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はるかかなた。  作者: さんまぐ
【外伝:一木幸平に風が吹くまで。】

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80/107

第80話 一木幸平が楠木昇を壊すまで。

一木幸平は担当と手を組み、上田優雅と山野春香の式の価格を徐々に釣り上げ、担当者を気持ちよくさせながら、全ての見どころなんかを聞いていく。


結婚式を無駄金と思っている一木幸平は、無駄金を支払う上田家、山野家を嘲笑うように細々と釣り上げて、それも周りに話して嘲笑っていく。

周りも他人事と、日々のストレスでおかしくなっていて、一緒になって笑うか放置していて、一木幸平を止めようとする人間はいなかった。



後は出欠を募る段階になって一木幸平は楠木昇の勤務先を調べた。

破局から約2年、勤め先が変わっていたら面倒だったが、楠木昇は勤め続けていた。


地元で調べると、母親から勤め先の名前と最寄り駅を聞いていた人間がいたので、そこから勤め先を調べ上げ、勤め先に電話をかけて、どうしても連絡を取りたがっている友達がいて調べていると言うと、電話に出た人間は、この世の中なのにバカみたいに教えてしまった。


これにより楠木昇の連絡先が手に入ったので、一木幸平は地元に根回しをしている間に上田優雅と山野春香に楠木昇の説得を任せる事にした。

まあ、マルっと任せると失敗しそうなので、上田優雅には春香の名前を出すように言い、山野春香にはケジメと言うように仕向けた。


仮に来なくても問題はない。

上田優雅と山野春香を使い、会社や取引先に対して、上田優雅と山野春香と昇の馴れ初めを広めて、結婚式に参列して欲しいと言っている元彼女のお願い一つ聞けない心の狭い人間として言いふらして、顛末を地元で広めて笑い者にしようと思っていた。



だが、昇は諦めたのか結婚式に参列すると言った。

その結婚式は一木幸平的にも大成功だった。

ずっと泣きそうな顔で酒を煽る楠木昇をひたすら見て笑い者にした。



式当日前、壁役の上田優雅と山野春香の所に山野春香の両親が金額面の苦言を呈しても、山野春香は「私は決めてないから優雅に言ってよ」で、上田優雅は「人生で一度ですよ?パーっとやりましょうよ」で話にならない。


子供達が自費でやると思って賛成したのに、ある程度になって上田優雅の両親と共に呼ばれると、式場の人間に向かってスポンサーと紹介されてしまう。

まだ、割合的には春香を嫁に貰う上田優雅の親が5割、嫁に出す山野春香の親が3割で、残りを子供夫婦が払うが、上田優雅の稼ぎでは2人の新生活には無理があって、援助も求められているし、断ろうにも「春香が恥ずかしい思いをしても良いんですか?」なんて、まるでこちらが人でなしのように言われてしまう。


聞いて行けば、夫婦で住むことになっている、とても身の丈に合わないマンションの更新料まで、上田優雅の両親が払うらしいので、これ以上言う事は、山野春香の両親は少額で怒る狭量な人間と思われる変な状況になってしまう。


更に意味が分からないのは、近所や会社で部下から「山野さん、娘さんが大事なのね。独立後も生活費、援助するそうじゃない」、「課長、お嬢さんの為にいいマンションに住まわせてあげるなんてマジ凄いっすね」と先に言われてしまって、様々なものに今更NOとは言えなくなっていた。


それは一木幸平がさっさと調べ上げて根回しを行っていたからだったが、誰一人その事には気づいていなかった。

言い換えればそれどころではなかった。



結婚式に話を戻せば、楠木昇を呼ぶ事について、事情を知っている山野春香の両親が説教ギリギリの苦言を呈しても、山野春香は「その事は優雅に言ってよ。私はどっちでもよかったの。そりゃあ会いにくいけど、優雅から見てもらうべきって言われただけ、昇には『ケジメじゃないけど来て欲しいな』って優雅と一木に言われた通りに言っただけだよ」だし、上田優雅は「昇?アイツにはキチンとケジメをつけるためにも見せてやるべきですって、いつまでも俺に負けた事を引きずっていたら、この先幸せになれませんって、俺と昇は友達だから平気ですよ。どうやって説得したか?『春香がどうしても参加して欲しいって言ってるから頼むよ』で一発でした」としか言わない。


そうじゃない。

恥とか何もないのか?

