表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
はるかかなた。  作者: さんまぐ
【外伝:かなたに風が吹くまで。】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

76/107

第76話 かなたが夢見た未来と、知った裏側。

かなたと昇の付き合いは順調だった。

2人はキチンとかなたの両親に電話だが挨拶をした。


付き合ったくらいで顔を出すことはないと、昇の立場を察した会話運びをする。


それはかなたも昇に「地元には一木君達がいるから、まだ行かなくていいよ」と言っていた。


「ごめんかなた」

「そんな事ないよ」


かなたは昇に気にしていない事を伝えて交際が始まると、2人では本当に順調だった。


キスをしたら真面目なかなたは昇好みのキスがしたいと言って、一日中練習をした。

昇は無意識だが、好みのキスの後は露骨に嬉しそうな顔をする。

かなたはそれに気付くと、それを見たくて沢山練習をした。


結ばれたのは記念日ではないがクリスマス。

初めてのかなたを昇は丁寧に大切にリードした。


年越しを2人で過ごして、キスも結ばれるのも馴染んできた頃、昇は真っ赤な顔で「かなたごめん」と言い出す。


「春香には頼めなかったけど…、してもらいたい格好…と言うか…してみたいプレイと言いますか…ダメかな?」


かなたはすぐにいいとは言わずにどんなものか聞くと、スマートフォンをアダルトサイトに繋ぎその映像を見せてきた。


かなたは目を白黒させたが、昇の顔が本気でかなたを求めている顔で、好みのキスをした後のような、あの顔をしていて断る気はなくなっていた。


「…今?」

「いつでもいい!心の準備が終わってからでいいんだ!」

「見たい?」

「見たい!」

「したい?」

「したい!」


あまりの熱量にかなたは笑ってしまう。


「仕方ないなぁ、いいよ。でも夜ね。少しでも人が起きてる時間は恥ずかしいよぉ」

「やった!ありがとう!」


その日の昇の熱量は果てしなく、かなたは本気の昇に圧倒されたが、喜んでもらえて嬉しくなっていた。


かなたはバレンタインデーにはチョコレートプリンを作って贈った。

前に食べてみたくて作った時、家族には甘さ控えめな味付けを悪く言われたが、昇は飛んで喜んでくれて、演技だと思ったら本気で、次の土日も食べたいと言われて、生チョコも作り、山盛りのチョコレートプリン、チョコレートプリンで作ったパフェを昇はペロリと食べてくれた。


「昇くん、それ私の好みの甘さなんだよね。お母さん達には甘くないって不評なの」

「えぇぇ?凄い丁度いいよ。何個も食べられる甘さで、俺の大好物決定だよ!」


驚くかなたの問いに、身振り手振りで喜ぶ昇の顔はキスをした時の顔で、本気さがそこからも伝わってきた。


「嬉しいよ。私と昇くんは相性バッチリなんだね」

「本当だ。俺も嬉しい。かなたあんがと」


昇はかなたを抱き寄せて「あんがと」、「ありがとう」、「かなた」、「大好きだ」を何度も言っていた。



本当に2人では順調だった。

4月まで沢山出かけて、沢山料理をして、沢山過ごした。

その写真でかなたがくれたアルバムが埋まったところで、昇は「よし」と言う。


「かなた、アルバム埋まった記念にご飯行こうよ」

「うん。いいよー。次のアルバム買うねー」


そこで昇はかなたに婚約を申し込んだ。


「ありがとうかなた。アルバムが埋まって、すごく幸せな写真で何度も見返してるんだ」

「私も昇くんのウチに行くと見ちゃうよ。私こそありがとうだよ」


かなたは「はい、新しいアルバム」と言って2冊目を渡した時、昇は「ありがとうかなた」と言う。


その顔が普段と違っていて、かなたが昇を見ていると、「結婚、してくれないかな?」と聞いてきた。


かなたは夢を見てるのかと勘違いして一瞬止まってしまった。


「ダメかな、これからも沢山かなたと楽しい事とかしたいんだ。沢山アルバムを増やしたい。アルバムの為に楽しい写真を撮るんじゃなくて、楽しい事をした写真でアルバムを増やしたいんだ」


そう言った昇はかなたに指輪を出して、「サイズは寝てるかなたの指で測ったから平気だと思うんだ。受け取ってくれないかな?」と言った。


かなたは嬉しさに感涙して「ありがとう昇くん。私こそよろしくお願いしますだよ」と言い、かなたと昇は婚約をした。


アルバムの1枚目になった、2人で写る写真にはとても暗雲なんて立ち込めていなかった。


かなたはその写真を見るたびに、幸せな未来を夢見て疑わなかった。




かなたは油断したつもりはなかった。

だが、一木幸平という人間の異常性を推し量れていなかった。


あの、中学校の時、偽のラブレターで呼び出されて笑い者にされた同級生が、怒りのままに殴ろうとしたら、一生つきまとい、人生の節目で暴力を振るったことを公表して人生を台無しにする事を示唆されて何もできなかった事。

