第84話 更に戻す。
一通り笑った昇が「そろそろ呼ぶか」と言って、「ほら、茂。手をつなげって」と、言って無理やり手を持って呼び戻すと、驚いた顔で私たちを見て、「昇?桜?親父?お袋?真由?修さん?」と言った後で、「にひひ。お帰り茂。俺たちの最後のやり直しに付き合ってよ」と昇が言うと、「お前、また?」、「桜、あんなに頑張ってたのに」と言いながら青い顔になると、突然土下座を始めて「昇!許してくれ!すまなかった!」と言い出す。
「かなた、どれの事だと思う?」
「んー…、裸土下座じゃない?」
「そっちか、まあ無理やり飲酒喫煙は茂が土下座するようなのじゃないよね」
「あー…西中の時のか、それならお小遣い没収かもしれないよ?」
私達のやり取りに、曽房さんが「坊ちゃん…」と言って呆れて、房子さんと巌さんが「お前…」、「本当ロクデナシだねぇ」と続き、真由さんが「子供かよって子供だよ」と笑っている。
「茂?とりあえずどれ?」
「全部だ!すまなかった昇!!」
「いいってば。とりあえずまたここからだけど、楽しくやってこうよ」
「許してくれるのか!?」
「心の友だろ?薫と香にも好かれてんだから変な事は忘れようよ。とりあえずさ…」
「髪は黒にする!早寝早起き3食食べる!勉強も今から始める!」
「ああ、それは絶対だけどさ、茂も東中に来なよ。今度は中学から楽しもうよ」
「なにぃ?」
「おお、懐かしい。茂の「何ぃ?」だ」
「本当だね」
「そうじゃないだろ昇!東中に行ってどうすんだよ!?」
「かなたの為だって。今度は本当の終わりにするんだよ。だから今までとは何もかも変えるんだ。ずっと頑張ってくれていたかなたには、毎日新しい事で笑顔になってもらいたいんだ。だから茂、頼むよ。俺と一緒にかなたを楽しませてくれよ」
驚いた…。
昇がそんな事を考えていてくれたなんて思わなかった。
目を丸くする私に、昇が「目指せ!生徒会長小岩茂!」と言って微笑んでくれる。
「何ぃ!?ふざけんな昇!」
「ごめんな茂、満場一致で決定なんだ」
その瞬間にノリのいい皆は「賛成」と手を挙げて、私はそれだけで嬉しくてたまらなくて泣いて笑ってしまった。
私の涙を見た茂くんは「くそっ…」と漏らすと、そのまま「じゃあ昇は絶対に風を吹かせるなよな」と言う。
「わかってる。絶対にしないよ」
「よし、なら春香には関わるなよな」
「あ、それ無理。今からかなたと助けに行くし、茂も行こうよ。真由さんも行こう」
「何ぃ!?」
「ちょっと昇くん!?何考えてんの?」
真由さんは「にひひ」と笑う昇を見て話にならないと思ったのか、私を見て「かなちゃん!?」と、止めなくていいのかと聞いてくる。
「あはは。提案したのは奥さんの私だよ。春香の事も一木と上田優雅から守るの。でも、私と昇は夫婦だから邪魔させないよ」
「えぇ?いいの?」
「いいのー、皆で行こう。あ、でもまだ茂くんて誤解されてるのか、どうしよう?」
話した結果、会田晶と町屋梅子を戻してみて、上手くいったら2人経由で春香の家に行くことになる。
外に出て、私はまたと思っても、懐かしい街並みに、昇と真由さんはテンション高く盛り上がる中、私と茂くんは並んで歩いていて、「昨日も並んで話して、今日もって不思議だな」と茂くんが言った。
「ごめんね」
「何がだよ?」
「既定路線に乗せたくて、いつも長話してる事とかかな」
茂くんも全てではなくても記憶が戻っているのなら、何回もあんな話をしたのは嫌だろう。
「なあ桜?」
「なに?」
「あの会話、何回もしてるけどよ」
「うん」
「昇の事、好きなんだよな?愛してるよな?」
茂くんは真由さんと前を歩き、お爺様に注意される昇を見て深刻な顔で聞いてきた。
一瞬、会話の意味がわからなかったが、すぐに茂くんの言いたいことがわかった。
「勿論だよ。ごめんね」
「桜?」
「あれは既定路線の会話だから、昇を愛していたって言ったのは昔の私。勿論愛してるよ。あの後、何回もやり直して、結婚をして、子供と暮らして、その度に愛は消えずに募るばかりだったよ」
それを聞いた茂くんは嬉しそうに笑って「良かった。本当に良かった」と言ってくれた。
この後はまあ大騒ぎにはなる。
面識のない私達と茂くん、真由さん、お爺様に曽房さんの無茶苦茶な組み合わせ。
でも無事に会田晶も町屋梅子も戻ってきた。
「え!?ここなに!?小6?なんで昇と桜が?え?だって昨日は曽房さんの結婚式で…」
「にひひ。まあ後で話すよ。春香の家に行きたいんだ。会田って春香呼べる?」
「春香ってお前…、あんな振られ……ん?あれ?前にも元サヤに戻ったけどまた振られて?ん?それ以外も…なんだこれ?」
「おお、そんな昔の事も覚えてるとかやるな!」
「…なんでそんなに余裕なんだよ」
「にひひ。最強の奥さんのかなたが居てくれるからだよ」
「えっと…?なんとなくだけどさ、ここのメンバーってもう顔見知り?小岩なんてまだ小6だけどもう仲良しなの?」
「おうよ。んなわけで春香だ。とりあえず町屋を呼ぼう」
会田くんはなんだかんだ、この頃から梅子と連絡するくらいの付き合いがあったので、呼び出して戻してみると会田くんと顔を見合わせて赤くなる。
「ん?どしたの?」と聞く昇に、「えへへ。梅子と会田くんは、昨日、曽房さんと華子さんの結婚式に当てられて、仲良くお泊まりからのお付き合いが始まりました〜」と私が楽しそうに報告をすると、「何ぃ!?」、「おめでとう!」と茂くんと真由さんが喜んで、昇も「マジかーって、なんで俺知らないの?」と聞いてくる。
まあ前回やその前で言えば、昇には言えてない。
この報告と同時に、お祝いムードの中で春香のお見合い話が割り込んできてしまう。
だが、その前の時なんかはそこから既定路線を外れたので、昇は知ってるはずなのに知らない所を見ると、どうやら私とは違って全部は覚えていない感じがする。
本人達は真っ赤な顔で「なんで桜が知ってんだよ!?」、「かなた?」と聞いてくるので、「まあ、何回も戻らされてるからね〜」と言って笑っておいた。
梅子も春香の名前には眉をひそめたが、私が言い出した事と、昇が2度と惑わされないと言ってくれた事を信じて、皆で春香の家を目指すと春香の家は大騒ぎになる。
突然、見ず知らずのお爺さん、曽房さん、そして恐怖の代名詞、反社と誤解されている小岩茂と知らない生徒達が襲来する。
「昇、どの順番だ?」
「え、そりゃあ、おじさん、おばさん、春香だよ」
私はその顔を見て少しだけホッとする。
昇の顔は少しだけ意地悪をするつもりの顔で、昇としてもこの約150年の裏切りの連続には頭に来ているのがわかった。




