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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【初恋解呪。編】

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第82話 想定外の風が吹く。

朝、目を覚ましたら、目の前には白い色の天井。

昨晩はホテルに泊まった。

12歳に戻らされる、「やり直しの風」を吹かせない為に、少し割高のホテルにした。


パーティドレスのままホテルに行って、映画のカップルのような時間を過ごして、昇の好きなアレまでした。私もアレは嫌ではない。

楽しい2人だけの時間。


けだるさの中、耳元で囁く昇の「かなた、あんがと」の声に、「私こそありがとう昇」と返して眠りについた。その時に見た天井はクリーム色だった。

翌日の日曜日は帰りながら買い物をして、家でのんびりと過ごそうと思っていた。


それなのに白い天井だった。

横を見るのも怖い。

嫌な予感に囚われて二度寝をして誤魔化そうとした。


でも心は…心臓は早鐘のようになっていて、とても眠れたものではない。


手を見たくない。

また子供の手に戻っていたら、もう百何十年も生きてきた。

今度こそ愛する人と生きて、愛する人の子を産んで、愛する人との終わりを迎えたかったのに、また愛する人の初恋を形だけでも応援して、不貞を働かれて壊れてしまう彼を繋ぎ止めて、心を治して、今度こそと誓いあい2人で生きていく。


今回で終われるのならまだ頑張れるが、もうこうなると何をやっても話にならないのかも知れない。


死ねば終われるのか?


もう何回も考えた。

でも今は終われる以上に、自分の胎内から生まれてきてくれる2人の命にまた会いたい。


「薫、香」


毎回、涙が溢れてくる。ここ最近は幼い子供達を思うと今まで以上に涙が溢れてくる。

慟哭の涙。慟哭の叫び。


この声に反応して父母が部屋に来て、「どうしたんだい、かなた?」と聞いてくれる。


私が全部説明すると、荒唐無稽な話なのに、2人とも信じてくれて、優しく抱きしめてくれて、「今度こそ大丈夫だよ」と言ってくれる。


「でもまたダメだったよ」と言って泣くと、「それでも諦めちゃダメだよ。僕達はまたかなたに会えて嬉しいよ」、「本当よ。帰ってきてくれてありがとう。かなた」と言ってくれる。


何十回繰り返しても、この瞬間はお婆ちゃんになった私の心に染み渡る。



それがわかっていても私は声を上げて泣いてしまう。



「かなた!?」

「何があったの!?」


階下から聞こえる父母の声。


お父さん、お母さん、月曜日からごめんね。


「病気かしら?」

「日曜日だよ?休日診療でいいかな?救急車を呼ぶ?まずはかなたと話そう」


え?月曜日じゃない?

戻される日は必ず月曜日なのに?


それだけで混乱してしまう。

だがそれよりも混乱したのは次の瞬間だ。


「あ!やべ!今はまだ合鍵ないんだ!」と外から昇の声がした。


けたたましく鳴るチャイム。


玄関を開けたお父さんの「楠木くん?」の声に、「お義父さん、お義母さん!ごめんなさい!待ってて!」と昇の声が聞こえてくると、一心不乱に真っ直ぐ足音が近付いてくる。


小学校6年生の昇はうちの前まで来ていても、家に上がったことはないのに…。


そう思っていると「かなた!」と名前を呼びながら部屋に入ってきた昇は、小学生の昇だった。



「昇…くん?」


設定を思い出して「君付け」で呼ぶと、昇は照れくさそうな顔をして、「俺もなんか初めてだけど、コレまでに生きてきた全部の記憶があるよ。またここからだけど、今度こそ2人でやり直そう、今度こそ俺たちの子供達と次の日を目指そう」と言って抱きしめてくれた。


え?

知ってる?

150年以上戻されてきて、初めての事に目を丸くしてしまい、悲しみとは違う涙が出てきてしまう。


私も昇を抱きしめ返して、「長かったよ」、「辛かったよ」、「孤独だったよ」、「ずっと一緒にいて」、「2人ぼっちでいいからいて」、「早くあの子達に会いたいよ」、「もう私だけを見ていて」と言って泣きじゃくってしまった。


昇はなんべんも「ごめんかなた」、「本当にずっとありがとう」、「ずっと一緒だ」、「早く薫と香に会えるように頑張って大人になる」と言ってくれてから、一番欲しかった言葉…。


「もう春香に惑わされない。俺はかなたしか見ない」


ずっと欲しかった言葉を言ってくれた。

それがまた嬉しくて、もう一度声を上げて泣いてしまった。


私は子供子供した寝間着なのが恥ずかしくて、「昇、着替えるから待ってて。昨日はガウンだったのにね」と照れ隠しをすると、「あの姿までまだ10年もある」と返してきた昇を見て、本当に昨日の事も覚えているし、「春から秋は辛いなぁ」と漏らしていて、夢じゃないとわかって嬉しかった。


部屋の外で目を丸くするお父さん達に、「着替えたら説明するね。少し待ってて」と声をかけると、昇がとんでもない事を言い出した。


「んー…?爺ちゃんには効果あったけど試すか」

「昇?」


「なんか超能力?」と言った昇が、お父さんの手を取って「思い出して」と言うと、お父さんが驚いた顔で私達と自分の手とお母さんを見て、「覚えている。私も覚えている」と言う。


そのまま「かなた!覚えてるよ!お父さんも一緒だ!昇くんも覚えてくれたんだね」と言ってくれた。


「昇?何やったの?」

「よくわかんないけど、かなたのところに行きたくて、朝一番に着替えて家を飛び出す俺を捕まえた爺ちゃんに、『待っててくれって!くそっ!覚えてねえのは面倒だな!思い出してくれたらいいのに!』って言ったら、爺ちゃんが『マジか!?俺まで覚えてやがる。また戻ってきたんだな?お前は何よりもかなちゃんの所に行け!これ以上悲しませんな!』って言って送り出してくれて、手を繋いで思い出せって念じると上手くいくのかと思ったんだよね」


そんな夢みたいな事があるのかと思ったが、よくよく考えれば今の状況も夢みたいなので、受け入れて着替える間に昇はお母さんにも同じ事をしていて、お母さんは「昇くんが覚えてるなら問題なしね。お母さんはコレステロールに気をつけて、今の若さを満喫するわね」なんて言っていたが、後でこっそりと「おめでとう」って言ってくれた。

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