その怒った姿まで通学路の掲示板に貼られ、崩れ落ちる姿まで晒して喜んだ一木幸平を思い出すべきだった。


婚約をしたからには両親に会わせる必要がある。

かなたはどこか別の街のお店を昇と探して、そこで顔あわせをするべきだった。

だが、婚約で浮かれてしまったかなたは昇を地元に連れ帰った。


地元は騒然としてしまう。

本当に一木幸平は沢山の人たちに昇の写真をばら撒き、昇の人となり、失敗談の全てを話し、地元から心休まる場所を奪っていた。


そしてあっという間に一木幸平の耳に、かなたと昇の話は届いてしまう。

一木幸平はやる事もあり、用心深く事態を注視し、すぐに行動には移さなかった。


それもあり、桜家も楠木家もごく普通の顔合わせが済んでしまう。


かなたの家は昇を歓迎し、あんな事があった事を知っていても、それでも昇の人間性は知っているから祝福してくれた。

昇の家も同じだった。

昇は家に連れていった春香に酷い振られ方をし、親にただ関係解消になったと言う前に、一木が発信した面白おかしく誇張された情報が、ご近所さんから回った事、親が昇の報告より先に、昇に電話をかけて真相の確認をしてしまった事で疎遠になってしまっていた。


それが突然連絡をしてくると、かなたを連れて行くと言い、婚約した事を報告する。


その、春香以上の仲睦まじい姿に両親は泣いて喜び、祖父母の遺影に向かって両親が喜んだ時、昇は照れながら「母さん、婆ちゃんのレシピノート貸してよ」と言った。


そこには昇の祖母のおはぎの作り方、お汁粉の作り方、あんこの炊き方が書かれている、


和菓子好きのかなたの為、そしてかなたに小豆の生産者の美味しい小豆でおはぎを作って欲しい昇の気持ちと、祖父母を亡くして落ち込む昇を見た事のあったかなたは、意思を汲んでおはぎを作りたいと言っていた。


かなたはノートを大切に手に取って写真に収めようとすると、昇の母は「持っていって。私は何度も作って作り方は頭に入ってるの。でもお義母さん程美味しく作れなかったけど、かなたちゃんなら作れるかも」と言ってくれてかなたは頷いた。


「ありがとうございます。頑張って昇さんに喜んでもらえるおはぎを作れるようになります」


かなたは精力的におはぎ作りを頑張った。

なかなか美味しいあんこが炊けずに難儀したが、かなたはレシピノートが古い事、今とは世の中が違う事に気が付いて昇に相談する。


「かーっ、婆ちゃんってば手抜きしたな。誤差をレシピに書かなかったんだ。これ大昔の小豆と砂糖で作ったときのレシピで、隠し味のハチミツも多分何かが違うんだ」


昇はレシピノートとかなたの意見を聞いてすぐに違いを見抜くと、小豆の生産者に電話をして、昔と今の小豆の違いを教えてもらう。


「一番は皮の硬さですね?ありがとうございます!」


昇はかなたと試行錯誤をして、ようやく思い出の味に近づけて、昇の家でかなたの両親と共に顔合わせをした。

本来なら妻になるかなたの家に行くのだが、仏前におはぎを備えて8人で顔合わせをしたいと言ったかなたの意思を汲んだ結果だった。


顔合わせでも、昇の母は泣いてかなたに感謝をし、かなたの両親も昇の真面目さをキチンと知っていて、かなたの気持ちに向き合ってくれて喜んだ。


本当に顔合わせまでは問題なかった。

順風満帆と言える内容だった。




だが、その裏側は無茶苦茶な事になっていた。

一木幸平が暗躍をしていた。


一木幸平がある種大人しかったのは、上田優雅、上田春香夫妻の仲が結婚一年であり得ないくらいズタズタになっていたからで、それの原因であり、さらにそれを引っ掻き回して楽しんでいたからだった。


