれてありがとう」と言っていたことだ。


困惑一色なのはまだ幼い春香だ。

春香を見て茂くんは「…俺もやられたけどキツいからな」と呟く。

そんな茂くんはまだ茶髪で痩せているから見た目も怖い。


春香からしたら、何故か父親は歓迎してリビングにあげるし、母親も子供相手に泣いて謝っていていて子供扱いすらしていない。

聞こえてくるワードも「春香を見捨てる」だったりして落ち着かないだろう。


部屋の隅で小さくなる春香を、春香のお父さんが「来なさい春香」と呼ぶが、もうそれは数分前までの父親の声とは違う。

まだこの時の春香は「いい子」だとしても、前回でいえば、父親の知る春香は6年後の、人生の決断の大半を他人任せにして、嘘と保身で周りを裏切り、嘘と言い訳を平気で口走る汚れた娘になっていて、向ける目もそれになっている。


困惑しながらも昇の前に呼び出された春香に、両親が「楠木昇くんよ。こっちは桜かなたさん」、「こっちは知っているね?小岩茂くんで、その横は小岩くんの彼女の中野真由さんだ」と紹介していく。


「山野…春香です」と警戒する春香に、昇は「はじめましてと久しぶり春香」と言って手を取ると、「思い出して」と穏やかだが少し冷たく言った。


春香はすぐに目を丸くして、「の…昇…?かなた?茂くん?真由さん…に、会田くんに梅子…、曽房さんと昇のお爺さん」と言った。


昇はやはり春香に厳しい目は向けられないのだろう。

言い方は冷たいが、穏やかな眼差しで、「戻ってきたね。久しぶり。俺たちは21歳から戻ってきたんだ。春香は?」と声をかけると、春香は周りと自分の手を見ながら、「わ…私も21歳。前の日はお父さんの会社の人と…」と言ったところで口籠る。


変わらない。

これだけでわかる。

今この瞬間にも昇との仲を模索して、なんとかしようとしている。


「お見合いしてたんだよね。知ってるよ。少し年上の人で、春香のお父さんのオススメで、真面目で仕事ばっかりで、恋愛はからっきしの人。うまく行ったら大学を卒業して、仕事をしながらその人とお付き合いをする約束なんだよね」


私が口を挟むと、あの18歳、高校三年の二学期の始業式、一木と上田優雅の前で春香の秘密を暴いた時と同じ顔で、「なんで…かなたが…?」と言った。


「ネタバラシするね」と私は言ってから、昇の手を掴んだまま離さない春香の手を離させて、「昇は私の旦那様だから手を離してね」と言う。


春香は驚いた顔で「え?それは高校の時で…あの後」と言ったが、「うん。一木から『昇は春香が忘れられなくて、桜とは別れたよ。学校で宣言したから表向きは婚約者みたいになってるけど、昇は春香を待ってるよ』って言われたんだよね?全部一木の嘘だよ」と被せるように言ったら、春香は目を丸くして私たちを見る。


昇が「春香、最初の時も俺はかなたと婚約をした。でも優雅と結婚をした春香は一木に乗せられて、離婚を前提に別居をしたから俺にもう一度会いたい、話がしたいと言ってきた。最終的に俺はそれに乗せられてしまいかなたを裏切った。そうしたら春香はまた優雅に戻った」と口にする。


実際は違う。

あの時の昇はただただ被害者だった。

前の8月7日は一木が狙っている理由は言えなかったから、曖昧に誤魔化して伝えた。

だが本来は、昇は最後まで私を想ってくれて春香の誘いには乗らなかった。

春香は私と昇が住む家にまで押しかけてくると言い出して、昇は私を守る為にも電話をするとメッセージで伝えただけなのに、一木がそのスクリーンショットを手に入れると、私を裏切るようにも読める文章に合成して、周囲にばら撒いて昇の居場所を全て奪い取った。

その結果、昇は絶望して失踪してしまった。


誤情報なのに春香は否定しない。

今の感じ、やはり昇にも記憶に抜けが生じている。

全部ではない感じがする。


春香の両親も覚えていないか知らなかったのだろう。目を丸くしてから春香を睨む。


「その後の事も、全部なのか俺も怪しいけど、春香も戻ってきてるよね?一緒に東の京高校に行った時、かなたが先に俺と付き合ってくれた時、『私の方が昇くんを好きだよ』ってきてくれた。俺がかなたに失礼な真似はできないって言っても、『それでも』って何回も言ってくれた。俺は1度目のこと、それも春香の結婚式当日までの記憶しかなかったから、どん底から救い上げてくれた春香と今度こそ、優雅より先にって思って、かなたとの事を終わらせようとしたら、別の高校に通った一木が連れてきた優雅の方に行って、俺とは何もなかった顔をした。それどころか優雅に、『昇がかなたと付き合っているのに、私に二股をかけてて困ってる』ってメッセージを送って一木がそれを拡散した」


あの時は正直辛かったなぁ。

あの時、はじめて春香の呪いを解かないと、何をやってもダメなんだと思い知らされた。

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