目は節穴なのか?

耳には周りの声が聞こえないのか?

考える脳みそはどこに行った?


山野春香の両親は大学生の頃、春香をこれでもかと大切に扱ってくれた昇と春香の結婚を疑わなかった。

だが、昇の就職が決まり、皆でお祝いをしたのに、“何故か”聞こえてきた噂では、昇が研修に行った直後に、春香は浮気性で振った元カレの上田優雅と不貞を働き、そのまま不誠実で曖昧な態度で昇の事を振ったと言うより捨てた。


山野春香の父親は、昇と付き合った春香から散々優雅の愚痴を聞いていた。

なのに昇ではなく優雅を選んだ。

その事に対して反対をしたが、最終的には“何故か”周囲に反対している事が出回っていて、子離れを勧められたことや、小中学生の頃の優等生だった春香を信じるように言われてしまったことで、春香を許してしまった。


だがこれはない。


こんな人として最低な事をしておいて、独立した大人として、こんないい加減な態度や生き方でキチンとやっていけるのか?


山野春香の両親は心配でたまらなかったが、周囲は“何故か”いろいろなことを知っていて、とても今更結婚も結婚式も辞めますなんて言えない空気になっていたし、反対されても「反対してもらったし今回は見送る」と言い出せない、ギリギリの人数の知人達からの問い合わせや苦言に、山野春香の両親は疲弊していた。


お節介な知人や親戚の中には、山野春香に直接言う者もいたが、とにかく話にならない。

数年前に会った時、楠木昇と付き合っている時の山野春香は、しっかりとしていて会話になったが、今の山野春香は「結婚式?私はどっちでもよかった」、「結婚?優雅に大丈夫だから結婚しろって言われたから」、「生活の内容?夫になる優雅に従うだけ」と主体性や自主性が欠片も感じられなかった。

そうなると、言おうと思った言葉が言えない分も全部山野春香の両親に向かってしまい、娘を説得・説教をする時間は、全てそういった善意の知人達の対応に追われてしまっていた。



暗雲は立ち込めている。

だが、一木幸平は、正直ご破算になっても、それはそれで笑い話にできるが、今回の関してはご破算にさせない為にも、情報収集に力を注ぎ、根回しを欠かさず、その全てを周囲にばら撒いて嘲笑った。


当日もまだ若い親族に全てを話した。

結婚式の時はまだマシだったが、一木幸平の暴露により、披露宴では親族の誰もが祝わない式になった。


それだけではない。

一木幸平は初見の山野春香の友達には上田優雅の女癖の悪さ、女性遍歴、そして楠木昇の素晴らしさと、その楠木昇が行く3ヶ月の研修生活すら耐えきれずに、上田優雅のアプローチを断れなかった事を言いふらし、上田優雅の友達には春香の事をあの楠木昇に一度でも転がった女、上田優雅の事をあの楠木昇に負けた男として言いふらした。


これにより友人達も呆れ返る結婚式。


しかも本人達はお花畑満開で、周りの挨拶程度のお祝いの言葉を間に受けてしまっていたし、山野春香は一木幸平と上田優雅の勧めで、楠木昇のケジメになる為にも率先して「幸せになる」と言葉を贈っていた。



最高だった。

笑ってしまうようなスピーチも、ビビリで他責思考の山野春香は、ここまでやらかしたのにその事に気付かず、人並みの失敗を恐れて、夫になる上田優雅にスピーチの草案を相談する。


だが、上田優雅は「知らねえよ。なに書いたって平気だって」としか言わない。


そうなれば結婚式のブレインとして活躍している一木幸平に白羽の矢が立ち、一木幸平が「これなら笑われないよ」なんて適当なことを言い、山野春香のスピーチには「一度離れてみて優雅の良さがわかった」という一文を入れさせる事ができた。