その一木幸平からすれば、昇とかなたの婚約と家族との顔合わせは最高のタイミングだった。



慶事には人の口は軽くなる。

勿論ゴシップもだが、慶事なら言って構わないだろうとなり、すぐに顔合わせをした事まで一木幸平の耳に入る。


ある日、仕事帰りのかなたの元に、疎遠気味だった女友達から[かなた婚約したの?]と一件のメッセージが入った。


かなたは疎遠気味だった女友達から届いた事実よりも、届いたメッセージの内容に総毛立った。

即答でそうだとは言わずに、すぐに[誰から聞いたの?]と入れると、[皆知ってる]、[飲み会で聞いた]と入ってきて、すぐに一木幸平を疑った。



そして一木幸平を疑ったかなたは、未読のまま放置していたトークルームにも婚約について何かあるかもしれないと思い、トークルームを開けたらとんでもない事になっていた。


昇を苦しめたい以上に、この状況を楽しみたい一木幸平は、春香と一木幸平のトーク内容のスクリーンショットを貼っていた。


そして言い訳で、[優雅、春香を困らせたらダメだよ。昇の方がいいって思ったらどうするの?]と続けていた。


春香と一木幸平のトーク内容は散々たるものだった。


新婚旅行から帰ってきて[一木、ありがとう。一木が優雅に言ってくれたお陰で、優雅と結婚できた。結婚できて良かったよ]と送った春香のトークから、徐々に新婚生活の不満。日々帰りが遅く、土日も派手な外出はするが、家の中ではどこか投げやりな、釣った魚に餌は与えないような優雅の態度に不満を抱く春香。


[優雅が帰ってこない]

[そんなに飲み会ってある?3日連続だよ?]

[それはさ、私は結局就活失敗したし、優雅の稼ぎで暮らしてるけど、ウチのお父さんと優雅の家の援助もあってやってるのに、今日も飲み会だよ?]


かなたは気が遠くなった。

それは結婚後半年も経っていない。

まだお盆明けの事だった。


その後も10月の春香の誕生日は盛大に祝うし、12月のクリスマスと年末も、わざわざ身の丈に合わない豪華なモノにしていて、その写真がタイムラインに置かれている。

写真の春香は笑顔だが、それ以外では優雅のワイシャツにキスマークが付いていたり、スマホを持ってトイレや風呂に行く姿に春香は疑心暗鬼になる。



一木幸平に誘導されている事もわからない愚かな春香。


[昇がいいとか言っちゃダメだよ?昇に辛い想いをさせて、結婚式で祝ってもらったんだからね?]

[わかってる。幸せになるよ]


そんな事を送ったと思えば、すぐに昇のよさを思い出させるような事を言ったりする一木幸平。

春香はその度に面白いように、[そうだよね。昇はそんな事しなかったよね]、[うん、優雅と結婚するって決めたから頑張るよ]とコロコロと意見が変わる。


[所で俺にばかり話してるけど、結婚式にいた友達は?相談できないの?]

[皆して優雅を悪く言うし、昇と付き合っていればこんな思いしなかったんだって言うんだよ。皆途中から私が悪いって言うし、だから相談なんてできないよ。キチンと聞いてくれるのは一木だけだもん]


一木幸平は春香を手玉に取る。

夜中に写真を送り、すぐに送信取り消しをする。


[夜中のやつ…なに?]

「間違っただけだよ。優雅には俺からも言ってるから、そのうち伝わるよ]

「ねえ、写真、なんだったの?教えてよ]

「春香には関係ないよ]


疑心暗鬼になった春香はもう止まらない。


そして優雅を悪く言い、昇の方が良かったという言葉を引き出すと、それを諌めるような事を言うが、その内容を優雅に送り、優雅が怒ると、怒られた春香に「あまりにも優雅がわからないから、あえて見せたんだよ。少しくらい優雅は慌てた方がいいよ。結婚してすぐから浮気なんて間違ってる]と爆弾を投下していた。


これが5月の、つい先週の事だった。


そのスクリーンショットすら載せて、[優雅、あえて晒したけど、誠実になりなよ。皆が見たんだから誤魔化せないよ]なんて言っていた。


そして一木幸平はかなたの既読を、かなたと思うか、昇と思うかは別として、既読がついた事に喜び更なる攻勢に出ていた。



かなたはそれを知らずにどうするか悩む。

かなたを愛するようになった昇は、かなたの表情の変化を見逃さない。


「かなた?何かあったの?」

「…ううん。なにもないよ」

「嘘だよ。わかるよ。教えてよ」


かなたは昇の優しい眼差し、向けてくれる愛情、そしてその全てを曇らせる一木幸平と春香の存在に泣いてしまう。


かなたには正解がわからない。

でも、昇の顔を見て、昇の「俺達は夫婦になるんだ。だから打ち明けてよ」の言葉を信じて、昇に知り合いからメッセージが来て、婚約がバレていた事、そこから一木幸平を疑ってしまい、見てしまったトークルームの話をした。


昇はかなたの「2人ぼっちでもいいから、私は昇くんを悲しませる人達と縁が切れて構わないよ」という言葉を貰ってからは、トークルームは非表示にしていて、通知も出さなくしていたし、風邪で寝込んでいる間に春香を振り切り、アルバムをかなたと処分した時に、完全に過去の事にしていて、気にもしていなかった。


だから今の今まで春香の事も何も知らなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