そのやり取りで上田優雅も「幸平、俺の方も任せた。やってくれ」と言い出したので、「沢山の女性との縁を持ち、その中で初めての彼女だった春香は特別だった」という一文を入れた。


これを読み上げた時の周りのどよめき、白い目、嘲笑と言ったらなかった。

それをかき消すような感動的なピアノの生演奏。

どよめき、白い目、嘲笑に気付かない滑稽な新郎新婦。

恥ずかしさにただ打ちひしがれる互いの両親。


そしてそれ以上に今にも気絶しそうな楠木昇の顔。

一木幸平は楽しくて仕方なかった。




そんな楽しい結婚式は終わりを迎えた。


衝撃の連続で、誤魔化すように酒を飲んだ楠木昇は、酔い潰れて二次会に連れ出せなかったが、それならそれで楽しみ方はいくらでもある。


二次会は昇を悪く言うムービーをコレでも撮り、まだまだ上田優雅達には見せないが、結婚式を嘲笑するムービーも沢山撮った。


そして一木幸平は出し時を見逃さない。

今は楠木昇だけを追い詰めていく。


普通の神経なら昇を貶める映像を見れば元彼女は怒りそうなものだが、山野春香は一木幸平と上田優雅がやらかしただけで、自分は怒られない、嫌われない、楠木昇なら「春香は悪くない」と言ってくれる事がわかっているので、我関せずで無視をする。



これにより一木幸平は更に場を乱す行動に出た。


上田優雅に「俺って女に興味…勿論男にもないって、こんな俺でも結婚とか恋愛に興味出るように新婚旅行のムービー送ってよ」と頼み込むと、「仕方ねーなぁ。まあ幸平もそろそろ女の1人くらい作れよな」と言って、新婚旅行のギリギリ見せられるムービーがコレでもかと届いた。

ギリギリなのは、事後を思わせるはだけた寝間着姿の上田春香が目を覚まして「おはよう優雅。何撮ってるの?」なんて言ってるムービーや、本来なら夫婦2人だけのオフショットが届いてしまっていた事だろう。


これらをトークルームに放流していく。

それをいずれ見た楠木昇が傷付けば、傷付いた噂は聞こえてくるからその時に笑い者にすればいい。


それよりも今は上田優雅と上田春香の方がやり甲斐があった。



同じ穴のムジナという言葉がある。

上田優雅の大学で出来た友人の中に、シモが緩いおかしな女が沢山いた。


上田優雅が好きだったのに。

上田優雅が結婚しても、恋愛に寛大で奔放ならいいのに。

そんな事を口走っていた女達が式中にいた。


女がではなく、女達がだった。


人間性より見た目、そして結婚をして他人のモノになったせいで、よりよく見えてしまうバカそうな女達を見つけた時、一木幸平は次の獲物を見つけていた。


早速、新婚旅行から帰ってきた上田優雅を話があると言って呼び出し、結婚式の写真を見せながら、この写真の相手が優雅に未練があるから、キチンと話して諦めさせるように言うと、上田優雅はこれ幸いと浮気を始める。


新婚早々の浮気は、常軌を逸した行動だが、上田優雅からすれば簡単な話だった。

上田春香は学生時代から特別感を出しておいて、気のせいだとして物語を用意すればそれを鵜呑みにする。実際上田春香は追及して嫌われることを嫌っているので、逃げの一手で鵜呑みにしてしまう。

それ以外で言えば、浮気相手に関しても、既婚者という安全な存在と思わせることもできるし、既婚者で慰謝料なんてものは「無い」で逃げおおせる気になっていた。


上田優雅は一木幸平を隠れ蓑にして、本当に会社の飲み会に行く日もあれば、一木幸平を言い訳にして飲み会に行き、上田優雅をいいという女達と会わせて、一次会で解散して、夜の街どころかホテルに消えていくまでをキチンと確認し、出てくる所までおさえておく。


そしてその間に家で1人待つ上田春香に「新婚生活はどう?楽しい?」なんて聞いてみる。


上田春香は当然、新婚で妻を放置してくる夫へと不満を口にする。

一木幸平はそのスクリーンショットを周りに広めて、上田春香こと山野春香は浮気性の夫にウンザリしているが、それなら楠木昇を裏切って捨てなければよかったと言って周りからバカにするコメントを引き出す。


それにより、上田春香が友達を頼り愚痴を言っても、周りは上田春香の愚痴に対して、どんどん冷たい対応を取っていくことになる。



上田優雅の浮気生活、不倫生活は止まるところを知らなかった。


一木幸平が合コンを企画する。

それは一応、恋愛未経験の一木幸平に彼女を作る会なので上田春香公認なのだが、相手は見た目とノリの良さで上田優雅を選ぶ女どもばかりをチョイスしておけば、大概上田優雅は女を1人お持ち帰りしていく。残った女とは、また次回合コンを行い、その時には友達を紹介してもらう。芋づる式で果てしなく上田優雅は浮気を続けていき、一木幸平はその全てを収集していた。


楽しい日々だった。

上田春香が孤立して憔悴する日々、上田優雅が女どもを貪っていく日々。


それらをコントロールして、笑いと称賛を獲得していくと思っている一木幸平は日々が楽しくて仕方なかった。


この笑いで親は納得してくれるだろうか?

ふとそう思う。

やはり何かが違う。

思った通りの賞賛は手に入らなかった。


そうなると、段々と楠木昇が気になるが、トークルームを見ても既読は増えない。4、5人が結婚式後から未読のままで、その中に楠木昇もいると思っていた。


それは一木幸平は何個もトークルームを用意していたから把握できた事だった。

中学の集まり、アルバイトの集まり、上田優雅と遊んだことのある奴らの集まり、様々な集まりに楠木昇を参加させていたが、上田優雅と上田春香のネタを流してもつかない既読があったからだった。


消去法で昇だと思っていた。


上田春香を振り切ったのかはわからないが、一木幸平がやりたかったのは、近々、バラさずとも上田夫妻は離婚の危機を迎える。

その時にそこに楠木昇を投入したかった。


そして上田春香が山野春香に戻ろうとしたり、楠木春香になろうとした所で邪魔をする。

仮にそれを振り切っても、上田優雅には結婚式の借金も、不倫相手達のことも残るから、まだまだ楽しめるし、笑いも取れる。

楠木昇にはこれまでの上田夫妻のムービーを見せれば憔悴するし、こんなドロドロの仲で地元に戻れるわけもない事で楽しめる。笑いは十分に取れる。

いざとなれば住所は控えてあるので、仮にブロックされたとしても上田春香の名前で手紙でもなんでも出せるし、ダメージが大きそうな会社にも出そうと思っていた。



今度こそ十分な結果を出して親を納得させよう。

そんな頃に耳に入ってきたのは楠木昇が桜かなたと婚約したと言う情報だった。



揚々と地元に現れて仲睦まじく過ごす楠木昇と桜かなた。


一木幸平は周りの話を聞き、眉唾物だと思ったが、何故か放置できずに連絡を貰ってすぐに確認しに行くと、本当に楠木昇と桜かなただった。


物陰からチラ見した楠木昇の幸せそうな顔には少しだけ苛立ちを覚えた。


別に桜かなたに関して思うところがあるわけではない。

同性愛者で楠木昇に関して思うところがあるわけでもない。


本当に何があるわけではない。

勝手に、ちちくり合ってくれて構わない。

単純に、調子づいている風に見える楠木昇が嫌すぎただけだった。


楠木昇は小さなミスすら許されず、笑い者にされ続けて、卑屈な顔でビクビクオドオドしているべきで、それを壊れるまでオモチャにして、中学校生活の時のように、それこそ豪雨のような拍手喝采を浴びたい。


一木幸平は深夜番組の司会者のように皆を笑わせて、流石だと言われたかった。

こここそが腕の見せ所で、周りを楽しませて笑わせたい。

その結果を持って両親を納得させたい。

その気持ちしかなかった。


最初は桜かなたと付き合っているのであれば、遂に隠しカメラを家中に仕掛けることも考えたが、それでは十分な笑いが確保できない恐れがある。

やはり楠木昇には上田春香で壊すのが一番ウケがいい気がしていた。


一木幸平は手段なんて選ばなかった。

できる手を尽くし、隠してきた上田優雅の不貞を上田春香に伝えて、離婚前提の別居に持ち込み、ひたすら昇を売り込んだ。


すぐに上田春香は昇に会いたいと言い出し、話がしたい、やり直したいと言った。


だが、桜かなたが思いの外頑張るのか、楠木昇は中々上田春香には飛びつかなかった。

それは色々なトークルームに上田春香と一木幸平のメッセージのスクリーンショットを晒して、上田春香の居場所を滅茶苦茶にしても変わらなかった。



だが、いよいよ上田春香が桜かなたと同棲していても関係ない。楠木昇の家に行くと言い出した時、楠木昇は上田春香と電話をすると言い出した。


一木幸平は待ちきれなかった。


言うなれば、功を焦った。


上田春香からは楠木昇とのスクリーショットをもらう手筈にしていた。

それは男として女性にはわからない部分について意見するから、楠木昇に会えるようにするからと説き伏せていたからで、一木幸平は手に入ったスクリーンショットを画像編集ソフトで捏造した。


その内容は電話で話そうと言っていたものとは全く違う。

桜かなたを捨てて、上田春香を選ぼうとするものだった。




一木幸平はその日は仕事を休んで、夜中から捏造画像を作り、午後1番にそれをばら撒く。

夜中のうちに上田優雅に「春香を迎えに行かないと、昇とヨリを戻すような事を言ってるよ?」と言って、上田優雅を操作して、朝一番に上田春香を迎えに行かせる。


上田優雅は浮気と不倫と不貞を誤魔化したまま「幸平が、結婚式で俺に未練がある女達がいたって教えてくれたんだ。春香に迷惑が行かないように内々に処理しろって言われたから密かに会ってて、心配になるよな。大丈夫、諦めてもらっただけだって」と言わせていた。


山野夫妻はそれが嘘だとしても、楠木昇同様に、持ち家なのに逃げ場を封じられ、ローンも残っていて、地元を捨てる事も不可能で、ここで更に噂をばら撒かれてしまうと老後の生活も立ち行かなくなる。

こうなると逆転の筋道は娘が幸せになる以外存在しない為に、茶番のような与太話を受け入れる。


上田春香なんかに至っては、面倒事から逃げるようにコロっと信じて、一木幸平にまでお礼のメッセージを寄越した。

一木幸平はその全てを、捏造画像まで含めてばら撒いた。


楠木昇は婚約者の桜かなたを裏切った。

楠木昇の気配を察知した上田優雅は余裕を捨て、浮気相手達を捨てて妻の元に戻る。

上田春香は上田優雅を信じて、頑張ろうと思う。


これはとんでもない騒ぎになった。

トークルームのタイムラインが加速して、スマートフォンの通知が鳴り止まず、バッジがあっという間に100近くなった。



親が心配しても関係なかった。

実家で高笑いをして喜ぶ一木幸平。


遂に願いが成就した。

結実した。


後はこの空気感を衰えさせずに拍手喝采を浴びて、その証拠を両親に見せてお笑い養成所への入所を認めさせるだけだと思っていた。



昇の破壊を目的とした中学とアルバイトのタイムラインでは、上田春香に白い目を向け、浮気を隠した上田優雅に呆れと軽蔑、そして楠木昇には桜かなたを裏切った事への憤りのようなもので溢れる。


上田春香の知り合い達は、最後の機会すらフイにする上田春香に本気で呆れ返り、もう縁を切ろうとまで言われている。


上田優雅の方は、簡単に捨てられたと理解した浮気相手達が黙っていなかった。


地獄の門が壊れて魑魅魍魎が現世に溢れ出てくるようなタイムラインに、一木幸平は身体を震わせて笑い死ぬ寸前まで笑っていた。



だが、それは長くは続かなかった。

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